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第47回(なんにも穿かずに失礼してます・その14)

「じゃあ、ビジター前の広場でごろすけの挨拶、わたしのアイスブレイク、でもって3グループに分かれて湖畔へ下りていく、でいいんだね?」

「アイスブレイク、何やるか決まったの?」

「うーん。無難にデートゲームにしようかと」

「するってぇと、アイスブレイクまでで最低20分はみておかなきゃダメか…」

「かかり過ぎる?」

「世論調査はどうかな…今回、結構色んな所から参加者来るし…」

「あ、そっちの方が手軽でいっか。うん、そうしよう」

 事務室の一角に置かれた長机を、小動物、やまぬぇさん、ごろすけさんが真剣な表情で囲んでいます。品数は少ないけれど、温かでおいしいお昼をいただいて元気回復、しかし午後も来訪者はいなさそうなので、2人と1匹の手が空いてる内に打ち合わせをしてしまおうという事になったのでした。打ち合わせの内容は、年明け早々、当ビジターセンターが20名程度の参加者を迎えて実施する自然体験イベントに関することで、担当スタッフである小動物らの役割確認、体験内容の吟味と配列、時間管理、安全管理等々、多岐にわたっています。こういう自然体験プログラム、このビジターセンターでは日常的に提供されているものなんだけど、その時たまたまその場にいた来訪者から少人数を募り、短時間で実施するものもあれば、事前に広告を打って人数を集め、時間は日帰りから何泊かまで様々に設定して提供する、規模の大きなプログラムもあります。今回小動物らが担当するのは9時集合当日15時解散、主に中学生以上を対象にした日帰りのプログラムのようですネ。園内の本日の寂しさが象徴的であるように、果たして冬の自然公園にどれだけ人が来てくれるものだろか、当初は懸念されていたようですが、いざ広告を打ってみればあっという間の満員御礼、企画を立てたのはごろすけさんだって聞いたけどすごいね。当ビジターセンターで働く人は自然の良き理解者であり、接客上手であり、ヒットする企画の立案者でもありまして、さらには必要な展示物も自分たちで作っちゃうからクラフトマンでもあるよね、とにかく多芸な人たちばかりです。ちなみにね、小動物の奴も色々考えたり作ったりしてるらしいよ。ちっ。なんか癪よね。

「…なんだな」

 この場では書記も務める小動物は、口の中でぶつぶつ言いながら、今はまだ記憶の糸に繋がれ2人と1匹の間でふわふわしている言葉たちを、道具の力を借りて固定しようとします。それは生意気にも出来る感じのタイピング技術、小動物愛用の MacBookPro のキーボードが、きゃつのしなやかな、あまりにもしなやかな肉球とそれに連なる十指によって、打たれる! 打たれる! 打ちまくられる! こうして議論の内容はやっぱり生意気にもそれなりに要約され、現時点では二値の羅列にて固定化されるのです。ええい、やっぱりなんか癪なのよ。

「そりはそうと、そろそろ本質を語ってはどうかね」

 いくら知り合いっていってもさすがに仕事中の2人と1匹の中には入れず、暇を持て余している様子の女神様が、瞳孔を縦にすっと細めてわたしたちを見るのです。はて、その意味ありげな猫目はなんでございましょう、暇してるならもう一度散策してくればいいじゃない、ほら、まだムササビの巣箱とか見に行ってないだしょ? とにかくわたしたちはお一人様の慰み者じゃないのないの、綺麗な体のまま風ちゃんに嫁がせて。

「…」

 うにゅ。じゃあ、ちょいとばかりエレちゃんが皆様のお目を拝借、これをお伺いいたしやしょう。なにかってゆーとね、まぁ語られた通りさみゅーはこの自然公園のビジターセンターで働く職員なんだけど、例えば同僚のやまぬぇさんやごろすけさんは普通の人間だし、そもそもこの自然公園自体が、ちょっ! ちょ、ちょ、ちょちょっと女神様、何いきなりわたしたちの領分に立ち入って、自然保護と人心慰撫の両立を目指して人間が設け人間が管理しているものでしょ、わ、わ、わ。ダメ、ダメ、ダメ。そんな、体を自由にするんじゃなくて。心の襞にそのままで突き入ってくるなんて。くっ。ええっ、虚しく勝ち誇るがいいわ、心は自由にされても体は! ん、なんか違うな。あらっ。また猫目。

「そ・ろ・そ・ろ、本質を語ってはどうかにゃ?」

 きりきり言うにゃ! えーっと、そう。本自然公園は人間が維持管理するものでございますね、即ち何らかの職種への採用は当然人の間から選考されるものですよ、それをさみゅーというこの小動物様の生きものは市販の履歴書とA4一般的な書式の職務経歴書とを応募書類として提出し、書類選考を通って社会人採用の面接に赴き、人間の面接官に堂々やる気をアピールして、怪しまれることなく人間に採用されちゃって、そして今は先程もご覧に入れた通り人の間で働くのは当たり前、始めてこの施設を訪れた人々だってきゃつを見て問題にする人は一人も居らず。だってねあなた、人語を解し操る小動物でっせ。だからこそ怪しまれない? いやいや。…そうなの。これ要するに、きゃつもメル変だってことなの。ぐぬっ。つまり。つまりはこいつも。風ちゃんを狙う害悪。何故にこう無駄に多いのかしら。かしら。

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