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第44回(なんにも穿かずに失礼してます・その11)

 開いたリュックから女神様が取り出したる物は、ん、プラスチックやスチロールのトレーですか、それらはみんなラップでくるんであって、ってこれスーパーで買ってきたまんまの豚肉やエリンギじゃん、うおっ、更にはピーマンにんじんの袋に4分の1にカットされたキャベツなんぞも。これらも全て未開封とか値札が付いてるとか、やっぱりどこかでお買い求めてそのまんまな物であるご様子。最後に保冷剤幾つか。お肉が傷まないようにですか、用意がいいですネではなく。なんですかこれ。え、もしや。実は女神様生食だったですか。生肉食うの? やだ人食。無能無害を装ってホントはそういう系統の女神様うっかりカミングアウト。あっ。もしかしたら風ちゃんが危ない。女神様が居候として風ちゃんと一つ屋根の下に居たがるのは。おかしいと思ってたの、その割には風ちゃんに対してどこか淡泊だし。つまり含みは無かったのね、そのまんまの意味でおいしくいただこうって腹づもりだったのね。

「いやぁ、さすがにそのまんまの意味は無いなぁ」

 女神様は頭を掻きつつ、困ったように言います。なに。じゃあ含みはあると?

「そうだねぇ…」

 そこでなんで俯くの頬を染めるの瞳に艶を宿すのやまぬぇ嬢とごろすけ嬢が思わず手を取り合い身を捩りつつきゃーっとか言っちゃうほどの有無を言わせぬ乙女充、ええい含み増してどうすんだヨ、こらっエレナさん色っぽーいじゃありません不等号を突き合わせての羨望の眼差しもおよしなさい、やまぬぇさん。

「ん。今はまだ人肌恋しくないから、メル変っ子たちは安心したまい」

 女神様は目を逸らせて素っ気なくはぐらかすようだけれど、ほっぺがほんのり桜色な所になにがしかの駆け引きを感じなくも無く。みんな、こうやって事あるごとに女神様に翻弄されるのは、やっぱりわたしたちと風ちゃんの間に減数分裂を経たかすがいが無いからだと思うの。然り、我らは含み有っての物種ぞ。含んでやる。意を新たに。風ちゃん。ぐふ、ぐふふ

「さみゅー、これでなんか作ってよ」

 ふふ。夜討ち朝駆け最上等、ん? わたしたちが脳内で攻城戦のシミュレートにあれこれいそしんでいると、女神様が両手に食材を抱えてそんな事を言います。言葉をかけた方を見れば、事務室とは続きになった手狭な炊事場、古びたガスコンロの前にアルミ製の軽量踏み台を据えて、いつの間にか小動物がその上に立っているのです。ん、立ってる。後肢に尻尾の支えを足して自身三脚になって。コンロには小動物の手に丁度合うくらいの小振りな鍋がかけてあります、中では湯が沸いているようですね、でもって小動物は右前肢にこれまたきゃつに見合った菜箸を持ち、握ってるんじゃなくて持ってるんですよ、肉球を働かせ、しかもそのお手本の如き正しい持ち方に和の心さえきらりと光らせて、片や左前肢はといえば木製の細長い箱を危なげなく摑み、きゃつの手元を見れば鰹節がのったままの削り器がありますね、ならば手にした木箱の中には恐らく削り節が、てか削るところからやってんのかヨ、とにかく削り節を鍋に投入しようとしていたらしく、しかし今は手を止めて調理を依頼してきた女神様の顔をまじまじと見ているのです。凝然。ぐつぐつ。なお凝然。ぐらぐら。ぴちっ。あちっとか口の中で言いつつ左前肢を引っ込めました、その拍子に突き出た鼻先に木箱がこん、軽い音を立ててぶつかります。涙目。しかしまだ凝然。あんたさ。お、面白いのはいいんだけどど。さ。

「ボクは今、自分のためのお昼ご飯を作ってるんだな…」

 小動物は鍋に向き直り、今度こそ削り節を煮立った湯に投入します。ふむ。傍らに用意された食材から察するに、作るのはどうやらうどんのようですネ。風ちゃんが食べてるのを見て食べたくなったとか、大方そんなところでしょう。しかし小動物。貴様はその肉球で屋内屋外浄不浄、一切を問わず至る所を踏みしめてきたのだろう。その肉球で口に入れるものなどを…って、別に小動物自身が食べる分には構わないのか、そうよ問題は女神様の方よ。女神様、いくらこいつが器用だからって獣に料理させるのはどうなのかな。水洗いや煮沸程度じゃどうにもならない色んなもん住まわせてる可能性あるよ? それこそ神族にだけ果敢に挑んでくる英雄叙事詩的菌とかさ。横着。油断。小なる者が大なる者を降す。将来的にはそこから諺でも生まれそうな印象的な事件になると思われ。ん。歴史に名を残す。そうね、面目は保たれるのね。女神様分かったよ、グッドラック。風ちゃんのことは心配しないで。風ちゃんの幸せならわたしたちがとうの昔に引き受けてはいるけれど、それでも敢えて。ここには適当な花も無し、だから言葉を手向けるよ。

「うどんだけじゃ寂しいだしょ? おかずに野菜炒めなど推奨」

「あ! じゃあじゃあエレナさん、回鍋肉にしません? 素は提供しますので、それでお相伴に与らせて頂けたら嬉しいな~、とか」

「おっ、回鍋肉いいねー。よし、乗った!」

「えへへ、実は朝炊いたご飯が残ってまして。それをどうやってお昼に片付けるか、さっきまでごろすけと議論してたんですよ」

「やまぬぇが炊き過ぎちゃって…でね、厚かましいついでにぶっちゃけちゃうと、エレナさんも食べてくれるとすっごく助かるの」

「食べる食べる。そういや主食持ってくんの忘れてたし」

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