第45回(なんにも穿かずに失礼してます・その12)
「ふふ、エレナさんたら。でも丁度良かった」
「ふむ。となると、さみゅーちゃんの扱えるフライパンとかじゃ、人数分捌くのしんどいか」
小動物は不自然な猫背になって、日頃からやる気の無い態度ですからその姿勢をもって益々やる気の無さを強調するようなのですが、どうも多勢に無勢、THE働かざる者・食うべからず女神様が始めたおねだりに、なにやらやまぬぇさんやごろすけさんまでが乗っかろうとしてるご様子。てか二人は。お二人こそは正に止めといた方がいいでしょう、獣の賄いに興味引かれるのは分からなくもありませんが所詮その価値は1ツイートにも満たぬ程、体張って伝説になるのは女神様だけで充分なのでありますよ、好んでぽんぽんぺいんそりゃちょっと、やはりお二人にはその社会的地位ってか世間体を是非とも堅持して頂きたい。
「ぽんぽんぺいんになんかならないよ。今までだって平気だったんだし」
ごろすけさんがあっけらかんと言います。あ、そうですか。そうなんだ。ふーん。
「まったく、みんなしてボクに作らせる気満々なんだな…」
「共同生活の場じゃ助け合いが必要でしょ。なのにさみゅーちゃん、ご飯消費同盟からとっとと離脱しちゃったし」
やまぬぇさんがむーっと口を尖らせれば、
「なんかもっともらしい。素直にさみゅーちゃんの料理が食べたいって言えばいいのに」
ごろすけさんがにやにやしながら茶々を入れます。
「…フライパンぐらい、振るの手伝うんだな…」
「やったぁ! さみゅーちゃんのごっはん♪」
やまぬぇさんが手を打って小躍りしました、と思ったら、その時にはもう彼女の両腕の中には女神様の持ち込んだ食材の全てが、直前まで女神様が抱えてたそのままの姿でそっくり抱えられているのでした。このイリュージョンに女神様はん? と目を点々にして一瞬立ち竦みます、そこをやまぬぇさん同様炊事場へ殺到しようとしていたごろすけさんに左手を摑まれ、予想だにしなかった強大な牽引に両足が浮いて、あれっと思った時にはもう狭い流しで3人肩をぶつけ合いながら、女神様はにんじんの皮剥き担当ってことに決まっていたようです。尋常ならざる、人の意志をもその場に置き去りにする凄惨な加速に見舞われた女神様は今やマスィーン、指・腕の各関節では巧妙精緻なアクチュエーターが驚異的な効率にて生体エネルギーを動力と化し、しかし生体には有り得ない微かな駆動音はどうしても隠せず、うぃんうぃーん、うぃんうぃんうぃん、うぃーんきゅるっ、少し錆の浮いた安物の皮剥き器を縦横に揮い、形状・大きさを問わずあらゆるにんじんの外皮を規定の時間±ピコ秒・規定の厚み±ピコメートル、そも妥協を知らず飽く事を知らず、それ故の正確無っ比無比さで剥くっ・剥くっ・剥きまくる! これは。実の所を申し上げますとわたしたちの間ではなんとかと女神様に刃物、かように囁かれるほど女神様に包丁などを持たせるのは何が起こるか本気で分からぬぇ、やめろ馬鹿wとされる程の禁忌なのですが、神個我を失いて神となる、つまり我々は遂に奇跡を目の当たりにしたのです。そうですかこれが。女神様の。へー。ほー。
「あー、わたしもさみゅーちゃんみたいにお料理上手になりたいなぁ。どうやったら上手になれるかな、さみゅーちゃん?」
女神様の隣でピーマンを細切りにしていたやまぬぇさんが、そんななんでも無いことを言った途端でした。女神様の両肩が、それまでは微細な上下動すらまったく認められなかったそこが、突如びくっと跳ね上がったのです。おや我に返りましたか、ごるっ。なんですか今のくぐもった変な音、わっ! 女神様が手にした皮剥き器の、本来なら薄皮が排出されるはずの所から。何故かにんじんのサイコロ切りが。ころん、と転がり出て流しに落ちた。ちょ、どうやって。いや。そうよ。さっき何が起こるか分からぬぇって。うん。これが。あ、要するにね。そういうことなんですよ、うん。ああびっくりした。
「まぁ、やる気なんじゃないかな…上手くなりたいなら、結局やるしかないし…」
「う、それはそうなんだけどね。じゃあじゃあ、そのやる気を高いレベルで持続させる方法は?」
うどんつゆの味を調えつつ、ごろすけさんが振るフライパンの中の野菜に脇から下味を付けつつ、さみゅーはお座なりな答えをするのですが、やまぬぇさんも結構食い下がります。
「愛を知ることなんだな…」
「え?」
まだまだお年頃と言っても良い年齢故に、突然そんな事を言われ思わず頬を染めちゃうやまぬぇさん。出し抜けな上に体毛密に覆うその顔面を何故だか同様に染めている小動物とは、まったくもって対照的です。




