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第31回(図書館の彼女と魔性少女・その14)

【しよう】と呼ぶは詩にまつわる妖怪か妖精か。リンちゃんを見ている限りは怪人って感じですが、要は人間から見て彼らの振る舞いがアヤシいと伝われば何にせよ正しいのだと思います。アヤシいというのにも色々ありましてうさんくさいというのもその一種でしょうが、人間から見て詩妖がアヤシく映るのは、破滅すると分かっていても飲み干さずにはいられない、悪魔的に甘い毒を隠し持っているからだと思います。詩妖が人間に盛る甘美な毒は当然にその人の命を削ります、しかし引き替えに、常人にはとうてい得られない素晴らしい文学的霊感をその人に下ろすのです。普通人の何倍もの密度で生きて早々に人生から退場してしまう、そんな天才の姿は歴史のあちこちに散見されるものですが、実は詩妖は天才文人の夭逝プロジェクトに従事してきたんですね、まぁ先程甘美な毒と言ったように、これら文人の生き急ぎは多分に自ら求めた所もあった訳ですが。ここで脇道に逸れますと詩妖という種の起源を尋ねればこれまた興味深い疑問に突き当たります。前述のように詩妖とホモ・サピエンスは形態学的にも解剖学的にもほぼ差異が無く、その点からすればこれら二つのグループは共通の祖先から、しかも可能な限り後の時代の祖先から枝分かれしてきたと考えるのが自然でしょう。ところで、可能な限り後の時代の祖先から枝分かれした、言い換えればホモ・サピエンスと詩妖がたった一回の枝分かれで成立したのだとしたら、一体何がその枝分かれのきっかけとなったんでしょうね? 祖先が自身の文才に気付いた瞬間でしょうか。仮にそうだとして、ではなぜ後に詩妖となるグループは彼らの特殊能力を進化させ、ホモ・サピエンスと分かれる必要があったのでしょう、ホモ・サピエンスと詩妖とで人口を比較すれば前者の方が圧倒的に多く、子孫繁栄という観点からは詩妖の戦略の適否は測れないのです。ふぅむ。興味は尽きませんが科学は何故とされた事への合理的な説明を必ず見出す学問です。上で挙げたような生きものにまつわる謎だって、いつかはきっと解きほぐしてくれるでしょう。

 それはさておき、リンちゃんが生命力と文学的霊感とをギブアンドテイクで遣り取りする詩妖の娘さんだと分かれば、姐御さんが何故に突然名文を閃き何故に突如お疲れになっちゃったのか、一方で要手当ての重傷者リンちゃんが何故に不自然な自然治癒を可能としたのか、おおよそ想像できるだしょ? リンちゃんは例の自身の奇行について、あった事はそのままに全体の印象のみを普・通・に・す・る一文を、勿論報告文仕立てで鋭意創案したんだと思います。そしてその一文を無言のまま姐御さんに与え、ここで思考の場の本質について今度は端的に申し上げておきますと、それはある思考が空間のどの辺りに在り得そうか、状況の刻々の変化をありのまま示し続ける指標とゆーことになるのですが、それならこんな風には考えられないでしょうか、場においてある思考がある一定の時間・狙った場所に在り得るよう、思考のその位置での所在の確率を飛躍的に・持続的に高められたとしたら、例えば姐御さんの脳内にリンちゃん創案の魔性的文面が在り得るように、リンちゃん自身がその確率を操作できたとしたら、姐御さんにはまさに脳内の虚無に光の矢文が突如“打ち込まれた”ような錯覚も生じましょう、実際リンちゃんはそうやって無言のまま姐御さんに“霊感を下ろして”いたのです。言葉を使うある種の者たちは、相手の表情・仕草・それまでの会話の流れ・聞き手の経験、そういった諸々の要素から明示されなかったものも含め話し相手の胸の内をある程度は把握します、しかし詩妖という者共は、上記諸要素の純粋な総合である思考の場を非光学的に“観る”ことによって、相手の胸中をほぼ完璧に理解できると言います。そして意識的にせよ無意識的にせよ相手が求めるならば、何が求められているのかはほぼ完璧に分かるのですから、後は適当な回答を詩妖自身が用意し、そうなんです、実は与えられる“霊感”の質は与えようとする詩妖の文才次第だったりするのです、要は天才文人の魂の双子になれるような詩妖ばかりじゃ無いよとゆー話なのですが、この点リンちゃんはかなり優秀なようでして、彼女のフルネームはリン・フェイラ・ト・ア・ランペイラ・クゥと口誦し得る詩妖語で、訳せば“言葉にリボンをかける娘”となって、これは詩妖にとっては全く名誉称号的な、まぁかのベ○ータさんが母星の名前を貰ったみたいなもんですかね、とにかくリンちゃんレベルだったらまさに霊感を、そうじゃなくても最低限満足される質は保証して、詩妖は人の心中に言葉のはたを織り続けてきたのです。ふぅむ、些か情緒的な比喩に過ぎたかしら。しかしですね、おでこから怪光線を放ちおのが文才で相手を射倒す、ってのもまた正しい比喩では無いですヨ? 魔性的文面を姐御さんの脳内に在り得るようにするために、先程リンちゃんは比喩どころか実際そんな振る舞いを見せたようですが、あれは実はリンちゃん一流の悪戯というか魔性的演出だったのでありまして、そんな特例をもって確率操作時における詩妖一般の行為としてしまったら、他の詩妖さんたちは困惑するばかりでしょう。ねぇ。あんな漫画的表現を見せられた時はわたしたちも驚いたけど、リンちゃんって時折みょーに器用な悪戯するんだよね。その器用さをもっと肝心な方向に生かせれば、って実はね、リンちゃんって日頃からどーでもいい所には器用だったり要領良かったりするんだけれど、人生の本筋においては甚だ不器用ですから。だって考えてみてくださいよ、リンちゃんって天才文人の魂の双子たり得るほど文才溢るる詩妖のサラブレッドなんですよ、それが何故か、未だに、“作家志望”なんですから。…あゝ、呆れ返った沈黙が耳に痛い。まぁ当人も非常に気に病んでいるので自然と取扱注意になった話題なのですが、それにしたって一体因果がどのようにこんがらがったらこんな隔靴掻痒とはまさにこのことぉっ! みたいな状況に嵌まれるのか、念のため言っときますと天才故に孤高に過ぎる文章ばっか書いてるとかそんなんじゃ決して無いのですヨ、身贔屓を差し引いても断然面白くって、だから当謎事情に対しては詩妖がミューズに嫉妬されるだなんて変なこと言わないでちょうだいボブ、オゥお馬鹿さんのメアリー、男子たるもの家庭の外にゃ九人の敵がいるって言うじゃないか HA ッ HA ッー、いやま別にアメリカンで無くっても良いのですが、とにかく取り敢えずなんか冗談の一つでも飛ばしとこっかなーくらいしか手の打ちようがございません。まぁリンちゃんだって立派なメル変ですからねー。彼女は魔性少女、彼女は詩妖、彼女はメル変。なんだか混乱させようとしてるみたいですがそんなんじゃありません、リンちゃんを語れば必ずある程度の諦めは付きものだと思ってください。ええ。まぁ。

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