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第五話:機械警備と夜襲

「……息を潜めろ。音一つたてるな」


月が厚い雲に隠れ、戦場が完全な暗黒に包まれた午前二時。


帝国陸軍大佐クローゼは、精鋭数百名を率いて、王国軍の本陣へと続く緩やかな斜面を匍匐前進で進んでいた。


彼らの五感は極限まで研ぎ澄まされていた。


風下から漂ってくる昼間のスープの残り香が、空腹の胃袋を無慈悲に刺激して意識が飛びそうになるが、それを強靭な軍人精神でねじ伏せる。


(ラインめ……今頃は美味い飯と女に囲まれ、勝利を確信して泥のように眠っているはず。そこを突く……!)


クローゼは視線で部下たちに合図を送る。


王国軍の本陣を囲む簡易的な木柵まで、あとわずか数十イル。見張りの兵の姿もまばらだ。夜襲は完璧に成功しつつあった。

だが――クローゼの一歩が、草むらに隠されていた一本の『ごく細い魔力の糸』に触れた、その瞬間だった。


ピピッ――。


闇夜に、あまりにも不釣り合いな電子音のような高音が響く。


「なっ……!?」


クローゼが目を見開いた直後、世界の上下が反転したかのような暴虐的な『光』が炸裂した。


カァァァァァァァァァァァッ!!!!!!


「ぎゃあぁぁぁっ!?」


「目が! 目が潰れるっ!!」


本陣の各所に設置されていた魔導反射鏡が一斉に起動し、太陽すら生ぬるいほどの超高出力の閃光が、夜襲部隊の頭上から容赦なく叩きつけられたのだ。あまりの眩しさに、暗闇に慣れていた帝国兵たちの視界は一瞬で真っ白に染まり、網膜を焼かれた苦痛で悲鳴が上がる。


しかし、それは地獄のプロローグに過ぎなかった。


ガシャリ、と硬質な機械音が響き、高地に設置されていた五基の《魔導多連装砲(ガトリング・カノン)》の砲身が、まるで生き物のようにギチギチと回転を始める。


「――熱源オヨビ魔力反応ヲ感知。射撃ヲ開始シマス」


無人の砲台から、そんな無機質な音声が淡々と響き渡る。


チュチュチュチュチュチュイィィィンッ! ババババババババババンッ!!


「ひ、悲鳴を上げるな! 散れ! 散――」


クローゼの叫びは、夜空を埋め尽くした青白い魔導弾の暴風雨によって完全に掻き消された。


真昼のように照らし出された斜面へ向かって、毎分千発を超える圧倒的な弾幕が、正確無比な自動追尾で掃射される。


岩が砕け、土砂が跳ね上がり、帝国軍の精鋭たちが反撃の手立てすら与えられないまま、文字通り『面』で圧殺されていく。


「自動……迎撃……!? 術者がいないだと……!? 馬鹿な、こんな悪魔の兵器があるかァァァッ!!」


盾を構えた重装兵が一瞬で肉片へと変わる光景を見ながら、クローゼは血の涙を流して絶叫した。


完璧だと思った夜襲。そのタイミングも、侵入経路も、すべてが完璧に読まれていた。

いや、読まれていたのではない。ラインという怪物は、最初から『夜襲が来る前提』で、人間が操作する必要すらなく敵を自動で処理する防衛網を完成させていたのだ。


「ライン……! 貴様は我々を……帝国軍人を、畑に群がる害虫と同じように駆除する気かァァァッ!!」


クローゼの絶望の叫びは、冷徹な機械の咆哮の中に虚しく消えていったのだった。


◇


一方その頃――本陣の最も安全な奥深くに構えられた幕舎。


「なんだなんだ!?敵襲か!?」


俺は簡易ベッドの中で、頭から毛布をすっぽりと被り、ガタガタと生まれたての小鹿のように震えていた。


外からは地鳴りのような爆音と、夜とは思えないほど眩しい光がカーテンの隙間から漏れ込んできている。


(怖い! 怖すぎる!! やっぱり夜襲来たじゃん!!)


ラインの読みは当たっていた。


夕方、「絶対に敵はヤケクソになって夜襲してくるに違いない。寝込みを襲われて首をハネられるなんて絶対に嫌だ!」とパニックになった俺は、大急ぎである仕掛けを作らせていたのだ。


それが、魔力センサー連動型の『超高出力防犯センサーライト』および『自動威嚇用・多連装砲連動システム』である。


(俺の考えた防衛は完璧なはず!)


要するに、「俺が寝ている間に誰か近づいたら、勝手に光って弾を撃ちまくって追い払ってね」という、極限の丸投げ保身システムだった。まさかそれが拡大昇華し、クローゼ大佐率いる精鋭部隊を一方的に駆逐する全自動要塞として機能しているとは、この時は思ってもみない。


「陛下! ライン陛下、ご無事ですか!?」


バッと幕舎の布が跳ね上がり、甲冑姿のレオンとアルテが飛び込んできた。


「ひえっ!? あ、レオン……! 外はどうなったんだ……? 俺はもうダメなのか……?」


俺が毛布から涙目で顔を覗かせると、レオンはその場に深く平伏した。


「ご安心ください、陛下! 敵の無謀なる夜襲部隊数百名……陛下の作られた《全自動・神罰砲陣》により、本陣の柵に触れることすら叶わず、撤退いたしました!」


「……え? 上手く行ったのか!」


「はい! 敵の指揮官クローゼ大佐は、陛下の不条理なまでの防犯……いえ、絶対迎撃陣の前に己の敗北を悟り、『ラインは人間ではない、怪物だ……!』と言い残して精神崩壊し、先ほど我が軍の捕虜となりました!」


(……えぇぇぇ……? 追い払うどころか、全滅させて指揮官捕まえちゃったの??)


俺が呆然と口を開けていると、アルテが恍惚とした表情で俺の手を取り、胸元に抱き寄せた。


「流石だね、ライン。夜襲という敵の最後の足掻きすら予測し、あえて『我々は寝ている』と見せかけて油断を誘い、一兵の被害も出さずに全自動で敵を擦り潰す……。この防衛システムは、大陸の戦争史を塗り替えちゃうかもね!」


(ちがう! 俺はただ寝ている間に殺されたくなくて、全自動で防犯したかっただけなんだよ!!)


「これで東部に上陸した帝国の先行部隊は完全に崩壊。残るは裏切り者のアルベルト男爵のみです! 陛下、明朝、一気に男爵領の城へ進軍いたしましょう!」


レオンが目を爛々と輝かせて勝ち鬨を上げる。


「あ……あう……(明日も動くの? 勘弁してよ……)」


俺は胃を押さえながら再び毛布の中に潜り込み、終わらない激動の現実に、ただただ枕を涙で濡らすのだった。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

敵の決死の夜襲に対し、全自動・超高出力防犯センサーライト&ガトリングの機械警備で迎撃したライン(笑)。

本人は「寝ている間に首をハネられたくない!」という極限の保身から技師長を拉致して作らせただけなのですが、帝国軍からは「人間ではない、怪物だ……!」と完全に神格化されてしまいました。

現在、【毎日 朝7時 / 夜7時】の1日2回更新中です!

次回は【明日 朝7時】に更新予定です! 裏切り者のアルベルト男爵領へ、ラインの(嫌々の)進軍が始まります!

【作者からのお願い】

「防犯センサーライトで精神崩壊する大佐に吹いた!」「ラインのヘタレっぷりと全自動要塞のギャップが最高!」「続きが気になる!」と思ってくださった方は、

ぜひページ下部にある★★★★★の評価や、ブックマーク登録で応援していただけると励みになります!

始まったばかりのラインの勘違い快進撃、ぜひ一緒に見守っていただけると嬉しいです!

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