第一話(3) はなびら
今まで、こんな気持ちはなかった。
夕焼けのせいで、ちょっと赤くなったはるかの横顔を見て、そんな気がした。それは幸せというのか、楽しいというのか。こんなに単純で解釈するの感じではないだと思う。もし、時間を止められるなら、この一瞬だけでいい。もう少しだけ、味わわせてくれて、神様。不意に、この思いが浮かんできた。神様にお願いなんて、初めてかも。
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記憶がある限り、家族や先生以外の人たちと話すことは、ほとんどなかった気がした。目の前には、いつも本だった。同い年の人たちがバカなことをして、関わることを全然したくないから。
僕は、本以外の世界に興味がなさそうだ。
字が読めるようになって以来、絵本じゃなくて、小説という宇宙に入り浸った。
毎日のスケジュールは、家、学校、図書館や本屋だけ、ずっと自分の席に座ったまま、本を読み続け、周囲からは完全に変な奴だと思われていた。
自分が独りであることを気づいたのは、小学校の卒業式だった。
あの時、クラスメイトたちは中学生活への夢を語り合い、まだ一部の人は将来の別れに涙を流していた。
しかし、僕には何も感じられなかった。まるで傍観者のようなと気づいた。なぜ他のみんなは、あんなに喜怒哀楽を表情に出せるのか、何にもないくせに、僕には分からなかった。冷たいとか変人とか、そう言われてきたのは、間違いではなかったかもしれない。
初めて、この冷たい心に気づいたのは、小学校の最後の一日、卒業式の日だった。
あの日、雪が静かに舞い落ちた。
夜空が一つの星も見えないくらいに、真っ黒だった。




