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今の教室

職員室の窓から、午後の柔らかな陽射しが差し込んでいた。

私は担任として、教室の様子を思い浮かべながら、

書類に目を落としていた。

最近の教室は、少し変わった。

大地君、鈴木君、髙橋さんの三人が、

教室の奥の席でよく話している姿が、

すっかり日常の風景になっていた。

男子生徒が二人も混ざった空間。

なのに、どこか違和感がない。

三人の輪は自然で、明るくて、

まるで当たり前のようにそこに溶け込んでいる。

時々、他の女子生徒たちが熱い視線を向けているのが見える。

好奇心や憧れ、ときには少しの緊張が入り混じった視線。

でも、三人はそれを全く気にしていない様子だ。

大地君はいつも通り明るく笑い、

鈴木君も、以前より明らかに笑顔が増えた。

髙橋さんの明るい声が、時折教室に響く。

私は、授業の合間にその会話を耳にすることがあった。

大地

「鈴木、明日の体育、バスケだってよ。

お前身長あるんだから、絶対有利だろ!」

鈴木

「……どうでもいいが。」

日奈子

「えへへ、でも楽しみだね!

私、絶対にパスミスしないように頑張るよ!」

鈴木

「お前には無理だ。絶対ミスする。」

大地

「日奈子なら大丈夫だよ。

シュートも決めれるだろ……一回くらいは。」

鈴木

「点決めれないなら、ボール回せよ。」

日奈子

「私だってやるときはやれるもん。決めて見せるよ!一回くらいは!」

三人の笑い声が、軽やかに教室に広がる。

鈴木君の声は相変わらず素っ気なく、

日奈子ちゃんに対しては特に冷たい調子が残っていた。

それでも、以前よりは会話自体が続いている。

私は、胸の奥で静かに頷いた。

(……これなら、不登校の彼も混ざれないかしら)

同じ学年に、もう一人男子生徒がいる。

佐藤くん。

彼はほとんど登校せず、

家で引きこもっていると聞いている。

以前、家庭訪問をした時も、

部屋の奥から小さな声で「行きたくない」とだけ返ってきた。

でも、今の教室を見ていると、

ふとそんな思いが芽生える。

学校に来ないことは珍しくもなく、規則でも認められている。

大地君と鈴木君がいることで、

男子が二人いる空間が「普通」になりつつある。

髙橋さんの明るさが、

その輪をさらに柔らかくしている。

もし佐藤くんがここに来たら……

きっと、ぎこちないかもしれない。

でも、三人が自然に受け入れてくれるかもしれない。

トラウマを抱えた彼の心を、ほぐしてくれるかもしれない。

私は、書類を閉じて立ち上がった。

放課後、その生徒の家に足を運ぶことに決めた。

(少しでも、興味を持ってくれればいい……

今の教室なら、きっと大丈夫)

廊下を歩きながら、

私は小さく微笑んだ。

教室の奥で聞こえてくる、三人の笑い声が、

まだ耳に残っていた。

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