表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/45

夏の思い出 大地と大河

病院の中庭で、俺は缶のココアを開けて一息ついていた。

夏の風が強く吹き、蝉の声が遠くから聞こえてくる。

そのままベンチに座って風に当たっていると、

少し離れたベンチに一人の少年が座っていることに気づいた。

中2くらいだろうか。

顔色が悪く、足が悪そうに左足を少し伸ばした姿勢で、松葉杖を傍らに置いている。

治療後の疲れが色濃く出ている様子だった。

俺は気になって近づき、声をかけた。

大地

「……大丈夫?」

少年は大地の顔を見上げて、強がるように答える。

少年

「……大丈夫です。……」

立ち上がろうとした瞬間、少年は足にうまく力が入らず、顔を少し歪めた。

松葉杖に手をかけたが、俺は慌てて手を貸した。

大地

「ついてってやるよ。」

少年は軽く会釈をして、俺の肩に少し体重を預け、松葉杖を突きながらゆっくり歩き始めた。

足が悪いせいで歩き方がぎこちなく、2人は病室へと向かった。

少年の名前は大河と言った。

骨肉腫で入院1年目、治療を何度も繰り返しているらしい。

抗がん剤の影響で体力が落ちていて、歩くのもかなり負担な様子だった。

歩きながら、大河は病院でのことを憂さを晴らすように話してくれた。

病院食は美味しいけど野菜が多いとか、残すとナースがうるさいとか。

そのナースの名前が佐田だとか。

会話に花が咲き、気づけば2人はすっかり打ち解けていた。

あっという間に病室に着いた。


病室は個室で、ベッドの横のロッカーに色とりどりの千羽鶴が掛かっていた。

そこにはクラスメイトからの励ましの言葉や、「2-1組」という文字が書いてある。

大河

「学校行ってるんだ。偉いな。」

大地

「最後に行ったの、一年前だけどね。

2年生になってからは一度も行けてない。

2年生で1組になってたなんてこの折り鶴で初めて知ったくらい。」

大河はベッドに腰掛け、左足をゆっくりと伸ばしながら話す。

大河

「先生はみんなが作ってくれたって。

1学期しか通えてなかったからそこまで仲良くなかったのに……。男の子だからかな?」

少し自虐気味な大河のセリフに、俺は少し胸が痛くなる。

大河はベッドから手を伸ばして折り鶴に触れながら、ぽつりと呟いた。

大河

「学校なんて、行かなくていいやって思ってたんだ。

女子ばっかで、趣味や話も合わないし。

そもそも全然通えてない。友達だっていないから。」

大河は少し自嘲するように笑った後、目を細めて続けた。

大河

「でもね。最近は少し学校に行きたいなって思うようになったんだ。

……母さんが教えてくれた動画があるんだけど、知ってる?

『学園てんごく!!』っていうやつ。」

大地は少し驚いた。

大地

「うん。知ってるよ。」

大河

「あの人たちの話を聞いてると、不思議で、楽しくって。

学校で男女があんなに普通に仲良く話したり、ゲームしたりしてるの見ると……

僕もあんな風に学校に行けたらいいなって、最近はそれが少し希望になってる。」

大河は少し照れくさそうに笑った。

大河

「母さんが『こういう学校生活もあるんだよ』って、毎日見せてくれてるんだ。

男の子が普通に笑ってるの見ると、なんか……胸が熱くなるよ。」

大地

「そうか……ありがとう。」

大河は「ありがとう」という言葉を少し不思議そうに繰り返した。

大地

「またな。」

俺はそう声をかけ、病院を後にした。


その日の出来事をラジオ配信で語った。

いつもより少し真面目なトーンで、アースが話し出す。

アース

「今日、病院で一人の少年と出会った。

手術が怖いって言ってた。

俺は……うまく励ませたかわからないけど、

俺たちの活動を通して、少しでも前向きになれればいいなって思った。

もしこの配信を聞いてる君が、同じように不安を抱えてるなら……

一人じゃないよって伝えたい。」

配信が終わって少し経った頃、

大河は病室のベッドでスマホを握りしめていた。

画面には「学園てんごく!!」の配信アーカイブが表示されている。

アースの声が流れ始め、

今日出会った少年の話が始まった瞬間、

大河の目が大きく見開かれた。

大河(心の声)

「……え?

これ……僕のこと……?

大地さんって…アースだったんだ…。」

少年は不思議な出会いを思い出しながら、

「また来てくれるかな。」

そう呟いて、消灯時間と共に眠りにつく。

アースと共に学校に通う。そんな夢に包まれながら。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ