11話 大地の水泳部見学。
今日は俺の部活探しだ!
放課後、俺はいつものように古い公園に顔を出した。
梅雨が近づき、空は灰色に覆われていた。
ベンチは湿って冷たく、地面には小さな水溜まりができ始めている。
もう二ヶ月以上、厳正おじいちゃんの姿は見えない。
毎日ここに来ては、走ったり、筋トレをしたり、
おじいちゃんが教えてくれた古臭い構えを繰り返したりしていた。
でも、今日はただ座って、空を見上げた。
(……もう、来ないんだな)
胸の奥が少しだけざわついた。
おじいちゃんはよく言っていた。
「水練はいいぞ。大地。お前みたいに陸で鍛えた体には、
水の中で全身のバランスを取るのが一番だ。
古い書物にも書いてある。全身の筋肉が均等に育つと。」
俺が「プールで泳ぎたい」と言った時、
おじいちゃんは笑って首を振ったものだ。
厳正
「プールなんてこの街にはねえよ。
あったとしても、男が入ったら女子が騒ぐだけだ。
無理だ、無理。」
その言葉が、今も耳に残っている。
でも、バレー対決でスポーツの楽しさを知った今、
どうしても水練がしたくなった。
鍛えたくなっている。
俺は着実に筋肉バカになりつつある。
肩や胸、腕は厚くなったが、
まだ全体のバランスが悪い気がする。
俺は公園を後にして、学校の屋内プールへと足を向けた。
プールサイドは湿った空気と塩素の匂いが充満していた。
部員は少なめで、五人ほどが泳いでいる。
みんな女子だ。
顧問の先生がこちらに気づいて、近づいてきた。
まだ二十代後半くらいの、若めの女性教師だった。
ショートカットで、動きやすそうなジャージ姿。
顧問
「入部希望かしら?
それとも見学?
……それとも、いやらしい目で見てる?」
先生はにこっと笑いながら、からかうような口調で言った。
でも、目は明らかに俺の体を舐め回すように見つめていて、
欲情が隠しきれていない。
俺は慌てて首を振った。
大地
「入部希望です。
水泳を本格的にやりたくて……
見学だけでもいいですか?」
顧問は少し目を細めて、俺の体を上から下まで眺めた。
がっしりとした肩、厚くなった胸板、鍛えられた腕。
彼女の視線が熱を帯び、頰がわずかに赤らんでいる。
その横で、部員たちの反応も様々だった。
何人かの女子は俺の姿を見て顔を赤らめ、
慌ててプールに視線を逸らしたり、
水の中で体を縮こまらせたりしている。
明らかに恥ずかしがっている様子だ。
しかし、その中で一人だけ、
全く気に留めない女子がいた。
長身のショートカットの女子。名前は水樹みのり。この水泳部の主将である。
彼女はプールサイドに立ったまま、
俺を真正面からじっと見つめ、
平然とした表情でプールサイドに腰かけている。
他の部員がざわついている中、
彼女だけは冷静で、まるで「珍しいものが来た」程度の興味しか持っていないようだった。
泳ぎ始めた彼女は特に速く、美しかった。
そんな泳ぎに長らく身惚れていたが、
顧問はまだ俺を見つめていた。
値踏みするように全身を見た後、
ようやく口を開いた。
顧問
「ふふ、珍しいわね。
男子が自ら水泳部に来るなんて。
まあ、いいわ。
今日は見学でどうぞ。
泳ぎたくなったら、いつでも声かけて。」
俺は頷き、プールサイドのベンチに腰を下ろした。
水面が揺れ、部員たちのストロークの音が響く。
クロール、平泳ぎ、バタフライ……
みんな真剣に泳いでいる。
俺は静かに見つめながら、
胸の内で決意を固めた。
(ここなら、バランス良く体を鍛えられる。
おじいちゃんがいなくなっても、
俺は自分で動き続けられる……)
梅雨の湿った空気が、
プールサイドに重く立ち込めていた。




