佐藤宏太と訪問者。
インターホンが鳴った。
僕は部屋の暗い隅で、膝を抱えたまま体を硬くした。
心臓が早鐘のように鳴る。
親はまだ仕事から帰っていない。
この時間に誰が来るというんだ……。
もう一度、インターホンが鳴った。
僕は震える指でリモコンを握り、玄関カメラの映像をモニターに映した。
……担任の先生だった。
僕は深呼吸を何度も繰り返し、
ようやく立ち上がって玄関に向かった。
ドアを開ける気にはどうしてもなれず、
ドアチェーンだけかけて、細い隙間から外を覗いた。
先生
「佐藤くん? 担任の黒川です。
少しお話してもいいかしら?」
声が震えそうになるのを必死に抑えて、僕は答えた。
佐藤
「……どうぞ。」
先生は穏やかな笑顔のまま、
ドアの外に立ったまま話し始めた。
先生
「突然ごめんなさいね。
親御さんには事前に連絡は入れていたんだけど……
今日は佐藤くん一人で大丈夫かしら?」
僕はドアの隙間から、うつむいたまま小さく頷いた。
先生は少し間を置いてから、静かに切り出した。
先生
「最近、クラスに変化があってね。
大地君が復学してから毎日来るようになって、
鈴木君は元々出席していたけど……
二人が一緒にいる姿がすっかり日常になってきたの。
髙橋さんや他の子たちと、
とても楽しそうに話しているのよ。」
僕は黙って聞いていた。
楽しそう……という言葉が、遠い世界の話のように聞こえる。
先生
「男子生徒が二人もいて、
自然に会話している姿を見ていると……
なんだか、教室全体が明るくなった気がするの。
佐藤くんも……学校に来てみないかしら?
無理にとは言わないけど、
少しだけでも、顔を出してみるだけでもいいと思うの。」
胸がざわついた。
興味……ないわけじゃない。
でも、同時に恐怖も蘇る。
小学校の頃——
休み時間に、同じくらいの年の女子数人に囲まれ
ズボンを無理やり下ろされ、股間を触られたこと。
双方まだ幼かったせいで、
事件は「厳重注意」で終わった。
誰も僕を守ってくれなかった。
それ以来、外に出るのが怖くなった。
学校に行くのも、友達を作るのも、全部怖くなった。
先生は、僕の沈黙を優しく受け止めてくれた。
先生
「焦らなくていいからね。
考えてみてくれれば、それだけで十分よ。
いつでも、先生は待っているから。」
僕はようやく、小さな声で答えた。
佐藤
「……考えてみます。」
先生は穏やかに微笑んで、
「ありがとう。それだけでも嬉しいわ」と言って
静かに立ち去った。
ドアを閉め、鍵をかけ、チェーンを外す。
僕はその場に座り込んで、膝を抱えた。
(……本当に、行けるのかな……?)
部屋の中は静かだった。
でも、先生の言葉が、
胸の奥に小さな灯りをともしたような気がした。




