第53話 リアーナ
ノイルに案内され、俺たちは森の奥へと進んだ。
木々の間を抜けると、小さな泉のほとりに苔むした石碑が立っていた。人の手で整えられた跡があり、花が供えられている。
「……ここに、リアーナが眠っています」
ノイルが膝をつき、墓標に手を添えた。
俺はゆっくりと歩み寄り、石に手を触れる。冷たい感触が掌に広がり、視界がふっと揺らいだ。
――光の中に、リアーナが立っていた。
若き日のままの姿で、風に揺れる髪と懐かしい笑顔。
「……シン。やっと会いにきてくれたのね。本当に嬉しい」
柔らかな声に胸が震えた。
「私は、あなたと共に生き抜くためにいた。けれど、私の時代はもう終わったの」
「ずっとあなたを支えたかった。けれど、私はもうここにいない。
だから、これからは――あなたを支えてくれる仲間たちと進んで」
彼女は一歩近づき、そっと両腕で俺を抱きしめた。懐かしい温もりに息が詰まる。
「……最後に、この想いを託させて」
柔らかい感触が唇に触れる。やさしく、けれど確かな熱。
リアーナの姿は淡く揺らぎ、消えかけながら囁いた。
「……そして、ユイトを。どうか彼を見つけてあげて」
最後の微笑みとともに、彼女は光に溶けていった。
「……リアーナ……!」
膝が崩れ、墓標に手をつく。こらえていたものが堰を切り、頬を熱い涙が伝った。
レオンもソフィもリィナも、誰も言葉を発しなかった。
ただ静かに見守る中で、エラがそっと俺の背に手を添える。
◇◇◇
涙が落ち着いたとき、ふと胸の奥に奇妙な熱が残っているのに気づいた。
「……これは……?」
言葉にできない感覚。
まるで――どこかで眠っている“意思”が、微かに呼びかけているような。
リアーナは確かに俺に、何かを残していった。
ノイルが墓標を見つめながら、静かに口を開く。
「……リアーナは、魔王を討ったあと、この里に身を寄せました。
シン、あなたが還り人として姿を消してしまったことで、彼女の体調は次第に優れなくなっていったのです。
それでも里の者たちに慕われ、穏やかな日々を過ごしました。
やがて、この場所で静かに息を引き取り……こうして墓が建てられました」
「……そうだったのか」
胸が詰まり、言葉が出なかった。
俺がいなくなったせいで彼女は弱り、ここで眠ることになった。
悔しさと悲しさ、そして安らぎを願う想いがごちゃまぜになり、再び目頭が熱くなる。
ノイルはそっと目を伏せ、囁くように言った。
「彼女は最後まで、あなたを信じていました。還ると――そう信じて」
俺はもう一度墓標に手を当て、深く頭を垂れた。




