第52話 仲間たちの行方
翌朝。
俺たちは里の客間で朝食をとっていた。
木の卓に、焼いた根菜と果実、澄んだ粥。昨夜の熱が嘘みたいに、やわらかな朝の光が障子越しに差し込む。
「うぅ……頭が割れそうだ……」
額を押さえるレオンに、ソフィが淡々と告げる。
「飲みすぎ。学習しなさい」
「……返す言葉もねぇ」
エラは心配そうに覗き込み、「大丈夫?」と小さく声をかけた。リィナは背筋を伸ばし、静かに箸を進めている。
戸口が開き、ノイルが顔を出した。
「食事が済んだら――評議の間へ。お話しすることがあります」
◇◇◇
評議の間は、長い卓と木の椅子が並ぶ、簡素で静かな部屋だった。壁には古い布地が掛けられ、窓から差す光が床に白い帯を描いている。
俺たちは席に着き、ノイルと向かい合った。
ノイルは一同を見渡し、柔らかく口を開く。
「……まずは、このエルフの里。いかがでしたか?」
「食い物もうまいし、居心地いいな」とレオン。
「思っていたより堅苦しくないわ」とソフィ。
「自然と調和した暮らしが素敵です」とリィナ。
「きれい……」とエラが小さくつぶやく。
ノイルは小さくうなずき、息を整えた。
「……では、何から話しましょうか。――そう、千年前のことからにしましょう」
空気がぴんと張る。ノイルの瞳がまっすぐこちらを射た。
「はっきり伝えます。千年前の“勇者”はシンです。私はその仲間として、彼と共に魔王を討ちました。
そのとき私たちは聖剣を駆使し、討伐に成功しました。けれど、その戦いで聖剣は砕け散りました。
剣そのものは失われましたが――その“意思”は、この地に眠っています。だから、誰かに悪用されることを恐れて、聖剣の存在は伝説からも消しました」
誰も言葉を挟まない。ノイルは静かに続ける。
「仲間たちのことも、伝えておきます。
クレインは王都に戻り、騎士団長として生涯を尽くしました。誰より誠実で、七十を過ぎても剣を手放さなかった。……けれど、ある夜、何者かに殺されました」
「……嘘だろ」
胸が荒くなる。まっすぐで、困難に正面から挑んだあの男が、そんな終わり方を――。怒りに似た熱が、握った拳の奥で軋んだ。
「リゼルは……シン、あなたを想っていました。けれど、リアーナを見て身を引いたのです。
彼女は孤児院を設立し、行き場のない子に魔法を教えました。やがてその場所は**“魔法の里”と呼ばれるようになった。……そして彼女もまた、七十を過ぎたころに命を奪われました**」
「……リゼルまで……」
視界が揺ぐ。誰かのために生きることを選んだ、その優しさが――どうして。
ソフィが小さく息を呑む。
「……魔法の里を、勇者の仲間が……?」
レオンが横目で彼女を見る。「お前の故郷……」
ソフィは短くうなずき、「今は、それだけでいいわ」とだけ返した。
沈黙ののち、ノイルは自らのことを重ねる。
「――私はこの里に留まりました。リアーナから託された言葉、
“いつかシンが還ったなら、必ず導いて”という約束を胸に。だから私は、生き続けたのです。千年のあいだ」
「……ノイル……」
言葉が詰まる。待ち続ける時間の孤独と重さが、想像するほどに胸の奥で軋んだ。
俺は――その重みを背負わせたまま、この時代に還ってきたのか。
ノイルは目を伏せ、やがて顔を上げる。
「……リアーナについては、今から案内します。」
椅子が床を擦る音だけが、評議の間に静かに響いた。
胸の重さを抱えたまま、俺は立ち上がるノイルの背を追った。




