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第41話 答えは大森林の奥に

翌朝、ルシアリスの白壁にやわらかな陽射しが差し込んでいた。窓から差し込む光に目を細めながら、俺はゆっくりと身を起こす。

昨夜、リィナが見せてくれた古びた羊皮紙の地図が、朝の光といっしょに脳裏に浮かぶ。


灯りの下で広げられた地図は、端が擦り切れ、所々に染みが残っていた。

記されているのは都市名も道もない、昔の地形だけ。森と川の流れだけが、かすれながらも残っている。湾曲した川の形が、昨日歩いたルシアリスの運河とどこか似ている気がした。


「この地図、多分だけど、ルシアリスが建つ前に描かれた地図なんだと思うの……この辺り、今のルシアリスと重なってる気がする」


リィナが指差した場所に、俺も静かにうなずく。

地図の右寄り――今のルシアリスから東へ進んだあたりに、深い緑で囲まれた広大な森林。その真ん中に薄墨で小さな円の印がひとつ。


「大森林の中心にあるってことだよね。たぶん、この印が……」


「でも、この地図、あまりにざっくりしすぎてて……本当にたどり着けるのかな?」

エラが不安そうに声を落とす。


「そうだよな。案内人なんて、都合よく……いるわけ──」

「いるわよ」


ぴしゃりと割り込む声に、俺たちは一斉にリィナを見る。

「私が、印の場所までは案内できる。……たぶんね」


「“たぶん”?」ソフィが眉をひそめる。

「大森林の奥、中心に近い場所……何度か調査で行ったことあるの。行き方もある程度覚えてる。でも――」


リィナは指を止めた。

「その先には結界があるの。立て札があって、こう書かれてた――

“この地に選ばれし記憶を抱く者だけが、この先に進める”

それと、小さく**“四つの儀を経よ”**って刻まれてた」


空気がぴんと張りつめる。

「そのときは意味がわからなかった。でも……今なら、もしかしたら」


リィナの視線が、ゆっくりと俺に向く。

「……シン。あなたのことかもしれないって、思ってる」


無意識に息を飲んだ。

その時、レオンが眉をひそめる。

「ライガはそんなことなにも言っていなかったぞ」

「それは当然。まだ誰にも話してなかったから」


俺自身が“選ばれし記憶”を持っている――それは、間違いなく“あの記憶”のことだ。

これは、俺のことなんだ。確信があった。


「決めたなら、行くしかねえだろ。なぁ、シン」

「……ああ」俺は力強くうなずく。

エラは不安げに見上げ、やがてこくんと頷いた。

「行くしかないね」

「行こう……」

その一言に、リィナが小さく微笑む。


「明日は準備に時間を使う方がいいよね?」

「そうだな。明日は観光と準備にしようぜ」

「……あんた、観光って……遊びに来てるんじゃないのよ」

「まあまあ、気を抜けるうちに抜いとかないと、持たないぜ?」

レオンが笑って立ち上がり、軽く伸びをして親指を立てる。

「ソフィ嬢まで俺をにらむなよ。ちゃんとやるって」


こうして、俺たちは大森林の中心へ向かう決意を固めた。


──そして今、朝の光の中で、俺はその夜のやりとりを思い返していた。

今日は出発の前日。準備と……少しだけ、この町を見て回るつもりだ。

窓の外では、運河の水面が白壁に細かな揺らぎの模様を投げている。澄んだ水音とパン屋の香りが、細い路地を抜けて部屋まで届いてきた。


朝食を終え、荷を整えながら、それぞれ出発の準備に取りかかる。

「……昨日の話だけどさ」レオンが革のベルトを締めながら言う。

「リィナ、本当にあの場所まで案内できるのか?」

「できる範囲までは。結界の手前までなら、何度も行った」

「その先は……例の、記憶がどうこうってやつね」ソフィが腕を組む。

「信じてくれるかはともかく、私自身が確かめたいの」

リィナはふと顔を上げ、俺を見る。

「シンがあそこに立ったら、何かが動く――そんな気がするだけ」

「……根拠は?」

「勘。ギルドにいた頃、直感が当たること、たまにあったから」

「ギルドの娘の勘、か」

レオンが肩をすくめ、リィナも小さく笑う。


「今日は、準備が終わったら、町をちょっと見て回ろうよ」

「……あんた、急に元気ね」

「せっかくルシアリスだし。少しくらい楽しんでも、バチは当たらないでしょ?」

「まさか、レオンより浮かれてるとは……」

ソフィがため息をつき、エラはくすっと笑う。


「じゃあ、一通り支度が済んだら、宿の前で集まろう」

頷き合い、俺たちは一度荷を確認し、それぞれの支度に取りかかった。

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