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9.願い


ドミニクは焦っていた。

騎士団に依頼してまでジュリアの行方を探したが霧の如く消え去り依然見つからなかった。


辻馬車を使った形跡も無ければ、馬車に乗せたという貴族や商人もいない。

歩いて行ったならまだ王都内に居るかもしれないと、隈なく探したが、それらしい話も聞かない。


ジュリアは友人のグレイシーと共に、王都の貧しい子供たちに字を教えたり服を縫ってあげたりしていた。

病気で働けない人々に焼き立てのパンを届けたりもしていたので、王都民には絶大な人気があった。


無論、貧乏男爵の娘で自由に出来る金銭は無かったので、資金源はグレイシーの実家であるハリス侯爵家とキャンベル侯爵家であったが、ジュリアは自身の出来る事を精一杯誠意を持ってやっていたからだ。


そんなジュリアの醜聞を信じる者は皆無だった。

寧ろ怒りの矛先は無体な扱いをしたキャンベル侯爵家とエドワーズ男爵家に集中した。


ジュリアが行方不明になってひと月が過ぎ、

ヒューゴから拐かし事件等の証拠を得たドミニクは、母イブリンと弟ブレイクを着の身着のまま邸から追い出した。

そしてすぐに貴族籍から除籍した。


「もうお前たちはキャンベル侯爵家とは何の関わりも無い。異議を申し立てるなら拐かしの罪で牢屋に入る覚悟をしろ!」

イブリンとブレイクは泣き喚いて嘆願したが、ドミニクの気持ちは変わらなかった。


イブリンとブレイクが去った邸でドミニクは

ジュリアの無事をひたすら祈った。

もうひと月も休んだ為、明日からは仕事に戻らなければならないのに、何の手掛かりもなかった。


ドミニクはあんな事を言ってしまった自分をまた責めた。

そしてジュリアが今までどんなに苦労していたかを思い出した。


エドワーズ男爵家は貧乏だと公言していて、小さい頃からジュリアに侍女仕事をやらせていた。

食事の支度、掃除、洗濯、あらゆる事を。

ジュリアは嫌な顔ひとつせず、従っていたため、婚約してからドミニクは何度も男爵家に戒めたが、一時的に家事から解放されても、2、3日もするとまた元に戻った。

その上、休んだ分の仕事が山積みのまま残されていたので、かえってジュリアの重荷になってしまうのだ。


それでも心配してくれるドミニクの存在はかけがえの無いものだと言ってくれた。


ドミニクはジュリアを心配して婚姻を早めようとしたが、ジュリアの母が兄を先にと言い張り、それも成されなかった。

思えば、給金を払う必要も無いジュリアを追いそれと手放したく無かったのかもしれない。


その証拠にジュリアの母はしょっちゅう新しいドレスや装飾品を購入していたし、兄ダンには好きな物を自由に与えていた。

貧乏男爵など怪しいものだと、ドミニクは疑っていたのだ。


多額の支度金を渡し婚姻を進めようと思ったが、それはジュリアに止められた。

そんなお金があるなら、領民の皆さんへ還元してください、と。


考えれば考える程、ジュリアは清廉潔白な令嬢だった。

何をとち狂ってあんな酷い事を言ってしまったのか、とドミニクは何度も何度も後悔した。


軽蔑する弟ブレイクの言葉を鵜呑みにするなど言語道断だった。

幾ら言葉巧みに騙されたとしても、ジュリアの事は最後まで信じなくてはならなかった。


『どうか無事でいてくれ』


ドミニクの願いは最早それだけだった。



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