10.明暗
それからジュリアは馬車馬の様に働いた。
毎日ブライアント領を廻り、荒地に祝福を与え、病人を癒やし、時には雨を降らせた。
一度祝福を受け肥沃な土地になると、作物は次々と順調に育ち収穫出来るようになった。
領民たちは歓喜と興奮を持ってジュリアを讃えた。
皆の役に立てる事は嬉しいが崇め奉られる事にジュリアは困惑した。
噂になり王都に戻されるなど真っ平だった。
そこでライリーは領民に言った。
「聖女様はお忍びでこのブライアント領にいらしている。決して他言してはならない。
それは大恩ある聖女様を裏切る事となるからだ」
飢えから解放された領民たちは皆沈黙を守った。
数ヶ月もすると、貧かったブライアント領は
作物を売って収入を得ることが出来るまでになった。
領民たちは明るく笑うようになり、廃れていた領都も復興し始めた。
ジュリアはブライアント伯爵邸の一部屋に住まい、活動していた。
夜になると、ドミニクを思い枕を濡らしていたが、いつかこの苦しみから解放される日が来ると思いたかった。
ドミニクはもう別の人と婚約したかもしれないのだから。
すっかり元気になった伯爵夫人は商才があったようで、作物の取引に手腕を発揮し始めた。
エマとジュリアは小綺麗な服と装飾品を身につけるようになり、幾分華やいだ。
ライリーはジュリアへの感謝を忘れず、質素剛健を旨に領地経営を行なっていたので、ブライアント領はあっという間に、王国でも1、2を争う健全な領地となった。
その反面、急に傾いた領地があった。
ジュリアの兄が婚約しているミア・コリンズ伯爵令嬢の実家のコリンズ伯爵領である。
数ヶ月前から急に土地が荒れ始め、雨も降らず、収穫は皆無に近くなった。
多くの収穫で潤っていたコリンズ伯爵は、その利益を領民に還元せず、全て家族の享楽の為に使っていた為、蓄財も殆ど無かったので
それこそあっという間に傾いた。
商会への支払いも滞り、借金の取り立てが厳しさを増し、ついには差押にまで及んだ。
自分の宝石などの装飾品まで差押えられたミアは婚約者のダンに泣きついた。
せめて宝石類を取り戻して欲しい、と。
しかし、そもそも財産目当ての貧乏男爵嫡男ダンがそんな要望に応えるわけが無い。
さっさと婚約破棄を申し出た。
ミアはダンを少しも愛していなかったが、
情を交わしたのに捨てようとしていると貴族令嬢らしからぬ騒ぎ立てをしてダンを繋ぎ止めようとした。
流石のエドワーズ男爵夫妻も世間体を気にして婚約を破棄する事が出来なかった。
ある日、エドワーズ男爵邸にやって来たミア・コリンズ伯爵令嬢は嬉々としてダンに告げた。
「お腹に貴方の子がおります。
早急に結婚してください」




