12.招かざる者
ブライアント伯爵領はかつて無い程潤っていた。
作物の収穫は順調過ぎる程順調な上、元々大量に作物を流通させていたコリンズ伯爵領が不作で、かなり有利な条件で取引出来るようになったからだ。
かと言って、暴利を貪る訳では無く、誠実な取引を心がけていた為、信用も上がり、顧客も右肩上がりに増えた。
収入は領民に分配されたが、その分税収も上がり、伯爵家の財政は鰻登りだ。
ブライアント伯爵夫人とライリーは、不作や飢饉に備えてその大部分を蓄財する事としたが、残りについてはジュリアに渡したいと申し出た。
「私はお邸にお世話になって着る物も食べる物も十分頂いております。
でも、もしそのお金の使い道を考えるなら、
この領地の特産物作りの資金になさったらどうでしょうか」
少しでもジュリアの恩に報いたいブライアント伯爵夫人とライリーだったが、ジュリアの決意は固かった。
「仕方ありませんね。
ジュリア様がはいと受け取る方では無い事はわかっていました。
それではこれは特産物作りの基金とします。
そして基金名はジュリア基金とします」
伯爵夫人はキッパリ宣言し、異議は受け付けなかった。
「ジュリア基金!素敵」
エマがニコニコ笑う。
「名前だけで大成功しそうだね」
ライリーも嬉しそうだ。
いつの間にか、ブライアント伯爵家の3人が大切な家族になっていた。
温かい心を知らずに育ったジュリアだったがブライアント伯爵家に来てからは幸せだった。
たったひとつだけ、欠けているのは愛する人、ドミニクだけだった。
特産物を何にするか話し合っていると、最近雇った執事が来客を告げた。
「エドワーズ男爵夫人とその御令息が、エマ様にお会いしたいとお出でになっております」
エマも驚いたが、ジュリアはもっと驚いた。
「コリンズ伯爵家は没落したと聞くから、おそらく最近潤っている我が家に鞍替えしようと言う魂胆だな」
ライリーが苦虫を噛み潰したように言う。
「懲らしめてやりましょう」
ブライアント伯爵夫人がらしくない言葉を吐いた。
「私の可愛い娘たちを苦しめた親子です。
きっぱりお断りしましょう」
ジュリアはブライアント伯爵夫人に感謝して微笑んだ。
「応接室に通してくれ。私と母が行く」
執事は礼をして下がった。
「エマとジュリアは応接室の隣の控室に後から入ってくれ。
あそこなら会話が聞こえるからね」




