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告白の返事、そして、衝撃

 二人の時間は静止し、俺と鈴風はじっと見つめあう。

 何も言えず、何もできず、ただただ固まる俺たちを余所に、沢山の車だけが俺たちの横を我関せずとばかりに走り抜ける。


 夕暮れの風が俺たちを掠め、びゅうと左大文字の山のほうへと向かって飛んで行った。

 さて、どう返したものか。

 鈴風が俺をからかって言っているわけではないことは、その真摯な目から明らかだ。

 ならば、俺が返すべき言葉は、一つしかないだろう。 



「俺も、お前のことが好きだ。鈴風のことが、好きなんだ」



 もう、はっきりと認める。

 俺は、鈴風のことが好きなんだって。

 いつからかはわからない。最初はウザいやつだとしか思っていなかったが、いつの間にか、少しずつ、俺は鈴風に惹かれていっていた。


 だから、俺は鈴風が泣いていたら悲しいし、元の笑顔を取り戻してほしいと思うんだ。

 鈴風は、俺の言葉ににっこりと笑って、


「なんだ。もうとっくに両想いだったんじゃないですか」


 そういうことになる。俺たち、妙に回りくどいことをしていたようだ。


「ちなみに、私がさっき部室で激怒しちゃったのも、諒さんのことが好きだからだったんですよ。どうでもいい男の人だったら、部室で何してようが私には関係ありません」


 そういうことだったのか。それにしても、本当に俺たちしょうもないことが原因で喧嘩してしまっていたんだな。部室でヤってても気にしないというのは、さすがにどうかと思うが。


「もう。諒さんが不器用だから、とんでもない回り道しちゃったじゃないですか。これだから童貞は困ります」

「うるせえ。お前だって処女のくせに」

「あれ? ばれちゃってました? なんでわかったんです?」


 お前最初に自分でそう言ってただろ。


「ま、そういうことならお互い様ですね」


 そして俺たちは、一度顔を見合せた後、大きな声を上げて笑った。

 これなんだよ。この感じだ。

 この会話。こういう会話を鈴風とするのが、俺は本当に大好きなんだ。俺は今ようやくそう気付いた。


 前にこんな雰囲気の会話を鈴風としてから、そんなに時間は経ってないはずだ。昨日の夕方まではそうだったはずなのだが、なんだかずいぶんと久しぶりのことのように思える。


「諒さん。じゃあ、また明日会いましょう。それと、さっきの胸の痛みの件、ちゃんと病院行かなきゃダメですよ?」

「ああ、わかってる。じゃあな。鈴風」


 そしてお互い手を振りながら、俺たちはそれぞれの家路についた。





 鈴風と別れた後、俺は親に電話で心臓の痛みのことを話し、その足で「何かあったらここへ行ってください」と、紹介されている京大病院へと向かった。

 親があらかじめ話を通していてくれたらしく、俺は病院に到着後、すぐに精密検査を受けることができた。


 途中で親とも合流し、一緒に診察室で医者の前に座り、検査の結果を聞く。


「特に……、異常は見当たらないですね」


 初老のおっさん医師が、検査結果の資料を見ながらいう。


「本当ですか?」

「はい。各種画像にも変なところは見当たりませんし、数値もすべて問題ありません」

「じゃ、じゃあどうして……」


 母親が心配そうに尋ねる。


「おそらく、精神的なものかと思われます。しばらく様子を見ましょう。現在も定期健診をされているようですが、次の検査は……、来週ですか。ならばそれまでに特に異常がなければ、とりあえずのところは放置してもかまわないと思います」


 その医者の言葉にとりあえずは胸をなでおろし、俺たちは仕事帰りの父親が運転する車に乗って、自宅に帰ることになった。


「よかったなあ。なんの異常もなくて。おれも心配でならなかった」


 ハンドルを握る父親が、俺に向かって言った。


「びっくりした。だって諒、着替えもせずにいきなり家を飛び出したかと思うと、外で倒れたとかいうんだもん」


 なぜか親に着いて病院に駆けつけた姉が言う。そして俺の顔をじっと見て。


「それにしても、なんでいきなり家出て行ったの」

「…………」


 俺が答えられないでいると、姉はなにやら合点のいった様子で、


「なるほど、鈴風ちゃんか」

「な、なに言ってんだよ姉さん!」


 自分でもはっきりとやらかしたと思うほどの、わかりやすすぎるウソだった。


「ほーう。諒もやるじゃないか。やっぱり鈴風ちゃんがいいんだな」


 父親がにやにやしながら言ってくる。


「いや、父さんも悪乗りするのはやめてくれ。違うんだ。そうじゃないんだ」


 俺は家族に鈴風のことを説明する。先ほどの告白の話なんかは抜きにして、ただ超常現象研究会の話、その活動のことだけを淡々と話す。もちろん瑞楽神社の話は飛ばした。

 そうして昨日鈴風を絶望させた、比叡山のイタコバアアの話を終えたころ、父親が「そういえば」と切り出す。


「なんか、その件を聞くと思い出すなあ」

「なにがだ?」


 そうして次に父親の発した言葉は、初耳で、俺にとってあまりに衝撃の強い言葉だった。





「お前の心臓の提供元も、確か当時三十代半ばの、交通事故死した女性だったらしい。ちょうどお前のドナーと同じくらいの時期に死んだんじゃないか?」





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