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鈴風の家に行ったら、ひどい勘違いをされた件

「え……?」


 初耳だ。

 通常、プライバシー保護の観点から、ドナーと移植先には、お互いの個人情報は知らされない場合が多い。しかし、聞けばある程度は答えてくれる場合はあるらしい。

 ちなみに、ドナーやその家族にお礼の手紙を出すことは可能だ。俺も日本臓器移植ネットワークという組織を通して、遺族に手紙を渡してもらっている。

 それにしても初耳だ。俺の心臓の移植元が三十代半ばの女性だったとは。

 手術前後はそんなこと気にしている余裕もなかったし、助かってからは新しい人生を謳歌するのに必死で、移植元がどんな人かなんて全く気にしていなかった。


 なんだか、胸騒ぎがする。ひょっとしたら、今俺の周りではとんでもないことが起こっているのかもしれない。


「父さん。その人って、もしかして脳死、だったりするのか」

「そりゃあそうだろ。普通の失血多量による多臓器不全で死んだなら、心臓は使い物にならないからな」

「そう、なのか……」


 俺の頭の中に浮かんだ、あまりに荒唐無稽な仮説。

 しかし、そう仮定すると、何の矛盾も起きないのは事実だ。

 これについて真偽を確かめる方法は、ひとつしかないだろう。

 俺はスマホを取り出して、鈴風にLINEメッセージを送る。


「鈴風、ちょっといいか」

『あ、諒さん。どうしたんですか?病院にはちゃんと行きましたか?』

「ああ、行ったよ。特に問題はないらしい」

『ならよかったです。もーほんとに心配だったんですよ』

「悪いな。それで、少し頼みごとがあるんだが…… 」

『ん?なんですか?』

「あのさ、今からお前の家、行ってもいいか?」

『え!?』

「いきなりですまんが、お願いできないか」

『そ、そんなこと、いきなり言われても、困りますよ…… 』

「そうか。そりゃあそうだよな。いきなりこんな時間に押し掛けるのは非常識だよな。悪い。また後日出直す」

『いい、ですよ』

「え?」

『わかりました! ちゃんと心の準備をしておきます! お待ちしております!』


 なんか鈴風の反応が不自然だが、どうやらちゃんと了承されたらしい。すぐに鈴風の家の位置を示す地図が送られてきた。


「父さん。ちょっと寄りたいところがあるんだ。行ってもらってもいいか?」

「ん?まあ別にいいが」


 家族に行先を特定されないために、中大路家の近くの本屋で降ろしてもらい、俺は父親の運転する車が遠くに走り去るのを見届けてから、鈴風の家へと向かった。

 二階建ての庭付き一軒家。俺はチャイムを鳴らす。

 あたりはもうすっかり暗くなっており、こんな時間に押し掛けて申し訳ないなと思いつつ、俺はインターホンで誰かが出るのを待った。


『は、はい!諒さんですね!今すぐ開けます!』


 上ずった鈴風の声。しばらくして扉が開き、中から鈴風が出てきた。

 門を開き、俺を中に招き入れる。


「どうしたんだお前その恰好」


 今にも下着が見えてしまいそうなミニスカートに、ぴっちりとしたチューブトップ。肩が思い切り丸見えになっており、あまりない胸もくっきりと強調されていることにより、それなりに扇情的な光景が生み出されていた。


 一言でいうと、鈴風にしては相当エロい服装である。 

 俺が玄関で靴を脱ぎ「お邪魔します」というと、鈴風は恥ずかしそうに言ってくる。


「もう……っ!諒さんだってわかってるでしょう?まったく手が早いんですから」


 そこで俺は、どうやらさっきから鈴風との会話が噛み合っていないことに気付く。


「お風呂はこちらです。諒さん用のバスタオルは用意しておきました」

「お前、なんか勘違いしてないか」

「え……?」

「なんで俺が風呂に入るんだよ」

「え、ふつうそうなんじゃないんですか。そういうプレイだというのなら別ですが……。あ、本番はちょっと待ってくださいね。今妹がゴム買ってきてますから」

「お前はなにを言ってるんだ!?」


 俺は鈴風の言葉に頭を抱える。どうやら俺はひどい誤解をされていたらしい。


「え!?ついに私たちは子づくりの真似事に手を出すのではないのですか!?ま、まさか中出しするつもりですか。そうなんですね!固くそそり立った肉棒から吹き出す白く濁った液体で、私のまだ純潔を守っていた子宮を汚すつもりなんですね! そ、それはさすがに気が早すぎますよ……! 妊娠や性病のリスクだってあるのに!」

「お前いつ俺がそんなこと言ったよ!?」


 なんてことだ。まあちゃんとあらかじめ要件を伝えなかった俺のほうにも、責任はあるのかもしれないが。


「そうなんですか……。わかりましたよ。じゃあ諒さんは、いったいうちに何をしに来たんですか」

「俺は、お前の母親のことを聞きに来たんだ。もしかして、お前の母親って…… 、死んだときに自分の心臓を提供したり、していないか」


 鈴風は目を見開いて俺のほうを見た。


「どうしてそれを……。なんで諒さんが知ってるんですか」


 やっぱりそうだ。俺の頭の中にある仮説が、いよいよ現実味を帯びつつある。

 手がかりは少しだけだがあった。

 昨日のイタコババアとの会話。鈴風が「お母さんは心臓は無事だった」と言い切ったことを思い出して、俺はその可能性に行き当たったんだ。

 だって、普通母親の死因が脳死か多臓器不全かなんて、中学生の少女が覚えているだろうか。事故で死んだという印象のほうがはるかに強いはずだ。

 覚えているとしたら、何か強く印象に残る、心臓に絡んだ出来事があったんじゃないか。そう思ったんだ。

 そう。

 たとえば、



 母親の心臓が誰かに移植されていたりだとか。



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