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封印されし邪神の彼女  作者: 井戸正善/ido
第二章:二人の乙女
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2.拾われた聖女

 教団による森の監視は続いていたが、少数だけ残されて監視を押し付けられた騎士たちやその生活を支える者たちにやる気などあろうはずもない。

 監視はなおざりでしかなく、日に二度ほど、森を遠くから短時間だけ見ているに過ぎない。

 シロウたちが監視の目を潜って森を脱出するのは、難しい話では無かった。


 街道へ出れば、見た目は人間と変わらない三人が見とがめられることも無く、のんびりとした徒歩での旅が始まる。

 スクアエはディエナを歩かせるのは良くない、と馬を用意することを提言したが、あっさりと本人に断られてしまった。

 ディエナは、シロウと並んで歩きたいのだ。


「ジュノーが付いてこないって、珍しいよね」

「全くです。普段からあれほどディエナ様のことばかり話していたはずなのに」

「あまり口数が多い印象は無いが……そうなのか?」

「あたしと二人の時は、それこそずっとディエナ様の話をしているわ」


 スクアエがジュノーと出会ったのは随分昔のことで、ディエナと森で出会うまでは、時折顔を合わせる程度の“知り合い”だった。

 寒い地域で同種族たちと暮らしていたスクアエと違い、ジュノーは人間の町に潜り込むのが得意であり、あちらこちらの国をフラフラと出歩いていたらしい。

 妙齢の婦人が一人旅をしているのだから、時折目を付けられては強引に言いよって来たり、暴力を振るったりする男もいたらしい。盗賊も出たとか。


「そういう連中を“餌”にしていたみたいね」

「なるほど、喰われた連中に同情はできんな」


 ディエナと出会ってからのジュノーは、時折ふらりと出かけることはあっても、基本的にスクアエと共にディエナの一番の側近として振る舞っていた。

 実力もあるので他のモンスターたちからも特に文句は出なかったという。


「時々には森の中で勝手な真似をするモンスターも出るけれど、そういう時はジュノーがよく治めてくれていたね」


 ディエナの認識ではジュノーのことは頼れるお姉さん的なものらしい。スクアエは友人といったところで、森の治安といった部分に関わる部分ではジュノーの役割は大きかったようだ。

 元が人間であり、貴族としてそういった政治や組織についても多少なり学んでいた部分があるせいかも知れない、とスクアエは言う。


「今はハーバードがいるから大丈夫」


 ディエナの言葉に、シロウも納得する。

 僧のような格好をしたモンスターのハーバードは、理知的で争いごとを仲裁することも多く、ディエナも頼りにしているようだ。

 シロウは彼との会話で昔いた日本の情景を思い出すこともあり、彼のこともまた友人として認めている。


「そろそろ、町に付きます」


 スクアエが指差す先には、それなりの大きさの村があった。

 彼女の説明では、宿もあるはずで一晩そこで過ごしてから、今後の計画を見直すつもりらしい。


「では、少し急ぐとしよう。腹も減ったし、折角なら保存食よりも暖かい食い物が欲しい」「賛成♪」


 ディエナがシロウの腕を掴んではしゃぐ姿を見て、スクアエは複雑な気持ちで微笑む。

 主人が喜んでいる姿を見るのは良いが、その相手がシロウであることに不安を覚えていた。彼女もまた、シロウが元の世界に帰ってしまうのでは無いかと危惧している一人なのだ。そうなればディエナの悲しみはこれまでにない深いものになるだろう。

 旅の中で万一シロウがそんなことを言い出したならば、彼女はどうするべきか、まだ考えている。


 村へと近付いた一行は、異様な雰囲気に気付いた。

 モンスター避けに高い木の塀が張り巡らされた村の外で戦闘が起きている。それは人間同士のものではない。

 何匹ものモンスターによる襲撃だった。


「シロウ……!」

「一つ聞く。あれはお前の仲間か?」

「ううん。違うよ」

「なら、良いな?」


 シロウが問う意味を理解し、ディエナは即座に「もちろん」と答えた。

 直後、シロウは砂塵を巻き上げながら駆け、村へと迫った。



「すみません。こんなに良くしていただいて」

「良いのよ。困った時はお互い様だから」


 ディービーに手伝ってもらい、どうにか幽閉された塔からの脱出に成功したエイミィは、碌な準備もできていない状態で街道を歩いていたところで、通りかかった女性に助けられた。

 どこかで見たような気がする相手だったが、女性の方はエイミィが何者かは気付いていない。教団の催しで顔を見た程度なのかもしれない。


「あの……何も聞かれないのですか?」

「言いたくなったら、教えて頂戴。女の子には秘密があった方が魅力的だし、たまには冒険したいと思うものよ」


 疲労により街道でへたり込んでいたエイミィの前に馬車が止まったとき、教団からの追っ手かと思ったが、それにしては豪奢な馬車だった。

 下りてきたのは妙齢の婦人で、仕立ての良いドレスに真っ赤なヒールを響かせてステップを踏み、エイミィの前に立つと、そっと膝を折って視線を合わせて言葉を交わした。

 そして、自分のことを説明できないエイミィを馬車に乗せ、自分が泊まっているという町の宿へと連れて来られたのだ。


 それからはお風呂を使って着替えも用意してもらい、今はずらりと並んだ食事を挟んで向かい合っている。

 にこにことした表情のままで次々と食事を口に運ぶ様子は、婦人が見た目よりも健啖家であることを示していた。対して、エイミィは少しずつ食事を口に運ぶ。


「これからどうするつもり?」

「はい。できればテーゲンの町へ行き、調べ物をしたいと思っているんですが……」

「テーゲン? 随分と遠い場所ねぇ」


 婦人が言う通り、馬なり馬車なりを使えば問題無いが、同国内とはいえ女性が徒歩で行ける距離では無い。

 ましてエイミィは充分な資金どころか着替えすらもたずにいたのだ。婦人の困惑も当然だった。


「でも、どうしてもそこに行く必要があるのね? それなら、各地のアスカリア教支部に頼ればどうかしら? 寝泊りとちょっとした食事くらいは出してくれると聞いたけれど……嫌、みたいね」

「嫌と言うわけじゃないんですけれど、ちょっと」


 教団の名前が出た時点で暗い顔をしていたエイミィに、婦人は苦笑していた。


「何か深い事情があるみたいね。なら、わたくしが少しだけ協力してあげましょう」

「そんな! ここまでしていただいただけでも……」

「良いのよ。わたくし最近少し忙しかったから、ゆっくり旅でもしようと思ってふらふらしていたの。目標ができるなら、丁度良いわ」


 しばらく逡巡していたエイミィだったが、迷惑では無いかと婦人に再度確認したうえで「お願いします」と頭を下げた。


「あの、今更ですけれど、お名前を……。わたしはエイミィと言います」

「あら、噂の聖女様と同じ名前なのね。羨ましいわ」


 俯いてしまったエイミィに軽い調子で詫びを言ってから、婦人は口元へ布巾を軽く押し当て、真っ赤なルージュが写ったそれを片手でクシャリと潰してテーブルへ置いた。


「わたくしはジュノー。家名は、お互いに秘密にしましょうか」


 ウインクと共に名乗ったジュノーに対し、エイミィは再び礼を言った。

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