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番外編3 彼女たちのデート。リーナの場合。

 系統も違う美少女が三人も連れだって歩けば、厄介ごとに出会うのは自明の理。

 今日も今日とて王都の下町に遊びに来た彼女たちは入れ食いのようにナンパされる。大体はお断りしても残念そうな顔をしながらも立ち去る。

 しかし、やっぱり、例外はいるものだ。


「きれいどころがそろっているじゃん。俺たちとお茶でもしない?」


 下町には少し不似合いな三人連れだった。自分たちも不似合いではあるが、下町向きの格好には改めている。良いところのお嬢さん然としたところはあるものの彼らほど浮いてはいない。

 リーナは騎士階級かとあたりをつける。下町にも顔を出しても抵抗のない良い育ちというのはそのくらいだろう。男爵でも爵位を持てば、王都では見栄くらい張る。見栄が大事な階級社会をあほらしいと思うが、それに逆らう気もない。


 リーナたち三人が下町に出てきているのはこういったところでも商売する男が婚約者であるから。市場調査という建前である。お忍びが楽しいとかそいうことではないことになっていた。

 それにお忍びと言っても護衛はついている。少し離れてというだけで。


「婚約者がおりますの。他の殿方とは同席できませんわ」


 おっとりとローゼリアがナンパ男にお断りをする。その間にリーナは護身用の武器を後ろ手に握る。フィーリアは悲鳴担当。周りに助けて欲しいとアピールすることも忘れない。


「そんなのより俺たちと遊ぼうぜ」


「……なんてテンプレ」


 リーナがぼやくくらいにはいつも通りの台詞である。ナンパの指南書でも出回っているのかと思うくらいだ。

 それも断ると無理矢理連れて行こうとするのだ。即護衛に尋問されて逃げ出すまでがテンプレである。こんなところに上位貴族のご令嬢歩かせるなと思うところだろう。


「お断りします」


 ローゼリアがきっぱり断るとその男たちは一歩近づく。

 リーナが新展開がないかとため息をついた。


「リーナ嬢?」


 リーナはその声に魂が抜けそうになった。やばいというレベルを超越している。横のローゼリアを見れば顔色が青ざめている。状況が分かっていないフィーリアが羨ましく思う。

 やはり、彼、らしい。

 声のした方を見れば、銀髪の男が近づいてくるのがわかる。


「閣下」


 呻くようにリーナはその男を呼んだ。

 既に40を越えているはずなのにやけに若々しく、まだ30そこそこに見える。細い目と穏和そうな表情はその本質とは異なった。本人はそこそこと語っていたが、大体のことをそこそこ出来る人は総合的にチートである。


 というのがローゼリアの父ジルリオン・ルースである。


「君たち、なにしているんだい?」


 彼は当たり前のように護衛を引き連れて下町の大通りを歩いてきた。大層なご貴族の当主とは思えないほどの気軽さである。せめて馬車を使えとリーナは言いたい。どこか浮世離れしたところは親子そっくりだ。ローゼリアの母は彼女が幼い頃亡くなっているので、父親の育て方の問題だろう。

 そうでなければ、あの時、放って置いたりなどしなかっただろう。


「息抜きです。遊びです。すみません」


 ここが外でなければ、リーナは土下座していただろう。全く目が笑っていないのだ。なぜ、ジルリオンがそこにいるのだと問いただしたい。

 フィーリアがよくわからない顔で首をかしげている。それも当然と言える。ローゼリアは色彩は父譲りらしいが顔立ちは母に似たようだ。あまり似てない。


「……そう。では、おしまいだ。帰りなさい」


 先ほどナンパしてきた男たちは護衛にあっさり排除されている。大通りの端とは言え明らかに育ちの良い護衛付きがうろついていては目立つことこの上ない。このまま遊びに出ることは不可能だろう。

 ローゼリアはしょぼんとした顔をするが否を言うことはなかった。


「彼が帰ってきていた。先ほどあってきたがまだ店にいるだろう。明日、屋敷に来るとは言っていたが」


 しょぼんとした娘に慌てたようにジルリオンはそう言った。ちょろい。リーナは白い目を彼に向けた。


「行って来ても良いですか? 父様」


「遅くなるなよ」


 あっさり婚約者の元に娘を送り込む。フィーリアもついて行くようだったが、リーナは留まることにした。

 ジルリオンには仕事の話もある。


「行かないのかい?」


「行けないですね」


 リーナとて婚約者に好かれたくないわけではない。ただ、一番にローゼリアを優先するし、大切にしたいとは先に言われてしまったのだ。だから、これ以上の気持ちを持つことを恐れている。彼女たちとは心地良い女友達でありたいと願うから。

 ならば同じ男の婚約者などということをしなければよいのだろうが。

 彼以外にリーナを自由にさせてくれそうな男はいなかった。女性ならどこぞの王太子妃が拾ってくれそうな気はしたのだが。


 ため息が聞こえた。


「では、私に付き合って貰おうか」


 その後、公爵家でおもてなしをされてしまったことがローゼリアに変な誤解を与えてダメージを食らうことになるとはリーナも予想していなかった。









「聞いてくださいっ!」


 ご令嬢として育ったローゼリアが大声を出すことは滅多にない。リーナは何事かと慌てる。なにか天変地異でも起きたのだろうか。


「父様が屋敷に女性を連れて来たって言うんですの。とても親密そうで、もしかして、再婚相手とか」


 天変地異だった。主にリーナにとって。その悪意に満ちた情報をなぜにローゼリアに伝えたのだろうか。


「それ、わたし」


「ふぇ? ええ、と、父様と再婚しますの?」


「……しません」


 リーナは苦い顔をする。妙な約束をさせられた。

 本当に苦しくなったら、思い出して欲しいと。

 利害関係だけのほうが、もっとずっと、楽だったような気がした。好意というものはどういった種類であれたちが悪い。

 そう、たぶん、恐いのだ。

 また、裏切って、裏切られるのが。


「では、皆に言わないように伝えておきますね。屋敷では大盛り上がりでしたの。しばらく恋人もいないようでしたし」


 何でもないことのようでローゼリアは爆弾発言を投げてくる。リーナは天然か養殖か少々思い悩む。しかし、天然であると思っていた方が精神衛生上よろしい。少なくともリーナにとっては。


「ローゼリア様」


「なんでしょう?」


「恋、とは良いものでしょうか」


 彼女の笑顔は曇りがない。ああ、これに負けたのだとリーナは思う。他人と婚約者を共有して尚、この笑みが浮かべられるのだ。

 良いことも悪いことも飲み下せる。


「いつか、したいものです」

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