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水晶の遺跡

「それで、今日は何処へ行くの?」

「うん? ……水晶の遺跡に行こうと思って」


 そうクルスが微笑みながら答える。

 その表情を見ながら、クルスって綺麗な顔をしているなー、とアリスは思いながら、


「どんな場所なの?」

「初心者用の遺跡で、水晶で作られた綺麗な遺跡だ」

「そうなんだ……遺跡って綺麗な所ばかりなんだね」


 アリスが無邪気にクルスに言うのを聞いて、フラットが後ろで噴出す。

 それをクルスがじろりと睨みつけるも、すぐに哀れみの視線に変わった。

 レイナがフラットに、あんた、アリスの恋路を邪魔したらただじゃ置かないわよ? と低い声で囁いていたからだ。

 思わぬ味方が増えたと、心の中でクルスが喜んでいるとフラットが、


「脅しには屈しない! 実はこの水晶遺跡は、この前の遺跡と同様、デート遺跡として名高い……」

「だから初心者向けの遺跡なの。でないと冒険者だって気軽に来れないでしょう?」


 さらっとフラットを押し切り、レイナが説明した。

 それにフラットがしょぼーんとして、けれどクルスが、


「随分詳しいんだな。巫女さんとはいえ、戦闘に長けていると?」

「ええ。私は実践的な巫女さんですから。もう鞭でびしばしと、仕えさせる人間は教育する事にしておりますの」


 そこで、レイナがちらりとフラットを見て、フラットはさあっと顔を青くして、


「な、何で僕の方を見るんですかー。嫌だー!」

「フラットさんみたいな、自分は男なんだぞー、女の子大好きっという可愛い方を教育して下僕にするのが私の趣味なんです」

「……ちなみに下僕は何人くらい?」

「下僕レベルのファンは、30人程度、すぐに貴方を仲間入りにさせてあげるわ、フラットさん?」

「ひぃいいい」


 フラットが悲鳴を上げてぶるぶる震えだした。

 そんなフラットとレイナの様子に、クルスがアリスに問いかける。


「……あのレイナって子、本気でフラットをそういうのにする気か?」

「多分冗談だと思う。でも変ね、レイナはいつもはもう少し素の状態でもあそこまで突っかかることなんて無いのだけれど……」

「アリスは、何か思い当たるところがあるか? フラットに関して」

「うーん、あ! レイナちゃん、節操無く女の子に手を出す男が嫌いだった」

「……いや、でも吟遊詩人だしなフラットは……」

「吟遊詩人て、確か寵愛を受けるために、リップサービスも含めて口説きまくる職業だよね?」

「そうなんだが、フラットはそういう人達を相手にしなくても良い程度に生活ができるから、そこらへんにいる可愛い子に声を掛け捲って遊んでいたんだが、かといってあんな口説き方をしたら、な」

「そうだね……じゃあ、フラットにきつく当る理由が他にあるのかも」


 そんな気楽なアリスの言葉に、縄でぐるぐる巻にされかかっているフラットを見つつクルスは、


「本当に下僕を求めているとか?」

「それは無いよ。下僕はレイナが信頼できる人達だけだもの。会ったばかりのフラットが、候補としてはあるかもしれないけれど……多分ちょっと脅かして、様子見しているのかも」

「様子見、ね」


 その言葉にクルスは少し思う所があって黙ってしまう。

 この程度で切れて怒り出すほど、フラットは心が狭くないし、状況も理解している。

 ただ、その隠された本性を引きづり出されるのは、フラットといえど本意ではないし、レイナにとっては非常に都合が悪いだろうとクルスは思う。特に、


「巫女さんだしな」

「? どうしたの? クルス」

「巫女さんて、“光”の属性が強いんだったよな。女神様の」

「そうらしいね」

「……暫く様子見だな」


 何の事と問いかけるアリスに、クルスは何でないと答えて……そこで水晶の遺跡の入り口にたどり着いたのだった。






 水晶の遺跡は、その名の通り薄く曇った滑らかで鏡のように姿を映す水晶が連なり、時に結晶としてむき出しになった、きらきらと輝く宝石のような遺跡だった。

 見ている分には確かに綺麗で、角度によって色を変えるのも美しい。

 しかも道の両端には明かりが灯されており、これは古代の技術によるものだという。

 というわけで明るく綺麗な場所となれば、自然とカップルが湧いて来るのも無理は無い。

 とはいえ、遺跡である事には変りは無いので魔物は出るのだが。

 そしてそんなクルス達の前に魔物が現れる。

 現れたのは、水色のひし形の結晶が五つほど集まった魔物が五体。


「しっねええええええ」

「おりゃああああああ」


 とてもたくましい雄叫びを上げて、レイナとアリスが勝手に戦闘するなとクルスが止める前に、突進していく。

 アリスはこの前の筒のようなものを取り出して、今回は電撃を浴びせて二体を粉砕する。


 一方レイナは、鞭を取り出してばしんと地面を打つと、そこから魔法陣が浮かび上がりなにやら縫いぐるみのようなものが召喚されて、その縫いぐるみから炎が噴出して瞬時に三体ほど粉砕する。

 そんなレイナの魔法を見ていたクルスがポツリと、


「……あのレイナは相当な実力者だな。女神の眷属である“精霊”を召喚して攻撃か」

「だね。で、どうする? アリスに、君も本当はもっと上の遺跡でも大丈夫だって教えられたら」

「どうかな。レイナは、多分アリスをそれほど危険な目にはあわせたくないのかもしれない」

「へえ、何で?」


 そんな面白そうにへらへら笑うフラットに、クルスは真剣な表情で、


「お前のあれが、感づかれているかもしれない」

「……へえ、それはそれは……中々上等な獲物だと?」

「……アリスの友人だから止めてくれ。というよりは、気付かれないようにという忠告だ。そもそも彼女は“流星の神殿”の巫女だ。下手に事を構えるのは得策じゃない」

「そうですか……クルス様がそういうのであればそうしましょう。というか、僕は逃げて良いですかね」


 そう呟くフラット。だが駄目だとクルスは一蹴して、フラットが疲れたように肩を落とした。そしてそんな二人の視線の先にいるレイナとアリスが、


「アリスちゃん、だいぶ魔道具の威力上がったんじゃない?」

「 レイナの召喚魔法にはまだまだ敵わないわよー」

「もちろん私は天才だからね」、

「相変わらずだねレイナちゃん。でもいつか追い越すからね!」

「ふふ、受けて立ってやるわ!」


 と、楽しそうに話す可愛い女の子が二人。


「……アリスがいつも以上に楽しそうだな……」

「そりゃまあ、友達がいるから。どうした、クルス」

「あんな風に俺にも無邪気に笑って欲しいなって」

「……本当にクルスは、アリスにお熱ですねー。まあ良いですけど」


 そこで二人がクルス達の方にやってきて、


「どう! クルス、私の戦いっぷり、見ていてくれた?」

「ああ。随分とアリスは強くなったな。魔道具、また改良したのか?」

「うん! 足手まといになりたくないから。それより……さっきから二人でお話していたみたいだけど、何を話していたの?」

「いや、レイナの鞭が、“精霊”を召喚するものだったんだなって」

「ああ、うん。そういう風にもレイナは使うよね」

「……」


 黙ってしまうクルスに、フラットは逃げようとしてレイナに襟首を捕まれた。


「どうされました? フラットさん」

「いえ、鞭が召喚以外に使われているんだなって」

「ええ。他に物を取ったりもできますね」

「……鞭って、そうやって使うものでしたっけ」

「普通の使い方もできますけど」


 にっこり笑うレイナはとても綺麗で楽しそうだった。

 それにフラットが逃げ出そうとして、そこでアリスが壁に赤く丸い光が現れて、まるでアリスを呼ぶように点滅しているのを見つけた。


「この赤いのなんだろう」


 近づいて触れようとしているアリスに、レイナは気づいて瞬時に顔を蒼白にさせて、


「アリス! やめなさい!」

「え?」


 レイナがアリスを焦ったように止めた。けれどそれにアリスは既に触れていて……。

 アリスも含めて、レイナ、クルス、フラットも赤い光に包まれ、いずこかへと飛ばされてしまったのだった。

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