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無声の少女  作者: けい
マーギスタ
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緊迫の建国記念日1

おおおお待たせしました…!!

 中央都市がいつも以上の賑わいに包まれる。建国記念は貴族たちだけでなく、一般市民にとっても外せない大切な行事の一つだ。様々な記念品が作られ、商店も潤い、貴族たちの見栄に任せた品々にも多くの注文が入る。

 装飾品や貴金属、ドレスに小物。そして記念日を彩る花々も通常の倍以上の売り上げになるのだ。それに比例するかのように、浮かれた人々を狙った悪事も増え、他地方からの上京も増加するため、軍による警備も厳しくなる。

 酒場での乱痴気騒ぎなど、今までも日常的に起こっていた小さな諍いも増加し、そこに意図的に悪意が組み込まれた事件も発生する。都市全体が開放的になる雰囲気に飲まれるのか、いつもより犯罪や喧嘩も増えてしまう結果を招くのだろう。


 

 そんな浮き足だったロットウェル国内の空気に感染していたのは、バーガイル伯爵家も同様のようだった。


「完成ね」


 満足気な声を出したのはミラビリスだ。その瞳の奥には自画自賛とともに、共に頑張った者たちへの賞賛も浮かんでいる。目の前にいるのは、着飾ったライナとアンヌの二人だ。二人が着てるのは、以前ミラビリスから下げ渡されたものをリメイクしたお揃いのドレスだった。


「二人とも似合ってるわ」


 元々はシンプルでありながら、細かい細工や、散りばめられた繊細な刺繍などが際立っていたデザインだったが、新しく作り直されたドレスはフリルやレースを追加し、可愛らしさを追加したものになった。流れるようなドレープの裾には、緻密な刺繍が追加され、それに合わせ小さな宝石も付けられた。そのため、少し動くだけで光に反射してキラキラと宝石が瞬き、豪華さも兼ね備えるドレスに仕上がったのだった。


「それにしても、本当に新しいドレスでなくてよかったの?わたくしの昔のドレスを使わなくてもよかったのよ?」

「いいえおばさま。わたくし、このドレスを着たかったので嬉しいのです。それに、この出来栄え……とてもリメイクとは思えない美しさですもの」


 言いながらその場でくるりと回って見せたアンヌは、楽しげに頬を染めている。確かにアンヌの言う通り、とても10年以上前のドレスを再利用したとは思えない仕上がりりだ。言わなければ誰に気付かれることも無いだろう。


「あなたたちがそれでいいのなら、いいのだけど」


 言いつつ、ちらりと視線を向けた先にいるのはライナだ。何度も試着をしているが、いまだにドレスに着慣れないらしく、しきりに『もぞもぞ』と体を動かしていた。


「ライナ、いい加減観念なさいな。それに、当日は全身のお手入れ、髪のセット、化粧もあるし、装飾品、貴金属が追加されるから重さも増えるのよ」

「……!!」


 すでに堅苦しくて肩が凝り始めていたライナは、言い渡された未来に心底イヤだと顔を顰めた。不満げに頬を膨らませ、じとっとした視線でミラビリスを射抜いてくる。しかし、そんな視線などミラビリスには通用しない。それどころか、ライナの視線をあっさりと跳ね返して代わりにゆったり穏やかな笑みを向けてくる。

 以前までは遠慮して自分を表さなかったライナが、こうして堂々と不満も含めた感情を表に出すようになったことを、伯爵家に住まう者たちは喜んでいるのだが、きっとライナには伝わっていないだろう。


「グレイは遠征中で間に合わないでしょうけど、女たちだけで楽しみましょうね」


 きっと今年も不参加だろうファヴォリーニのことは、最初から念頭にないらしい。

 バーガイル家をグレイが出発して早3か月。季節は春から夏に向けて歩き出している。そんな中、現当主のいない建国記念パーティは二日後に迫っていた。




 浮足立った街中で、それでも毎日ロージィは住宅街に巣食う破落戸たちを片付けていっていた。日に日に治安が良くなる住宅街に、人々の表情も明るい。だが、いまだにロージィは本星を見つけられないでいた。どこかにあるとされる、誘拐組織……少しでもアンヌに降りかかる危険を排除するためだけに、彼は毎日一人市街地に赴き、裏通りや怪しげな建物に潜り込んでは、剣を振るい続けているのだ。


「アンヌ様。絶対絶対に、わたしがいない時に屋敷から出てはなりませんよ。必ず戻ってまいりますから、それまでここに居てください。約束してください」

「ロージィは心配性ね」


 毎日アンヌをバーガイル邸に預けるたびに、ロージィは言葉を尽くした。つい先日、アンヌはあまりにも頻繁に自分の傍から離れるロージィに不審を抱き、ついに問い詰めたのだ。そして大事な主に質問をされ、ロージィが正しく返答を返さないはずがない。

 彼は実に雄弁に真実を語った。傍で聞いていたファヴォリーニとミラビリスが、その内容に驚き声も出ないことも気づかないまま。


「いまだ、不埒な輩が出歩いていると噂もございます。些細なことでも見過ごせません。お約束してください、アンヌ様」


 それはお願いではなく懇願だ。

 自分が傍で守れない時は、堅牢な伯爵家にいてほしいという切なる願い。アンヌは大袈裟だと一蹴したが、どんなに笑い飛ばしても、呆れた顔をしても、ロージィは決して自分の意見を変えたりはしない。 

 必死なほど見てくるその姿に、アンヌは何度目かの白旗を上げた。


「……わかったわ。ロージィが戻るまで伯爵家で待たせてもらうから、必ず迎えに来てちょうだいね」

「はい、必ず」


 アンヌはため息をつきつつ、頑固なロージィの案にいつも屈することになる。いつもはアンヌの意見に対して受け身なロージィが、ここまで強固に退治してくる理由があるのだと思うからだ。


 アンヌをバーガイル家に預け、市街地にて貴族子女誘拐組織、もしくはそれに準ずる場所を探すロージィ。探しつつ、怪しげな場所を片っ端から壊滅させていく。こんな事を続けていれば、自然と彼の容姿は闇に広がっていく。もちろん、その素性も―――。




 ロットウェル建国記念パーティ当日。

 中央都市は、以前開催された花祭り以上の賑わいと、騒々しい日を迎えた。国中が……いや、正しくは中央都市が突飛して盛り上がっていると言っていいだろう。派手な服装、羽目を外した姿、国を支える6人の紋章が描かれた旗を振る人々。歓声沸き立つ街中にはパレードが練り歩き、色とりどりの花びらがいたるところから舞い降らされる。    

 そんな浮かれた人々の間をすり抜ける様に走る小太りの男がいた。本来であれば馬車で向かうはずだったが、大通りは浮かれた人々で埋め尽くされ思うように動けない。そのため、直接走ったほうが早いと判断したのだ。

 そして男がたどり着いたのは、一般国民が主に住まう住宅街ではなく、貴族たちが主に住まう地域だった。さすがにここにまでは、街中のような喧騒はない。相変わらず高級感あふれる建物ばかりだ。


「開けてくれ」


 小太りの男はそんな屋敷が立ち並ぶ中、迷うことなく一軒の屋敷に走り込んだ。そして裏門に面した扉を軽く、そして素早く叩いた。そこは通常であれば厳しい警備がなされている屋敷だったが、この男が来る日だけは意図して屋敷の警備は緩められているのだ。訪問を予期していたのだろう、一人の細身の家令が扉を開け、そのまま不審な男を中に招き入れる。


「お時間が掛かりましたね」

「お祭り騒ぎのせいで、馬車移動は無理だったんだ」

「それはそれは」


 特に感情のない返答に、招かれた男はちっと舌打ちだけを返す。案内されずともこの屋敷に訪問するのはすでに10回は超えているため、一人でも目的の部屋までたどり着けるのだが、この年老いた家令はそれを決して認めない。


「お待ちください―――旦那様、お客人です」

「ああ、入れ」


 目的の部屋の前で立ち止まった家令は、室内の主の了承を得てから扉を開けた。


「やぁ、久しぶりだ」

「……進展があったと伺いましたが……本当ですか、ディクター様」


 以前、自分の事を駒と呼んだディクターを苦々しく見据えながら、それでも男は出来うる限り下手に出て情報を探ろうとしていた。


「進展があった、わけではない」

「どういうことです」


 だが、あっさりと覆された返答に男の目が獰猛な光を宿す。堅気の人間であれば身を竦ませたくなる視線だったが、ディクターはまったく意に介さず、それどころか余裕の笑みを浮かべつつ手を振った。突然のジェスチャーを不審に感じると同時に、背後から異質な空気を感じとり、流されるままディクターの視線を追うと……小太りの男は自分の真後ろで短剣を構えている家令と目が合った。瞬時に背筋が凍るような感情のない目が見据えてくる。


「落ち着けフラン」

「かしこまりました」


 ディクターの簡単な一言で、フランと呼ばれた家令は構えていた短剣を素早く袖口に仕舞い込んだ。手ぶらな姿を見れば、とてもその服の下に武器が隠されているとは思えない程だったが、確実に袖口の中に短剣を隠し持っているのだ。決して殺すつもりではなかっただろう。たが、それでもディクターが了承していれば、フランは何の迷いもなく男の息の根を止めていたはずだ。


 ぞっと―――肌が粟立つ。


「仕事のできるいい家令なんだ。時々短気なのが勿体ないところだ」


 短気だからという理由で短剣をチラつかせられたのだと悟ると同時に、自分は餌に引き寄せられて自ら罠に飛び込んだ猪の気分だった。


「……それで……わたしを呼び出した理由はなんです」

「突然で悪いが、今夜にでも君たちの狙っている小鳥を奪おうと思う」

「! ライナですね」

「おやおや、わたしは名前を出したりはしないよ。無粋だね」

「そんな言葉遊びはどうでもいい。どうやって鳥籠から出す気だ!伯爵家はかなりの警備だろう。それに最近は常に見張りが付いてるんだぞ」


 急いた男はディクターに詰め寄って問い続けた。主に迫る小太りの男の姿に、フランの短剣が袖口からちらりと光を反射させている。


「大丈夫だ、任せたまえ。君は君で、なにか準備があるなら支度していればいい。荷物は小鳥だけではないのだろう?」

「―――ああ、そうだ」


 自分の仕事はライナの件だけではない依頼主がいる。男は現在、二つの仕事を同時進行しているのだ。どうせなら二つ纏めて遂行してしまえばいいと軽く考えて受けた結果、現在面白くない事態になっているのだが、足踏みをしていたライナの件が片付くのであれば、もう一件も今夜中に片を付けるしかない。


「それでね、わたしの私兵は使いたくないから君のところのを借りたいんだが、使えそうなのを置いて行ってくれ」

「わかった。あとで来させる」

「目立たないようにしてくれたまえよ。少しでも身綺麗にしてくれれば有難いね」

「……善処しよう」


 確かに高級住宅地であるこの場所を荒くれ者たちが闊歩していたら、否応にも目を引いてしまうだろう。


「ルートは当初予定していたもので間違いないかな」

「ああ、俺は一足先にここを出る。……間違いなく成功させてくれるんだろうな」

「わたしが舵を取るのだから間違いないさ。あとは君の部下たちの働き如何だよ」

「……腕利きを寄越す。裏切るなよ議長」

「ふふ、君こそ」


 そう言って笑った顔は冷たく美しい。小太りの男はこのディクターという男をどこまで信用していいのか迷う部分があったが、今は信用するしかないと決めた。なにしろ彼自身も危ない橋を渡っているのだ。

 俺たちは一蓮托生―――。男は腹を括った。


「では今夜の決行を期待してくれていたまえ」

「報酬はいくら必要だ?」


 男の言葉に、ディクターは驚いたように顔を上げ、それまで軽薄だった笑いを収めると自然な笑みを浮かべた。


「律儀だね、はははっ」

「……報酬は何が望みだ」

「ふっ。お金にはこの通り困っていない……そうだな……わたしの地位の安定かな」

「地位の安定?」


 不思議そうな問い掛けに、ディクターは目を細めた。


「ああ。わたしが誰かを消したいと願った時、手伝ってくれればいいさ」


 地位の安定。誰かを―――消したい時。

 それが示すのは、6人会議の議長たち。そしてディクターより上にいるとされている4人のメンバー。彼は暗に、そのうちの誰かを―――もしくは全員を消したいと願う時が来ると示したのだ。


「はは……あんた、立派な悪党だぜ」

「褒め言葉としては喜べないな。せめて策略家と呼んでくれたまえ」


 小太りの男の言葉に、ディクターは平然と訂正を入れた。飄々とした態度だが、それでもディクターの纏う空気が冷たく研ぎ澄まされていくのが分かり、男は少しずつ体を離して出口に近づいて行った。


「今さらだが、君の名前を聞いていない気がする。教えてもらっても?」

「最初に名乗ったはずだが」


 訝しげな視線を投げるが、ディクターに気にした様子はみじんもない。それどころか相手を懐柔させることに長けた議長の技『微笑』を武器に、その心の隙間にするりと忍び込む。


「すまない。忘れてしまったんだよ、言う機会が無いから」

 どうでもいい相手の名など―――


 一瞬だけ躊躇した男だったが、以前一度名乗った名前を再度名乗ることに抵抗を覚える方が間違っている気分になり、気が付けばするりと名乗っていた。


「ガードロス」

「覚えておくよ」

 ―――今はまだ。


「それでガードロス君。君が何処に向かい、仕事の仕上げをするのか聞いても?」

「ああ、マーギスタだ」


 ガードロス……ブルックス・ワムロー男爵の実兄は、弟のいる国の名前を口にしたのだった。


すごくすごく難産な回でした。とほほー

今回、場面転換が多いので読み辛かったらすいません!


次回は出来たら……本編と閑話休題を同時更新したいです!!

と希望だけ伝えておきます。ごにょごにょ

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