貴族の戯れ
遅くなりましたm(_ _)m
そこは、数多の宝石が光り輝く場所だった。
「ようこそ、お待ちしておりました。」
「やぁ、招待に感謝するよ。」
「いえ、シクザール侯爵にはお世話になっております。それに今回は殿下が直々に…」
ナジャからの激励を受けた後、私は待ち合わせていたお父様と馬車の前であった。「綺麗だよ、ラヴェリア。」と言ってくれた。褒めれて少し照れくさかった私は、顔を伏せてしまった。お父様はそんな私を見て笑いながら、手を差し伸べてくれた。エスコートだ。
戸惑いながらも、私は手をとられながら馬車へと乗り込んだ。お父様とは向かい合わせになるようにして座り、久方ぶりにお話をした。お父様は多忙な方だ。加えて私はここ2ヶ月間、ネピィオ先生の指導の元、勉強を毎日していた。まともに顔を合わせるのは食事の時ぐらいで、ろくに話す時間もなく、お父様は次の仕事へと向かってしまう。そのため、話すのは久しぶりだった。沢山のことを話した気がしたが、気がつけば既にお城に到着していた。
お城はとても壮大で優美だった。お父様の屋敷を見た時もとても綺麗だと思ったが、ここはそれ以上に美しかった。何もかもが違った。今、受け答えしている受付の人の笑顔から違った。あんな笑顔、私が住んでいた城では一斉なかったものだ。あそことは、違う。
―――――そう、『魔女』に支配された私が16年間生きてきたあの薄暗い城とは。
同じように王が住み、城下町には人が溢れ、栄えているのにたった一人いないだけでこんなにも違うものだったのだろうか。『魔女』――母がいなければ、父は愛する『あのお方』と結婚をして幸せになり、子供にも恵まれて笑顔に包まれていただろうか。わたし、私が生まれなければ。
「ラヴェリア、どうしたんだい?」
「あ、」
「ご気分が優れないのなら、お部屋をご用意いたしますが?」
「いえ、大丈夫です。ご気遣い感謝しますわ。」
そんな考えに浸っているとお父様は、受け付けの方と話し終えて、こちらにきたようだった。何も反応をしなかった私が気分が悪くなったのだろうかと思ったらしい。とても心配そうに見ていた。何でもないと言った私を気にしながらも、お父様は挨拶を済ませて来ると言って先に行かれた。お父様の後姿が見えなくなった後でも、私は先程考えていたことをもう一度、頭に巡らせていた。
ああ、私はどうすればよかったのだろうか?
16年間も生きなければよかったのだろうか。それとも乳母の手によって殺された方がマシだったのかもしれない。
だが、ここでそんなことを考えても仕方がない。私はならなくてはならないのだ、お父様に恩返しをするために、ナジャとの約束のために。
―――『王妃』にならなくてはならないのだ。
*
「これはこれは。シクザール侯爵ではありませんか。」
「おお、久しいな。トルメディーナ伯爵。それにご息女のベネフィカ嬢まで。」
「お久しぶりでございます、シクザール伯爵。相変わらずお顔がとても凛々しく見えますわ。」
「はっはっは。もう老人の仲間入りしかけているのに嬉しいことを言ってくださいますな。」
『うまいことをいうなぁ、さすが儂の娘だな!』と小太りの男が、ガハハッと笑った。侯爵はこの男の姿に眉を潜ませた。この男に会うとは、自分の今日の運が悪い日なのかもしれないと思うほどに。
この男の名は、モルゲン・トルメディーナ。爵位は、伯爵だ。王都から少し離れた北の方に領土をもつ貴族だ。最近、子爵から伯爵の仲間入りをしたばかりで周りの貴族たちからはよく思われていない。
その理由の1つは――
「いかがですかな、シクザール侯爵。儂の娘は美しいでしょう!!これでも『北の傾国の姫君』と呼ばれ、数多くの者から貢がれているんですよ!!」
「…そうかね。」
そう。この男は、娘の美貌を利用して上り詰めた野心家だ。父親の考えていることなど百も承知なのだろう。彼女は何も言わずににこにこと笑顔を見せている。娘であるベネフィカ嬢は確かに美しいが、美貌だけで王妃になろうとするとは。あの王子に対して、なかなか無謀にも程がある。諦めるべきだと思った。それに仮にも娘だというのになんだ、この売り物のような扱いは。しかし、それはこの男以外にもいたのだ。
「やぁ、どうだね。私の娘は?」
「いや、美しいけど私の娘の方がね…」
「何を言ってますのっ!?私の娘の方が…!」
――これは何だのだろう。こんなにも娘を売り物に扱うのだろうか。
シクザール侯爵はただ、貴族たちの戯れに頭を抱えていた。
夜はまだ長く続く。