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入れ替わったら戦争 行かなきゃならなくなっちゃった  作者: 遥(はるか)奏汰(かなた)
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第15話〜檻の取引

激しい雨が降りしきる国境の森。

国家の命運を握るマイクロフィルムを抱え、満身創痍で逃亡するハンスとアルト。

追手のサーチライトが迫る中、二人が逃げ込んだ廃屋で待ち受けていたのは、銃を手にした謎の老人だった。

裏切りと疑惑が渦巻く極限状態の中、命がけの交渉が始まる――。

扉にかけたアルトの手が、凍りついたように止まった。

背後の草むらが大きく揺れ、カサリ、と濡れた葉の擦れ合う音が近づいてくる。ハンスは痛む右足をかばいながら、濡れた上着の下のマイクロフィルムを無意識に強く押さえた。

現れたのは、カーキ色の古びた外套を羽織った、白髭の老人だった。片方の肩には使い古された猟銃が斜めに掛けられ、鋭い眼光が泥まみれの二人を値踏みするように見つめている。

「……何者だ」

ハンスがかすれた声で問うが、老人は答えず、ただ二人と、ハンスの血に染まった右足に視線を落としただけだった。

「国境を越えてきたネズミか。それとも、追われているお尋ね者か」

老人の声は、しゃがれていて冷酷だった。アルトはハンスの体をさらに引き寄せ、老人の目をまっすぐに見つめ返した。

「私たちは旅の者です。連れが怪我をしています。どうか、朝までこの小屋で休ませてください。手当てに必要な薬や布があれば、分けてほしいのです」

「タダでか?」

老人は鼻で笑い、猟銃のストラップに手をかけた。

「お前たちをあそこに引き渡せば、国境警備隊からそれなりの報奨金が出る。怪我人を抱えて私の分け前を減らす義理はないな」

「待って」

アルトは一歩前に踏み出し、老人の行く手を遮るように立ちはだかった。その瞳には、恐怖を押し殺した強い光が宿っていた。

「私たちを通報すれば、あなたも無事では済まないはず。こんな国境の深くで猟銃を持ち、一人で暮らしている。あなただって、表の社会に言えない秘密があるのでしょう?」

老人の眉が、ピクリと動いた。アルトはその一瞬の動揺を見逃さず、さらに言葉を重ねる。

「私たちを助けて。対岸の街にいる仲間のところへ無事に送り届けてくれたら、警備隊の出す報奨金の十倍の金を約束します。……嘘だと思うなら、今すぐここで私たちを撃てばいい。ただし、そうなればあなたが得るものは、錆びた猟銃と二つの死体だけよ」

沈黙が支配した。激しい雨の音と、ハンスの荒い呼吸の音だけが響く。

老人はしばらくアルトを睨みつけていたが、やがてふっと息を吐き、猟銃から手を離した。

「……気の強い娘だ。いいだろう、交渉成立だ。だが、手当ての代金は先払いしてもらう。お前たちの持っている金目をすべてよこせ。話はそれからだ」

老人は顎で廃屋の扉を指し、自ら先に中へと入っていった。

薄暗い炭焼き小屋の内部は、埃と薪の匂いが立ち込めていた。老人はハンスを古びた藁の上に寝かせると、手際よく汚れた布と強い酒を持ってきて、傷口に容赦なく浴びせた。ハンスが痛みに歯を食いしばり、呻き声をあげる。

その時、遠くから重苦しいエンジン音が響いてきた。

光が、木々の隙間を縫って小屋の泥壁の隙間から差し込む。追手のサーチライトだ。

「チッ、しつこい犬どもめ」

老人は手を止めず、冷たい目でアルトを見た。

「言っておくが、やつらがここまで来たら、俺は迷わずお前たちを売り払うからな。自分の命が一番大事なんでね」

外から迫る追手の足音。そして、目の前で怪しげな笑みを浮かべる老人。ハンスとアルトは、逃げ場のない檻の中で、嵐が過ぎ去るのを祈るしかなかった。

第15話「檻の取引」を読んでいただき、ありがとうございました!】

緊迫した国境の夜、謎の老人とのヒリヒリするような交渉劇はいかがでしたでしょうか?

アルトの必死の機転によって窮地を脱したかに見えた二人ですが、容赦なく追手の包囲網が迫ります。老人が提示した「抜け穴」という最後の切り札。怪我を負ったハンスを抱え、嵐の暗闇の中を無事に逃げ切ることができるのか、次回の展開も目が離せません。

また、老人が見せた「抜け目なさ」と「謎の余裕」も、今後の物語にどう絡んでくるのか注目していただければ幸いです。

次回、第16話「泥濘でいねいの逃避行」に続きます。

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