たぬ、うさ、理学療法士、動物
ここは洞窟、防空壕にはならない程度のサイズ。
うっすらと明るく奥にはボロボロの小机が置いてあり、ボロボロの布とタヌキの形をした文鎮のようなものが乗っている。
入り口側には外国の人。
きょろきょろしていたので見えてしまったのだが、外国の人のふわふわの白い髪の毛に埋もれるように、猫の耳が生えている。
そんな症例は俺は知らない。
なにかそういうオシャレだろうか。流行っているのか。若い人の間で。このひとは若い人なのか。
ぴくり。
ばあちゃんちのニャンニャゴ(猫)そっくりの動きで、その猫の耳が動いた。
明らかに、器官だった。作り物の動きではなかった。
「ネコッ!ミミッ!ネコ!」
声にはなったが言葉にはならなかった。
俺は勢いよく立ち上がった。
洞窟の天井は頭スレスレだった。
「ネコではないです、私、たぬうさです」
「ハア。タヌーサ」
「そうです、たぬき」
彼女がそう言って、耳を動かし
「はあ、たぬき」
「こっちが、うさぎ。」
くるりと俺に背を向けると、白くまんまるい、ヤマブシタケのような尻尾が生えていた。
「うさぎ」
確かにうさぎであった
「だから、わたし、たぬ、うさ。」
タヌーサさんは座り直し、友好的に笑った。
それが俺の仕事スイッチを押し
「中島将也です。理学療法士です。よろしくお願いします。それで、タヌーサさん。今日はどうされましたか?」
いつも勤め先でしている問答が、空っぽの頭から出ていった。
「毒ニワトリがあんまし多くって負けそうになったので、召還させてもらったんです」
「はい。毒ニワトリとは、どういった、ニワトリですか?」
「毒ニワトリったら、あれ、毒あるニワトリです」
「へ、へえ......」
「ぎゃああああああああ!」
「失礼、タヌーサさん。今の音はなんでしょう?」
「それは毒ニワトリですけど」
「ニワトリの声ではなッないッ」
ニワトリの声ではなかった。
「ぎゃああああああああ!ぎゃああああああああ!」
恐ろしい声だった。
リトルリーグのコーチは、俺たちがうるさくしていると「動物園じゃねえんだから静かにしろや」
と凄んできたものだが、動物園よりすごい声だった。
動物園よりすごい生き物がいる
ここは、どこだろう?
「ぎゃああああああああ!」
俺はやっと、恐怖のままに自分で叫んだ。




