第28話 復讐と貫く姿勢
この状況で止めなければおそらくあの惨劇を引き起こした加害者であるセイギを消すことはできただろう。
だが1人の犠牲で復讐が果たされることは絶対にいやだった。
「あなた確か私と同じ学校だった…………」
「そう、私はメイシア・ベン、こいつのワガママで友達がみんな死んだ。許しちゃいけない奴だって分かるでしょ?」
折りたたみナイフの刃を折りたたみ、左胸ポケットにしまうと、ヒメはメイシアから自分と同じく同級生を殺されていることを告げられ、それでも間違っているやり方だと否定する様に口を開く。
「そんなことしてみんながメイシアを英雄だと崇めるの? いいえ、殺人鬼として逮捕されるのがオチよ」
その言葉はメイシアを逆上させ、歯をくいしばりながらもう1本の折りたたみナイフをポケットから左手で取り出し、刃部分を手のスナップで引き出す。
「私の邪魔をするなー!」
掴まれた右手を無理やり振りほどき、ヒメの腹を刺しにかかる。
その時だった。
バッグの中にある〈救いの殺人〉救いの暗示が飛び出し、メイシアの腹に右ストレートをくらわせた。
「ウッ…………」
あまりの激痛に折りたたみナイフを地面に落とし、腹を抱えて膝から倒れ込んだ。
「大丈夫、手加減はしてるわ」
そう言って落ちている折りたたみナイフを拾い上げ、さらにもう1本もヒメから回収する。
「相手は主人公のマスター。これ以上やると支配者の暗示に目をつけられるから勘弁してあげる」
腕組みをした後、〈救いの殺人〉に戻る救いの暗示。
そんな中ヒメが辺りを見回すと、セイギの姿はなかった。
(あいつ、当たり前だけど逃げたか)
別に感謝されたくて助けた訳じゃない。
メイシアがやろうとしていることは犯罪だ。
だから止めた。
それだけの話。
正直怖かった。
ナイフを構えられ、刺されるんじゃないかと言う恐怖で今も手の震えが止まらない。
復讐鬼の痛みに唸りを上げる姿。
自分のやったことは正しい、救いの暗示がやったことは正当防衛だと思いながら、スマホで救急車を呼ぶのだった。
一方その頃、セイギは家に帰宅後メイシアへの恐怖から自分の部屋で布団を被っていた。
「俺は間違ってない…………俺は正しい…………」
自己暗示をかけながら、彼女に怯える自分にイライラを募らせる。
『安心しろ。俺達が必ずあの小娘を倒す』
『そうですよ。セイギ様は悪いことなどしておりません』
それは都合が良い甘い言葉。
学校で正義の暗示にやらせたことは確かに身勝手な行動だった。
分かっている。
自分が正義のヒーローを名乗った殺人鬼だと言うことは。
いつ復讐されるか、いつ逮捕されるか。
「最近自衛隊が主人公を使うようになったし、もしかしたら…………」
自分が殺される。
そう言おうとした時、正義の暗示が口部分をクラッシャーオープンさせ、叫びを上げる。
『そんなことは絶対にさせない! 自衛隊がなんだ! 俺達には俺達なりの正義がある! もしそれを否定する奴がいたとしても、正義を貫け!』
その言葉はセイギを奮い立たせ、布団から出ると右腕をスナップし、気を引き締め廊下に出る。
階段を下りていくと玄関のチャイムの音がする。
「はーい。今行きまーす」
母が玄関のドアを開けると、そこにはスーツ姿の男が立っていた。
彼は警察手帳を胸ポケットから取り出し自分が刑事だと証明する。
「警視庁のホンジカゲタです。息子さんの件でお尋ねしたいのですが」
「セイギがなにかしたのでしょうか?」
心配した表情で母はそう口にすると、「いえいえ」と否定する。
「今日殺人未遂事件が起きたと通報がありまして、その被害者が息子さんな訳です」
「そんな。セイギが恨まれるようなことは………」
信じられないと言わんばかりの動揺っぷりに、カゲタは表情を変えず警察手帳を胸ポケットにしまう。
「話を聞きたいのでご同行願えますか? 奥様も一緒に」
「分かりました。セイギー、警察の方が話をしたいってー」
ため息を隠れてしながらセイギは「はーい」と返事を返すと、支度を済ませ、パトカーに乗り込む。
カゲタの隣にはもう1人の男性刑事が居り、彼より歳下に見える。
走り出すパトカー。
唸るサイレン。
「セイギ! なんで事件の事を言わなかったの!」
「ごめん。怖くて言えなかったんだよ」
人殺しをさせていても自分の命が奪われることに対して恐怖を覚えるのは不公平だと思われるかもしれない。
セイギにとって死は後悔したまま地獄へ落ちるもの。
もうこの時点で地獄に落ちると言う確信を持っているのだ。
そうこうしていると、信号機の上に何やら二足歩行で機械仕掛けのロボットが右腕に取り付けられたブラスターをこちらに向けて立っている。
(まずい、自衛隊の 主人公だ)
カゲタの考えは当たっていた。
ブラスターから放てる光線。
パトカーのボンネットを貫通し、爆発を引き起こした。
「敵の脱出を確認。これより殲滅を開始する」
「天から降る光線の暗示、お前は堅っ苦しいから好きになれんが、マスターの命令だ。付き合ってやるよ」
爆風で心臓が圧迫され、気絶する4人を正義の暗示、槍の暗示、銃の暗示は抱え、近くのコンビニに避難させる。
「まったく〜。あいつらはネジが1本でも取れてるのか〜?」
銃の暗示が次元の裂け目から大型のリボルバーを取り出し、トリガー部分をクルクルと回し、ホルスターをガッチリと掴んで静止させ、戦闘準備に入る。
「まあまあ、いいじゃないですか。結局私達があの鉄クズを始末するんですから」
「銃の暗示、これだけは言っておく、お前のマスターの悪のレベルが低かったから手を貸すだけだ」
2人の戦士はすでに戦闘する気満々だ。
「じゃあ〜行くぜ〜。自衛隊をぶっ潰しによぉ〜」




