第26話 黄金の騎士
「あとは任せたよ。親が待ってるからさ」
そう言ってセイギは目を細めながら笑みを浮かべ、階段を上って行く。
「分かった。すぐに片付る」
シューティングシルバーを連射する正義の暗示に対して、減少の暗示はビーム弾の〈弾速〉を0にまで減少させ、〈速度〉を減少させていく。
(シューティングシルバーもスピードアップも効かない? ならば)
ベルトのスクリュー部分にシューティングシルバーを収納し、彼女に掴み掛かる。
(接近されなければあの主人公に勝ち筋はない。このまま距離を離しておけば勝てるはずです)
鈍足にも近い赤き戦士の動きを見て、ケンイチを庇いながら後ろに下がり相手の〈存在〉を減少させようとした。
「もう1人主人公の気配がします!」
「またか!?」
新手がどこから出て来るか、そんな考えを巡らせると、逃走するため車がある駐車場に向かう。
すると上空から槍の雨が降ってくる。
当たる直前に〈落下速度〉を0にまで減少させ、宙に浮かせて事なきを得る。
「敵はどこに?」
ケンイチが辺りを見回すと、いきなり茂みから2本角が特徴的な金色のフルアーマーを身に付けた者がアスファルトの上を駆けながら赤い槍を突き刺しに向かって来た。
彼はなんとか攻撃を右サイドステップで躱し、不意打ちを回避した。
赤い槍をクルクルと3回程回し、黄金の騎士は両手でビリヤードのキューで玉を打つが如き構えをとる。
「ふん、躱されましたか」
不意打ちを失敗し、不服そうに男の美声で鼻を鳴らす。
「私の名前は槍の暗示、意味は槍、生成、貯蔵です。セイギ様のため、ここで死んでいただきます」
「あの少年は2人も主人公を所有しているのか」
主人公狩りをしている自分達がまさか主人公狩りに遭うなんて。
ケンイチはこれ以上の戦いは無用と減少の暗示と共に車に乗り込み、エンジンを掛ける。
「逃しませんよ」
右足を踏みしめ、車に向かって走り出す槍の暗示。
しかし減少の暗示の意味にある〈減少〉によって〈足の速度〉を落とされ、そのまま車に激突、大きく吹き飛ばされ、駐車場に止められた軽自動車のボンネットの上にぶつかり、その場でバウンド、アスファルトの上に転がる。
何もなかったかの様に立ち上がり、首を回しながら次元の裂け目から銀色の槍を取り出し、自らの両足に突き刺した。
これは主人公の意味を無力化できる意味封じの槍。
痛みに耐え、元の身体能力に戻った彼は槍を引き抜くと、マスターであるセイギとその親が車に乗り込むのを確認し、ブックエスケープで〈槍の殺人〉に戻って行く。
(申し訳ございませんセイギ様、 正義の暗示様、今度は必ずあの者達を始末してまいります)
彼はなぜセイギに忠誠を誓っているのか。
それは3日前、いつもの古本屋でセイギが本を物色していると、〈槍の殺人〉を発見し、正義の暗示の良き相棒になると思い税込110円で購入した。
最初は正義の暗示も否定的だった。
なぜなら自分とシゲルの所有している変身の暗示以外の主人公はすべて悪だと思っているからである。
だがセイギの事を信じると決心している。
だからこそ読むことを止めなかった。
2日で読み終え、召喚された槍の暗示はセイギと正義の暗示に跪く。
「すべての文を読んでいただき光栄です。セイギ様、正義の暗示様、私の名は槍の暗示と申します。これからよろしくお願いします」
別に名前を知られているのは問題ではない。
主人公はライトノベルに潜んでいるので聞き耳を立てることなど容易いことなのだから。
「これからよろしくね槍の暗示、俺達は悪を持つ者達を殺しているんだよ。協力してくれないかな?」
「もちろんでございます。私が生み出す槍は敵を射抜き、突き貫き、雨の様に降らせることなど簡単にやり遂げてみせましょう」
槍の暗示の発言に、2人は冷たい視線を送る。
「何ですか? 私なにか変なことでも?」
その質問にセイギが苦笑いをする。
「いや、ダジャレ言うんだなぁっと」
「私はダジャレなど言ってませんが?」
「槍とやり遂げるをかけたでしょう?」
マスターの質問に対して、首を横に振り、「いえいえ」と冷静に否定する。
「それは単なる偶然でございます」
「そう、じゃあさ、早速だけど明日おじいちゃんの墓参りに行くんだよね。もし悪い奴とか主人公がそこにいたら退治してくれないかな」
彼は思った。
マスターは禁忌である主人公狩りをしている人間だと。
だがここで断れば先駆者である正義の暗示に殺されるだろう。
「分かりました。引き受けましょう」
こうして恐怖で縛られた状態でセイギに忠誠を誓った槍の暗示。
彼は正義の暗示の相棒として戦いを続けることに1日の間でもはや抵抗はない。
始まるのだ。
正義執行が。




