第九話 来訪
一見平和そうに見える魔王城であるが、そろそろ奴等が来る頃合いなのだ。
奴等とは?
ははは、少し考えれば分かる。
そう、次世代の勇者御一行だ。
ゼファーが勇者達の来訪を知らせに我が元へやって来る。勿論毎度の事なので、特に焦った様子はなく、落ち着き払っている。
だが我は内心、少々の焦りを感じていた。その焦りの理由は、我の力の減少にある。負けたくないとかそういった小さな悩みではなく、我に敗北は許されないのだ。
我の敗北、それは世界の破滅を意味する。
世界の楔である我がその存在を誇示出来なければ、それこそ世の中は混沌に包まれるのだ。
善と悪は両立してこそ互いの意味を見出す。
人間達から見れば我は悪そのものであり、自分は善なのだ。我の力を誇示しても負けずに立ち上がり、向かって来る。故に我は人間達を愚かだと言う。
我は魔王であり、この世界を支配する者。
そして、我は我なりに種族を平等に扱っているつもりだ。
全てを均等に与え、ある程度の法を敷き、その中で固有の生き方を見出させ、導く。王である我の仕事だと理解している。
だが、真に平等なんてものはこの世には存在しない。なにより、それを生み出したところで維持するのに骨が折れるし、見ていて退屈なのだ。
だから、人間は愚かであるが、見ていて飽きない。
人間の飽くなき欲には我も退屈をしないのだ。
人間の欲は人間の王が握る。
その犠牲者が勇者なのだ。
だからこそ我は、勇者を丁重に扱う。
「さあ、次の勇者達はどのように魔王様を楽しませてくれるのでしょうか?」
ゼファーが我に問う。が、敢えて我は答えを返さない。不敵な笑みをゼファーに向ける。
ゼファーも我に微笑み返し、勇者を待つ。
我は、王の玉座に深く腰を下ろし、その時が満ちるのを待つ。
そして、時は満ちる。
玉座の間の扉が勢い良く開かれ、第一声。
「貴様が、魔王か」
さぁ、今宵は宴だ。
我を楽しませるのだ、勇者達よ。