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新たな同行者

「一旦ここで休憩をする。怪我人の治療と、武器の確認を怠らないように」


 軽い怪我人を数人出しながらも、犠牲者なくゴブリンの群れを掃討した一行は大きな広間へとたどり着き、そこで休憩を挟む事にした。

 戦闘の疲労か、はたまた別の事による緊張か、皆は肺の空気を一度出し切り座りこんだ。

 ある者は怪我の治療にあたり、ある者は水や干し肉を食し、ある者はお宝のつまった袋を見て笑みをこぼす。


「休憩みたいだね。レアも少し休もう」

「この程度で休むとは情けないが、まあよい。ほれ、お主も座って足を広げよ」

「こう?」

「うむ。……ふむ、ちょっと硬いが座り心地は悪くないの」

「ちょ、ちょっとレアってば!」


 ユーリが足を広げて座り込むと、その上にレアが座ってユーリの胸板に寄りかかる。

 鎧の上に座るのはあまり心地良くないのだが、先ほどの言葉で機嫌が良いみたいでレアはご満悦の様子。トントンと膝をリズム良く叩き、ユーリの顔を見上げて白い歯を見せてニカッと笑う。

 仲睦まじい様子の二人ではあるが、周囲とは距離を置かれて孤立している。

 周りの視線は変わらず怯えと恐怖が混ざったものであり、無邪気な様子でユーリをからかっているレアに懐疑の念を抱く。

 兜の上から頭を突かれながらどうやって周囲と打ち解けようか思案していると、一人の少年が二人の前にやってきた。


「あ、あの、隣いいですか?」


 まだ年若い少年だ。成人の歳をむかえておらず、十三か十四くらいだろうか。熟練の傭兵が多いこの中では珍しく若すぎる。


「えっと、僕は構わないけど、レアはどうする?」

「ふむ、そうじゃのぅ……うむ、隣に座る事を許す」

「あ、ありがとうございます!」


 驚いたのはユーリであった。

 レアの事だ。他人と関わろうとしない彼女の事だからきっと邪険に扱うものだと思っていたが、少年を値踏みするように見ると、予想に反して頷いた。


「あの、俺、レイオって言います。二人のさっきの戦いを見て感動したっス!」


 まるで物語の人物にでも会ったかのように興奮した様子で、レイオと名乗った少年は翡翠のような綺麗な瞳を輝かせて二人に詰め寄る。

 レアの魔法が衝撃的すぎてそっちに注目されがちだったが、あの戦闘ではユーリも多くの活躍をしていた。

 広範囲から襲いかかるゴブリンの集団を次々と蹴散らし、時には苦戦をしていた傭兵たちを助けていた。

 彼等の中で誰も死人が出なかったのは、ユーリの活躍があってこそである。もしユーリが加勢をしなければ重傷者はもっと増えていたし、死人も出ていた。

 その活躍を目敏く見ていたらしく、同じ剣を扱う者としてレイオの興味はユーリに多く注がれていた。


「あ、ありがとう。僕は訳あって名を明かせないから白騎士って名乗っていて、この子はレア」

「白騎士さんとレアさんっスね! よろしくお願いします!」


 先程のレアが見せた魔法にまだ怯えが残っているようだが、それ以上の興味と好奇心に目を輝かせてレイオは二人に挨拶をした。若い者がもつ猛進っぷりである。

 あまり人から尊敬されるのが慣れていないユーリは勢いに少し気圧されていたが、レイオは矢継ぎ早に質問を繰り出してくる。


「白騎士さんの剣に、レアさんの魔法。俺も小さい頃から戦いを近くで見てきたけど、どれも凄くてメッチャ感動しました! 二人は傭兵になったばかりって聞いたけど、本当なんですか?」

「うん、実はこれが初仕事でね。慣れない事ばかりだよ」

「そんな事ないっスよ! 二人のおかげで大きな怪我をした人もいなかったんですから。白騎士さんって、どこかの国に仕えていた高名な騎士だったりしたんですか?」


 うぐ、とユーリは口を噤んだ。

 傭兵になる前の出自や経歴は細かく考えておらず、下手に喋ってしまってはボロを出して怪しまれてしまう。

 少し困りつつ、どうしようか? とレアに視線を送る。


「此奴は南の帝国領で仕えていた騎士でな。名のある騎士じゃったが魔族との戦争の最中に呪いをうけてしまい、名を知る者や素顔を見た者に害を……有り体に言えば死ぬ呪いを宿してしまってな。その呪いを解くために各地を転々としておる」


 スラスラと淀みなく、しかも確認の取りづらい嘘を並べていく。

 人間たちの勢力は大きく分けて三つ存在しており、一つはルエメナ聖教をかたく信奉している、聖都と同じ名を冠するレヴァナント聖国。二つ目は小国同士が同盟を結び結束した諸国連合。三つ目は武力に重きを置き大陸の覇権を狙うナヴァリス帝国。

 そのどれもが多かれ少なかれルエメナ聖教を信奉してはいるが、それ以上に武力を尊ぶ帝国は魔族との戦争以前から種族問わずの領土侵略を重ねており、連合の結成の背景には帝国との国境と隣接する諸国の警戒があった。

 聖国が両者の間を取り持っているが、最大最強の勢力である帝国の舵取りは難しい。連合は勿論のこと、聖国でも帝国の情報を得る事は困難で、レアの言葉の真偽を確かめる術は少ない。

 自前の戦力で事足りる帝国では傭兵をあまり雇わないので傭兵から情報を得る事はできないし、例え帝国内でユーリを知らない者がいたとしても呪いによって死んでしまったと言い通せる。

 レアの嘘は完璧で、レイオはすっかり信じたようだ。


「そうだったんですか。だから白騎士と名乗って……それじゃあレアさんは? 同じ帝国の人か、魔法都市の学者様だったり?」

「わしは帝国のような粗暴な輩ではないし、穴倉に引きこもる連中でもない。わしは此奴の……妻じゃ」

「えっ」

「はぁ!?」


 レアの口走った言葉にレイオは反応できず、ユーリは周囲が驚く程の大声をあげた。

 ここまで真面目に話をしていたというのに、まさかこのような事を言ってくるなんて予想の遥か上をいっていた。


「えっと、妻っていうと奥さんですよね? その、レアさんはどう見ても、あの……」

「いや違うからね! レアの言った事は冗談で、僕たちはただの仲間であってっ」

「無理に否定せずともよいではないか。たしかにわしも少し先走ってしまったが、いずれはお主と結ばれるのじゃから。よいではないか」

「よくないよ!? このままじゃ僕、完全に犯罪者じゃん!」


 人間だろうが魔族だろうが、子供と婚約するのは共通してタブー視されている。

 もしかしたら特殊な性癖を持ち合わせた貴族が非合法な手段を用いているかもしれないが、異性との付き合いが厳格なルエメナ聖教では厳罰に処されるし、魔族でも社会的地位の失墜に繋がる。

 げんに先ほどまで尊敬の眼差しを送っていたレイオの瞳には大きな困惑が渦巻いていた。

 しかし、恋は盲目とでもいうのか。レアは止まらない。


「人の目も法律も関係ない。わしはお主に恋しており、愛しているのじゃから。それを悪と(そし)る者がいるのならばすればいい。わしが手ずから潰すまでよ」


 あまりにも堂々と、想い人への気持ちをさらけ出すレアに本人であるユーリは兜の下にある顔を真っ赤に染めていた。

 見た目の幼さから妹のようにしか感じなかったが、このように飾り気のない純粋の好意を向けられて、胸の内に湧いたよくわからない感情を持て余す。

 それは嬉しさなのか、好意であるのか、困惑であるのか、それともレアと同じ……ユーリにはまだ分からなかった。分からないから、曖昧な答えとしてレアの頭に手を置いて撫でた。


「えっと、二人は仲が良いんっスね」

「ふふん、当然じゃ。此奴はわしが認めた唯一の男じゃからな。興が乗った故、貴様も暇潰しに付き合え」


 二人の関係を推し量れず当惑していたレイオに、次はレアが質問を投げかける。

 ユーリをイスにして胸を背もたれに深く腰かけ、目の前の少年の真価を見定めるようにスッと視線を鋭くする。

 そこに僅かに、嗜虐の色をほんのり混ぜて。


「わしらも異色ではあるが、貴様もこの中で異彩を放っておるな。その若さはこの集団の中では珍しい。しかも先ほどの汚物どもの争いでは傷一つ付かなかったと見える。あそこの有象無象よりは腕が立つみたいじゃな」


 レイオの姿は、よくよく見れば小さな違和感が点在していた。

 ゴブリンが相手とはいえあれだけの群れと戦闘をしておきながらレイオにはかすり傷すら付いていない。他の傭兵たちは少なからず傷を負っているのに。

 まだ年若いレイオがあの戦いで無傷というのは疑問に思う点であり、レアは見抜いた。

 それを指摘されたレイオは目に見えて狼狽えた。


「えっと、恥ずかしい事だけど俺、ビビってあの時隠れちゃってて」

「そうであったか? 槍の穂先に奴等の血が付着しているようじゃが、戦いながら逃げるとは随分と器用な奴じゃな」

「……っ」


 しかしレイオの嘘は、すぐに見破られた。

 拭ききれず僅かに残った乾いた血はゴブリンのもので、それはレイオがあの場で戦っていた事を示すもの。

 慌てて穂先の血痕を拭う行為こそが何よりレアの言葉を肯定していたが、嘘をついたレイオを咎める事なくレアは笑みを深めた。

 まるで死にかけたネズミをいたぶる猫のように、沼に沈みもがき苦しむ姿を愉しむように。

 レアは質問を重ねる。


「それと小僧、貴様珍しい耳飾りをしておるな。ふむ、互いに半月をかたどり、合わさる事で満月を示す耳飾りか。古代では満月を真なる円、完全や完璧の象徴として最高の護りと信じられていた。分かれている今はほぼ感じられぬが、かなりの神秘を宿しておるな。わしの蔵に相応しい程の至宝じゃが、その耳飾りを合わせてみよ」

「そ、それは……っ」


 レアの言葉に、レイオはこれまでにないくらい動揺した。

 どうやら余程指摘されたくなかった事のようで、頻りに視線を彷徨わせ汗を流す。

 その様子を愉しみながらも子供のように無垢な表情で質問するものだから、誰もレアが全てを分かった上で質問している悪辣さを知らない。


「大丈夫レイオくん? レア、レイオくんに何か変な事でもしたの?」

「心外じゃな。わしはただ興味があった事を問うたまでじゃ。少し、心の内も暴こうとしたがの」

「もう、他の人にそういう事しちゃ駄目じゃないか。レイオくんに謝って」

「し、しかしじゃな……むう」


 少し、苛めすぎたとは思っている。少年の心の内に潜む暗闇を暴き、その痛みに愉悦を浮かべようとしていたが、ユーリの責めるような口調を無視するわけにもいかない。

 しかし完全に納得したわけでもなく不服そうに口を尖らして、ぷいっと顔を背ける。


「気にするな小僧、わしのちょっとした戯れに過ぎぬ。貴様の内に何を抱えているのか詮索はせぬから安心せい」

「え、あ、あの……」


 いまだ事態が飲み込めていないレイオはうまく喋る事ができず、ポカンと表情を呆けさせていた。

 先ほどまで己を縛っていた緊張感は噓みたいに霧散したが、レイオはその変化に追いついていなかった。


「さあ、もう休憩は終わりのようじゃから早く立たぬか。小僧、貴様に興味が湧いた故、しばらくわしらと共につけ。元より貴様も、その為にわしらに近づいたのであろう?」

「っ、いや、俺は……」

「かっか! そう取り繕わなくてよい。わしらを利用しようという企みとその心胆、暫しわしが見定めてやろう。精々愉しませるのじゃな」


 今度こそ完全に口を噤んだレイオに一瞥する事すらなく、ユーリの膝から飛び上がったレアは先を歩く。

 周りを見ると他の傭兵たちも準備を次々と済ませ、戦列へと戻っていく。

 あの幼き少女は何を思い考え、その瞳にはどのように世界が見えているのか、少年には到底考えも及ばぬ。

 しかし少年は、例え己の目的が見破られようとも彼女についていく。それ程までに果たさねばならぬ願望が、野望ともいうものが彼にはあるのだから。例え幼き暴君の怒りに触れ、この身を業火に焼かれようとも為すべき事が。それを果たすために。

これにてストック完全消費です。以後は不定期更新になりますので、気長にお待ちください。

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