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遠征

ジャンル別92位を獲得! やったぜ。

評価してくれた方々ありがとうございます!

『ガザドュランに集いし傭兵諸兄は至急、大聖堂広場に参集せし』


 城塞都市ガザドュランに到着し、傭兵として組合で登録を済ませ宿で休んだ翌日、街ではそのような紙が各所に貼り出されていた。


「ねえレア、はやく僕たちも行かないと」


 当然、レアたちもこの招集令に応じなければいけないのだは、既に準備を終えているユーリとは違ってレアは優雅にミルクがたっぷりの紅茶を楽しんでいた。


「そう急く事もなかろう。至急とは書いておるが正確な時刻も記してないのじゃから、向こうもある程度は遅れる事も想定しているはずじゃ」


 二人がいる部屋は、傭兵が宿泊するにしては随分と豪華な内装が施されていた。

 ベッドは三人が寝られそうな大きさでしかも天蓋がついており、他の調度品もどれも高価そうな物ばかり。広さや設備から、一介の傭兵が泊まるには不釣り合いな豪勢さである。


 二人が宿泊しているのはガザドュランで最も格式のある宿泊施設であり、主に大商人や貴族が利用している。場末の床で眠るのを嫌ったレアが、惜しげもなく懐から金を出した泊まる事にした。

 ちなみにだが二人がチェックインした部屋はこの中でも最も宿泊費が高いもので、一般家庭が三ヶ月で手にする金額と同等の値がする。


「たしかに、傭兵の多くは文字も書けず時刻も正確に分からぬ者ばかりと聞きます。時刻を明文しなかったのはそのためかと。それに人間が陛下をお持たせするなど、それこそ考えられぬ不敬です」

「……えっと、なんで、エアルさんもここにいるの?」


 紅茶を楽しむレアの横には、さもそこにいるのが当然であるかのようにメイド長であるエアル・レメゲトンがティーポットを手に佇んでいた。


「何故と? 陛下は朝にミルクティーを楽しまれるのが日課でございます。そして陛下のお口に合う味を淹れられるのは私ただ一人だけ。なればこの場に私がいるのは当然の事。さあ陛下、お代わりをどうぞ」

「うむ、大義である」


 ただ朝の紅茶を提供するためだけに、転移魔法を使ってやってくるエアルに、ユーリは困惑していた。

 人造生命(ホムンクルス)ではあるがレアの一部から作られた事で彼女たちの頭にも、魔人族の証であり角が生えている。それが敵地のど真ん中であるここで見つかってしまえば、街にいる傭兵も騎士も総がかりで襲いかかってくるだろう。

 そのような危険をエアルも知っているだろうに、わざわざ主のレアに紅茶を持ってくる彼女の忠誠心に驚いてしまう。

 残念な事にカップは一つで自分の分は無いようだが、お代わりを注いでいるエアルを見てユーリは思い出した。


「あ、エアルさん、聖都での事ですけど、僕の分まで朝食を作ってくれてありがとうございました」


 聖都の宿で目覚めた朝に食べたサンドイッチのお礼を言う。

 簡単で簡素な料理ではあったが、味はどこで食べたものよりも格段に美味しかった。


「頭を下げられるような事はしてません。私はただ、陛下の朝食のついでにユーリ様の分までお作りしただけのこと。陛下とご一緒なさる方であるなら、相応の扱いはしませんと」


 しかしエアルの態度は素っ気なく、きわめて事務的な口調で会話を済ます。

 出会った当初は目に見えて嫌悪感を出していたエアルも日が経てば態度も軟化するが、その本心は変わらずユーリの事を好ましく思ってはいなかった。

 それはユーリが人間族(ヒューマン)だからというわけではなく、エアルの価値観は主であるレアを至上のものとし、その次に彼女が従える七十一人の従者(姉妹)たちのみ。それ以外は魔族であろうと人間であろうと関係なく等しく下であると見ている。

 それが主のレアと一緒に寝食を共にしてるのはとても面白くない。


「それでもですよ。あんなに美味しい料理は初めてだったので。ありがとうございます」


 しかしエアルの心情を知ってか知らずか、ユーリは屈託ない笑顔で頭を下げた。


「……そう、ですか。ならばお礼は受け取っておきます」


 いっそ、相手も嫌悪やらの感情を向けてくれた方が楽だったしこちらも遠慮なく嫌う事ができたのだが、ユーリが向けてくるのは完全な善意のみ。それがどうも自分の調子を狂わせ、ユーリが苦手な理由でもある。


「クカカ、滅多に感情を出さぬお前がたじろぐとはの。ユーリに惚れでもしたか?」

「まさか、絶対にありえません。私がお慕い申しているのはレア陛下お一人。そして家族の妹たちと弟たちのみ。他は地に転がる石と変わりません」

「辛辣じゃのうエアル。ユーリ、どうやらフラれてしまったようじゃぞ?」

「いや、別にぼくはそういうつもりじゃ……。というか完全にとばっちりだよね」


 レアの余計な一言で、何故か関係もないのにユーリが悪く言われてしまうし失恋した事にされた。

 聡いレアはエアルの心情など察しており、その上で話を引っ掻き回してややこしく拗らせる。

 何故か? その方が面白いからである。何せ自分は悪人だからだ。自分が面白いと思う事を優先する。


「さあさあ、いつまでもフラれた事なぞ気にするでない。そろそろ奴等の招集に応じてやるとしよう」

「いや、のんびりしてたのはレアのほうじゃ……」

「お気をつけて行ってらっしゃいませ」


 誰も言葉を聞いてくれる者はおらず、レアはユーリの手を引っ張って部屋を出て行き、それを頭を下げながら見送ったエアルは再び城へと戻った。

 豪華な宿から出て、二人が向かうのはガザドュランの中心地。ファルカネル大聖堂。

 巨大な聖堂の前にある大きな広場には既に傭兵が集まっており、レアたちは遅めに到着したみたいだ。


「やっぱり、少し遅れちゃったみたいだね」

「じゃがまだ何も始まっておらんようじゃな。丁度良い」


 二人が何気なく話し合っている中、周囲の傭兵たちは二人を注意深く見ていた。

 具体的には、屈強な体躯をした男たちが多い中で一際目立つ、人形のように整った容貌の少女を。

 昨日の組合で一悶着あった事はすぐに傭兵内に知れ渡り、レアが魔法使い(ウィザード)である事はほぼ全員が知っている。


 魔法使い(ウィザード)とは文字通り魔法を行使できる者を指す言葉だが、人間たちの中では魔法を扱える者はごく一部の者たちに限られている。

 代々魔法使い(ウィザード)として受け継がれてきた家系や、一般人より多くの魔力を持ちやすい貴族たち。稀に市井の者にも魔法に目覚める者がいるが、その者たちは貴族の養子となったりルエメナ聖教で司祭の位を授かったり高名な傭兵として知れ渡っていたりと、魔法使い(ウィザード)は強力であると同時に希少な存在であるのだ。


 傭兵として多くの戦場を見てきた者たちの中には、味方ではなく敵として魔法使い(ウィザード)を見てきた者たちも多いだろう。

 魔族の中には魔法に長けたエルフ族や魔人族がおり、彼等の魔法に苦しめられた者たちも数多くいる。

 だからこそ彼等は、魔法を操るレアに恐れを抱いているのだ。

 単純な剣や槍に比べて、魔法は相手を燃やしたり呪ったりと様々なものがある。それをレアの不興を買って被りたくないのだ。

 レアの姿を確認するや、あまり関わりたくない彼等は距離をとった。


「──傭兵諸兄、緊急の招集に応えてくれて感謝する」


 傭兵たちが集まる広場に、まるで鐘の音が鳴るような厳かな声が響いた。

 大聖堂の扉が開きそこから出てきたのは、胸にルエメナ聖教の紋章を施した重鎧の騎士が二人と、中央には一人の聖職者。

 白を基調としたカソックの上に鮮やかな青のカズラと呼ばれるマントのようなものを羽織り、首には聖なる文字が綴られたストールをかけている。

 ある一定の身分を示すその服装を見て、傭兵たちの間にどよめきが広がった。


「我が名はオルガロス・ヴィトーヴォ。過分ではあるが大司教の位を授かるものである。そして今回の遠征において諸兄らの指揮を執る者である」


 自身をオルガロスと名乗った壮年の男性。しかし老いを感じさせる身には歴戦の強者が持つ特有のオーラが漂っている。

 ルエメナ聖教は法皇を頂点とし、その法皇の身辺と聖都レヴァナントを守護する九人の枢機卿が存在し、その下に各地方の軍団総指揮を執る二十七人の大司教がいる。

 大司教は他国の軍の将軍と同等の権利を有しており、ルエメナ聖教の切り札として滅多に動く事のない枢機卿を除いて、戦場の最高権力者である。

 本来であれば下に大勢いる司教やら司祭たちが傭兵の指揮権を担っているのだが、更に上である大司教が出てきた事で傭兵たちにも緊張が走る。

 二十七人いる大司教の中でも、オルガロスは屈指の実力者でありその序列は第九位。“聖水”の称号を得ている。


「諸兄らも知っての通り、先日大陸中央のカルナヴァ大荒野において勇者ユーリ・アルブレイドと髑髏の魔王により大規模な戦闘が行われた。幸いガザドュランは先の戦場より離れており戦闘の余波は少なかったが、周囲の山が幾つか消えてしまった。防御機能の低下が懸念されるが、山の消失跡にて古に栄えたドワーフ族の王国への入り口が発見された。諸兄らにはこの王国跡地の内部調査を命じる」


 再び、傭兵たちにどよめきが広がる。

 それも無理ない事だ。何せオルガロスが口にしたドワーフ族の王国とは、財宝が眠ると伝えられているお伽話のようなものだからだ。


 かつて、まだ人間と魔族が不仲ではあったが戦争していなかった古い時代、ドワーフ族が地上の覇権を握っていた時期があった。

 彼等の優れた製鉄と鍛治によって生み出された鎧は剣と矢を弾き、斧は一撃で相手の防御を粉砕した。更にドワーフのみが知るミスリルの加工技術によって魔法すらも効かぬ無敵の軍団は、当時あらゆる種族の頂点に立っていたという。

 地下に巨大な王国を築いた彼等は繁栄と栄華を極めていたが、ある時期を境に彼等の王国は忽然と姿を消してしまった。

 その理由は一切不明だが、王国が消えた事でドワーフ族の支配は崩れ、幾つもの優れた技術が途絶える事となり、現在のドワーフ族がいる。


 王国が消えた謎は今も解明されていないが、ここガザドュランに消えた王国があるのではないかと噂され、その中には目も眩むような財宝の数々が死蔵されていると伝えられて多くのトレジャーハンターが挑んできたが、見つけた者は今もっていない。

 その財宝へ続く道が、発見された。

 富を得たい傭兵たちが色めき立つのも仕方ない。


「もし奴等の技術や優れた武器を手にすれば、戦況は我等の有利にいっそう傾く。が、それは相手も同じ。我々は魔族どもよりも先に武器を手にしなければならない。この大任の報酬はそこに眠る財宝の数々。これより出立するが、私について来る者はいるか?」


 オルガロスの問いの答えは、地面の振動と大気を叩く声。彼等の中には興奮しかなかった。

 まさに一攫千金、夢見た富と名声がこの手にあるのを想像して、彼等の興奮は最高潮に達していた。

 意気軒昂な彼等の様子を見てオルガロスも笑みを深めて、傍らに待機していた騎士が甲冑を装着していく。


「素晴らしい。勇敢なる諸兄らがこの街に集ってくれた事、誇らしく思う。ルシフェナ様もきっとお喜びになるだろう。我々の勝利のために、進もうではないか」


 士気は十分。司教位の騎士やく十数名と広場の傭兵たちを引き連れて、オルガロスたちは行進を始めた。

 当然、レアとユーリの二人も集団の最後尾からついて行くのだが、誰も見えぬ所でレアは悪辣な笑みを浮かべる。


「クッカッカ、ドワーフの古王国とはの。酒と黄金に溺れた強欲なドワーフが太古の地底より何を呼び起こしたのか、奴等は目の当たりにするじゃろう。愉快愉快……」


 この場でただ一人、先に待っている恐怖と絶望を知っているレアは、しかし誰にも教える事なく笑みを深めながら歩く。

 きっと中々に愉しませてくれるだろうと、心の内に愉悦を渦巻かせながら。

明日も12時投稿です。

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