柳沢吉保の優雅な一日
昨日投稿してから19時までアクセスが途切れないという謎の現象が起きました。
おかげで過去最高PV数を更新。ブクマまで増えました。
何が起きた!? 13日の金曜日だったから? コワイ!
そんなわけで少し短めですが今日も投稿してみます。
元禄十四年八月
この頃になると江戸の庶民の間では将軍徳川綱吉の評判は悪くなる一方であった。
元々悪かったのだが、それが更に悪くなった。
原因は浅野長矩に切腹を申しつけ、吉良上野介にはお咎め無しの裁きを下したからだ。
やれ片手落ちの裁きだ、やれ浅野が報われないだ、やれ無能将軍だ、やれ犬より人を優先しろだ、やれ物価上げるなだ、やれ獣趣味の変態だ、やれ総受けだ、やれ酒が切れただ、やれ女房のいびきがうるさいだと、庶民は好き勝手に騒いでいる。
これには側用人である柳沢吉保も頭を痛めていた。
浅野と吉良を利用したのは柳沢だが、庶民の反応は予想していたより酷い。
なにやら関係ないことまで言われている気がするが、日頃の鬱憤をこの機会にぶちまけているのだろう。
それほど溜め込むまでに不平不満が多かったという事だ。
生類憐れみの令を筆頭に、貨幣改鋳とそれに伴う物価の変動。
綱吉政権下で行われた事は庶民にとって良いことなど何も無い。
この庶民の声は当然綱吉の耳にも入っており、何とかしろと申しつけられる毎日である。
「なんとかせよ」
今日も上様はご立腹であった。
褌一丁で布団の上で犬を撫でながら賢者のような表情で煙管を吹かしているが、ご立腹であった。
「ふっ、月影妖滅斎よ。愛い奴よのう」
前衛的な名前を付けた犬を愛でているが、上様はご立腹である。
尻の穴が広がる思いで上り詰めた地位だが、もういっそ隠居して野菜でも育てたくなる柳沢であった。
しかし辞めた時に後任となる者の苦労を思えば我慢するしかなかった。
暗黒職場徳川幕府は今日も胃痛と戦う笑顔の絶えない素晴らしい職場です。
「上様、実は一つ妙案を思いつきまして」
「申してみよ」
「はっ。庶民は憂さ晴らしができればそれで文句は言わなくなるでしょう」
「ふむ、娯楽の提供か?」
「いいえ、それでは機嫌取りに民から搾った金を使ったなどと言われるだけでしょう」
一時的には娯楽の提供でも良いだろうが、根本的な解決になっていない以上は逆効果となる可能性もある。
「民草とは勝手なものよのう」
「まったくですな」
気まぐれと我が儘が服を着ているような上様の言葉に柳沢は適当に合わせておく。
「ではどうすると申すのじゃ?」
「早い話、庶民は吉良がお咎め無しなのが気に入らないのです。ならば吉良をどうにかすれば良いことです」
「むむむ、しかし既に吉良はお咎め無しとしてしまったのじゃぞ」
「ええ。一度下された裁きを撤回するなど、あってはならない事です」
「ならばどうするのじゃ?」
「ええ、ですからーーー」
柳沢の語った方法に綱吉は満面の笑みを浮かべた。
「吉保よ、おぬしも悪よのう」
「そうでなくては側用人など勤まりませんので」
元禄十四年、八月十九日
この日、吉良上野介は呉服橋の屋敷から本所松坂町へと屋敷替えを命じられた。
本所は江戸の端であり、奉行所からは離れている。
そのような場所へ転居させれば、虎視眈々と吉良の首を狙う赤穂の者達に吉良を討てと言っているようなものだ。
だが幕府は屋敷替えを命じただけであり、浅野家に吉良を討てと言ったわけではない。
綱吉の裁きが撤回されたわけではないので、何の問題もない。
しかし庶民は勝手に幕府が吉良を討たせる為に援護したと解釈し、不満はおさまる。
お家再興の為に動いていると聞く赤穂の者達に吉良を討つ事などできない。
そんな事をすればお家再興など絶対に叶わなくなる。
そう言って吉良は説得した。
仮に吉良が討たれても、それはそれで厄介事が片付くだけだ。
吉良上野介の実子である上杉綱憲が治める上杉家の出方が気になるが、そちらも手を打っておけば良い。
上杉家は吉良家に対して毎年6000石の財政援助を行っている。
綱憲にとっては父のためでも、家臣達にとっては他家に貢いでいるだけという頭の痛い所だ。
家老にでも上手い話を通せば、どうとでもできよう。
「さて、どうなる事やら」
吉良には申し訳ないが、天下の安寧のためなら柳沢は鬼にもなる覚悟があった。
文句はいずれ逝った時にでも受け付ける。
こうして吉良上野介は本所へと屋敷替えすることとなり、それは赤穂浪士達にとって大きく運命が動く出来事となった。
本当はこれに加筆して12月14日に投稿するつもりだったのですがね。
明日は更新しませんよ。フリではありません。本当に更新しません。
ですので続きはしばらくお待ちください。