17 告白ですか?いえ流血です
『起きろ!ジン!』聖剣が怒鳴った。
「フニャーン」
(なにー?)
ジンの腕の中で眠っていた瑠璃猫。
「何だよー、眠いー」ジン。
『ルーファスが1人で出ていった。死ぬつもりだろう』聖剣。
「はあああ?!!!」
叫んでジンが飛び起きた。
「ニャンニャニャニャー!」
(にゃんですとー!)
瑠璃猫も飛び起きた。
廃屋を飛び出し、ジンは立ち尽くすシルビアを見つけた。
「ルーファスさんが、1人で出たってホント?!ヤバいだろ!俺たちも行こう!」ジン。
「、、、待ってろって、、、言ってました」
シルビアが力なく言った。目は虚ろだ。
「バカ言うな!死にに行くようなもんだろ!おい!俺を乗せて追えよ!」
自分で馬に乗れないジン。
シルビアは動かない。
「なんで?なんでなんだ?シルビアさん!?
ルーファスさんは良いヤツだよ!俺はルーファスさんが好きだよ!」
「私だって、、、」シルビア。
「間に合う!今なら間に合うから、行こう!
絶対に、行かなきゃ後悔する!
一生後悔する!」ジン。
ノロノロとシルビアが馬の背に乗った。
ジンも乗る。シルビアの後ろに。
『早く行け!』聖剣が怒鳴った。
聖剣の声が聞こえたのか、馬は勢いよく走り出した。
暗闇の中、ルーファスは魔物と戦っていた。
死ななければいけないのに、身体は反射のように剣を振るう。
どこかで期待をしてしまっているのかもしれない。
シルビアが考え直して、来てくれたならと、頭の片隅で思ってしまうのだ。
「ルーファスさん!」
シルビアではなく、ジンの声がした。
友の声だ。
初めて得た、かけがえのない友の声だった。
ジンは馬を飛び降りて、魔物に囲まれているルーファスに向かって走った。
ジンに迷いはない。瑠璃猫はシルビアのそばに残った。
ルーファスとジン(聖剣)とで、魔物を全て倒した。
ハァハァと肩で息をするジン。
ルーファスも疲れていた。
「ルーファスさん、何してくれてるんですか!
1人で夜に出るなんて!自殺行為ですよ!」
ジンが怒る。
「ああ。悪かった」
怒られて嬉しそうなルーファス。
笑顔のルーファスに、毒気を抜かれて文句を言えなくなるジン。
シルビアは何も言わず、離れて突っ立っていた。
『ルリ、その女の腰元の左ポケットを探れ。髪飾りがあるはずだ。出してみせろ』聖剣。
瑠璃猫は聖剣の言うとおり、素早くシルビアのポケットをまさぐり、包まれた髪飾りを取り出した。
月明かりが闇夜を照らしている。
ジンの持ってきた魔道具のランタンも、辺りを明るくしていた。
地面にコロンと転がり、包みから飛び出した髪飾り。
シルビアは固まった。
ルーファスがシルビアにゆっくり近づいた。
ルーファスが静かに髪飾りを拾い、丁寧に包んで、シルビアに手渡した。
「あって良かった」
ルーファスは微笑んでいる。
「、、、なんで、怒らないんですか?」
シルビアがルーファスに問いかける。ルーファスにはシルビアは泣いている子供の様に見えた。
「わかってるんでしょう?
私が嘘をついたこと。
あなたを1人で、魔物と戦わせて、死なせようとしたこと、、、」
ジンは、2人が「よい雰囲気」だと勘違いして、2人から離れていた。
大きなルーファスの背に隠れて、ジンには2人の顔は見えない。言葉も聞こえない。
えー?告白?告白だよな。
邪魔しちゃダメだよなー。聞くのもダメだよなー、とジンは思っていた。
「私は、陛下にとって、邪魔だから。、、、勇者役をやらされて、殺される事はわかっていた」ルーファス。
シルビアがルーファスの顔を見上げた。
「あなたと同じだ。
陛下の望む通りにしなければ、母上と妹は、、、。
あなたも家族がそうなのだろう?」
ルーファスは優しく、諦めた哀しげな瞳でシルビアを見ていた。
わかっているよ、とでも言うように。
「ええ。弟達が、、、だから、、、」
シルビアは胸元から短剣を出した。鞘から抜いて、両手で構えた。
ルーファスに刃を向けている。
「ニャア?!ニャアー!」
(なにしてるの?ダメー!!)
瑠璃猫はシルビアを信用出来なかったので、2人の顔が見える位置にいた。
シルビアが短剣を向けたので、咄嗟にシルビアに光を放った。
盗賊らが剣を放り出して、謝り始めた光と同じ光だ。攻撃をやめるはず。
しかし、シルビアは変わらない。
光に包まれたが、すぐに消え失せた。
「あの猫ちゃんこそ、聖女みたい。心が優しくなったみたいに感じるわ」
シルビアは泣き笑いしながらも、短剣をルーファスに向けている。
(にゃんで?シルビアさん、かわらないよ?あやまらないよ?)
混乱する瑠璃猫。
「私、刺さなきゃ、、、ルーファス様は、優しくて、、、でも、私は、あなたを、殺さなきゃならない、、、」
シルビアは涙をこぼした。両手は震えている。
シルビアを見つめたルーファス。微笑みを絶やさない。
「いいんだよ、シルビア。私は、あなたを、、愛しているから、、」
「えっ?」
ルーファスは自らシルビアに近づき、勢いよくドスッと短剣を胸に埋めた。そのままシルビアを抱きしめた。強く、強く。
「あ、あ、ああああ!」
シルビアが手に伝わる、肉を裂く感触に慄いた。
これまで、何度も感じだ感触なのに、今のそれは、シルビア自身の内の何かを貫いて砕いた。
ルーファスの腕の力が、抜け始めた。シルビアを抱きしめている腕の力が溶けてゆく。
ルーファスが膝から崩れ落ちる。シルビアがその身体を抱きとめた。
「なんで!なんで!」
シルビアが顔を歪めて絶叫した。
「シルビア、母上と妹に、、、笑って、、生きて欲しいと、、伝えて、、」ルーファス。ガホッと大量の血を吐き出した。
ルーファスの目の焦点が空を彷徨った。身体は全て力を失った。
「イヤーーー!!」
シルビアは暗器を取り出して、自分の喉に突き立てようとした。
抱きしめ合って告白が成就した、と見ていたジン。
様子がおかしいことに気がついて、近づいて来ていた。
自殺しようとしたシルビアから、ジンは慌てて暗器を取り払った。
「何してんだよ!」ジン。
横たわるルーファス。その胸には短剣が刺さっている。
「なんで、ルーファス様が?なんだよ、この短剣は?!
なんで、2人が死のうとしてるわけ?!わけわかんねーんだけど!!」
ジンが混乱して叫ぶ。
『ルリ!ルーファスに癒しを!死なせるな!』聖剣。
「ニャアー!!」
(任せて!)




