1 臆病勇者誕生
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「ホントに行くのかい?」
中年の人の良さげな田舎夫人が、心配そうに眉を下げて息子を見上げた。
息子の名前はジン。23歳。
茶色の髪と瞳の地味だけど優しい顔をした青年だ。細身だが、脱げば筋肉はしっかりある。背は高め。
「ああ。王都で立派な騎士になって、たくさん仕送りするからさ。楽しみにしてて、母さん」
荷物を背負い、ジンは明るく笑った。
出立の準備をしたジンを母親のハンナと妹のソフィアが見送る。
「お兄ちゃん、追い出すみたいで、ごめんなさい」
ソフィアがすまなそうに言う。
「追い出されるなんて、思ってないよ。
俺は王都に行ってみたかったんだよ。ソフィア、母さんを頼む。サイモンと幸せにな」
ジンがソフィアの頭に手をやって撫でた。
子供の頃によく撫でたクセだ。父親が亡くなって、母親は薬店の経営で忙しかった。
ジンはソフィアの良い兄だ。
「ソフィアのほうがこの店の経営も接客も向いてるよ。
それに、サイモンは薬師として優秀だし。婿になってくれるから、店も母さんのことも、お前達夫婦に任せて、俺は安心だよ。
だから、何も気にするなって!落ち着いたら連絡するし、帰ってくるよ」ジン。
ジンは本気でそう思っていた。しかし、母親は息子がお人好しで優しい性格で、王都ですぐ騙されそうで心配だった。
「お前だって、店の経理も接客も頑張ってたじゃない。お客様も喜んでたよ。親切だって。
騎士なんて向いてないよ。ジンは臆病だし、、、」ハンナ。
「ヒデーなー。応援してくれよ。騎士がダメなら、警備員でも用心棒でも、何でもするって。王都なら、何かしら職はあるだろ。
そりゃ、俺は小心者だけど。師匠には『剣筋だけは良い。見込みあるぞ』って褒められたし!それに、、、」
ジンは空想にふけるように言った。
「何かに呼ばれてるような、、、、行かなきゃならない、って。急かされてるような気がするんだ。
ゴメン、変なこと言って。
とにかくさ、母さん、心配しないで」
「ジン、、、お前は昔から直感を頼りにして行動したね。しかも、それがなんだか、当たるというか、かするんだよね。
まぁ、行っておいで。いつでも、帰ってきていいからね。お前の故郷は、ココだからね」ハンナ。
「うん。ありがとう、母さん。行ってくるよ!」
ジンはドアを開けて外に出た。
夜明けが近い。暁に染まる空。清々しくキリッと引き締まる空気。
ジンは生まれ育った家を出た。
村から王都への街道へ向かう。
ハンナとソフィアはジンが見えなくなるまでその姿を見送った。その目には、涙が浮かんでいた。
ジンは大きめの街に着くと乗り合い馬車で王都に向かった。
順調に王都近くの街まで来れたのだが。
乗り合い馬車が出発前に、王都へ向かうためにこの馬車に乗りたいと言う老婦人が来た。
馬車は満員。馭者は老婦人を断った。
そこでジンは老婦人に席を譲り、馬車を降りた。
歩けば1日で着く距離だと聞いたし。尻も痛くて歩くのも良いと思った。
ジンは王都の近くまで来た。
しかし、いつの間にか、街道を大きく外れてしまっていた。
何故街道を外れたかというと。
歩いていた街道のそばに、不思議な足跡を見つけたからだ。小動物、猫の足跡のようだった。
なせが、その足跡が気になって、ジンは街道を外れて辿ってしまった。
砂地にかすかに足跡が残っていたり。
泥の中に、はっきりクッキリと足跡があったり。
しかも、時折ニャオンと猫の鳴き声がする。
ジンは導かれるように、引き寄せられるように、森の中に迷い込んでいた。
しだいに靄が立ち込めていた。
「ヤバい。マズイ。でも、行かなきゃならない気がする」
靄の中に、ぼうっと巨大な木が姿を現した。
「こんなところに、良い木だな。見たこと無い木だな。すごく気になる木だ」
ジンは巨木に近づいた。
なんとなく、グルリと一周した。
すると、巨木の幹の裂け目に、深々と一本の剣が突き刺さっていた。
「なんだ?なんでこんな所に剣が?酷いなぁ。痛そうだ。
そっか、、、わかった。抜いて欲しいんだな」
木を生き物の様に思うジン。ジンはちょっとズレてる。が、本人はそれに気がついていない。
「痛いよな。つらいよな。
んー、オレに抜けるかなぁ?
とりあえず、頑張るぜ!」
ジンは柄に手をかけて足を踏ん張って力を込めた。
スッポーーン!!
あっけなく、剣は抜けた。
力を込めすぎたジンが勢い余って派手にすっ転んだ。尻もちをついた。
「なんだよー。刺さってなかったんだ。置かれてただけかー。
誰にも見られてなくて良かった。オレ、恥ずかしーじゃん。
ふー、誰かの落とし物かなぁ?」
ジンは立ち上がり、土埃をはらい、剣をマジマジと見つめた。
「うーん、大した剣じゃないな。ボロいし。捨てられたんだな!」
ハハハと自分を笑うジン。
突然頭の中に稲妻の様な声が響いた。
「馬鹿者ーー!!俺様は世界で唯一無二の『聖剣様』だ!!喜べ!敬え!!無礼者め!!」
「うわわわわわ!!!なんだ!?声が!声がする!」
恐怖に襲われたジン。思いっきり、剣をぶん投げた。
剣の怨霊だと思ったのだ。
「ヒィィィ!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいいいぃぃ!」
叫んで謝ってジンは逃げ出そうとした。
だが、ジンの頭にゴーンと衝撃が!ジンはすっ転んだ。気が遠くなりそうだ。
しかし、ここで気絶したら、怨霊に身体を乗っ取られる!!かも知れないし、とにかく怖い!!
ジンは心を奮い立たせて、起き上がった。
地面に鞘が落ちていた。頭の衝撃は鞘の様だった。
「俺様を投げ飛ばすとは、許さん!罰当たりめ!」
再度頭に響く声。
「キャアアアアァ!」
ジンは女の子の様に悲鳴を上げた。
「お化けお化けお化けオバケー!」
ジンはがむしゃらに走り出した。
しかし、いくら走っても声がする。
「はははは!俺様から逃げられるわけなかろう!はははは!」
ジンの腰ベルトには、しっかりと鞘に収まったあの剣が、挟まっていた。
ジンは気づかず、泣きながら森を走り抜けた。
「うわわわーん!助けてー!オバケー!」
ジンの情けない泣き叫ぶ声が森にこだました。
その頃。
ある場所で、地下奥深くに眠りから目覚めるモノがいた。
「ケンが、抜かれた、、、。目、覚めた、、、」
お読み頂きありがとうございます。
まだ最後までは書けてないです。
たくさんポイントを頂けた「結婚式に参列に行ったら自分が結婚しました」を完結させたので、忘れられないうちに、とりあえず、一話目を出しておきます。
よろしくお願いします。




