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第90話 告白

 夕食後、酔ったリマをなだめて客室へ押し込む。

 そしてレイが俺の部屋に来た。


「アル、私は明日出発するわ。一日でも早く帰った方が良さそうだから」

「そうだね。分かったよ」

「アルも一緒に来る?」

「いや、騎士団のことは部外者だし、製作中の装備もあるから俺はここに残るよ」

「そうね……。ここから王都は往復で約二ヶ月。解決にどのくらい時間がかかるか分からないけど、最低でも三ヶ月は帰って来れないと思う」

「そんなに?」

「寂しい?」

「あ……う、うん。寂しいかも」

「ふふふ、私も寂しいわ」


 レイが抱きついてきた。

 酒も入っていて、少し大胆になっているようだ。


「レイ。エルウッドを護衛につけるから一緒に行って」

「え? エルウッドはアルと離れないわよ?」

「大丈夫。エルウッドはレイのことも家族だと思っているから」

「本当! 嬉しいわ。じゃあ、お言葉に甘えてエルウッドに来てもらおうかしら」


 レイが俺の胸に頬を寄せる。


「ふふふ、あなたと一緒に旅をして約五ヶ月。ずっと一緒だったものね」

「そうだね。毎日一緒だった。レイがいたからここまでやってこれたんだ」


 たった五ヶ月だけど、レイといた時間はとても濃厚だった。

 長年フラル山で一人暮らしをしてきた俺にとって、両親が死んでからこれほど誰かと一緒にいたことはない。


 レイには師匠としてたくさんのことを教えてもらった。

 そして、楽しい時も、苦しい時も、悲しい時も、命の危険を感じた時も、レイはずっと横にいてくれた。

 レイがいたからここまでやってこれたのは間違いない。


 抱き付いているレイの顔を見ると、宝石のような紺碧色の瞳に惹き込まる。

 あまりに……美しい。


「レイ」

「なあに?」

「俺、レイが好きだ」

「え? な、何? ど、どうしたの突然?」

「あっ! いや、ご、ごめん! ……その、レイを見ていたら言葉が出てきた」


 なぜこんな言葉が出てきたのか、自分でも驚く。

 レイも驚いた表情だったが、すぐに微笑みへと変わった。


「嬉しい。私はずっとアルのことが好きだったのよ?」

「え? 本当に?」

「あなた、もしかして何も気付いてなかったの?」

「あ、あの……ごめん」

「ふふふ、あなたらしいわね」

「レイ、いつも一緒にいてくれてありがとう」

「もう、離れるのが寂しくなっちゃったじゃない」

「ごめん」

「バカ」


 少しの静寂。

 そして、俺はレイにキスをした。


「ふふふ、嬉しい」

「俺……、山でレイにキスされたのが初めてだったんだ」

「私もよ? アルとだけよ? あなたはモテるけどね」

「そ! ……そんなこと……な、ないよ」

「ふふふ、別にいいのよ。アル、大好きよ」

「俺もだよ。好きだ、レイ」


 もう一度キスをした。


「レイ、明日は見送るね」

「ええ、ありがとう」


 少しの言葉を交わし、レイは部屋に戻った。


「ふう。言葉って自然と出てくるんだな……」


 顔が真っ赤になっているのが分かる。

 以前ファステルに、人を好きになる気持ちがまだ分からないと伝えたことがあったが、今ようやく分かった。


 俺はレイが好きだ。


 自分の気持ちにはっきりと気付いた。

 心臓の鼓動が速い。


 ドキドキして眠れない。

 眠れな……。


 ――


 翌朝、日の出とともに目を覚ます。


 庭へ出ると、エルウッドが何やら運動していた。

 最近は踊りにハマっているらしく、暇さえあれば踊っている。

 しかし、どう見ても変な踊りだった。

 一体誰に教わったんだろう?


「エルウッド、おはよう」

「ウォン」

「レイがイーセ王国に帰ることになった。レイを守ってもらえる?」

「ウォン!」

「ありがとう!」

「エルウッドとはしばらく離れるけど、俺は三ヶ月間クエスト禁止だし何も心配いらないからね」

「ウォウウォウ!」

「レイの護衛を頼んだよ」

「ウォン!」


 足音が聞こえた。


「エルウッドがいれば寂しくないわ」

「ウォウウォウ!」


 声の持ち主はレイだった。


「おはよう、アル」

「おはよう、レイ」


 俺はレイの顔を見るのが恥ずかしかった。


「何照れてるの?」

「て、照れてなんかないよ!」

「ふふふ、顔が赤いわよ」

「あ、いや、その。……レイが綺麗だから」

「ちょっと急に。や、やだ」


 レイが下を向いた。

 顔が真っ赤だ。


 その横で、エルウッドは変な踊りを続けている。

 ちょうどそのタイミングでリマが起きてきた。


「おはよう、レイ、アル君」

「お、おはようリマ」

「ん? レイ顔が赤いぞ? どうした?」

「え? そ、そうかしら」

「風邪か? 春とはいえ体調は気をつけろよ。フハハハ」


 リマは勘違いしたまま、踊っているエルウッドを見る。


「お! エルウッドはダンスもできるのか!? かっこいい踊りだな!」

「ウォン!」


 あの変な踊りをかっこいいというリマのセンスって……。


 その後、朝食を取り、レイとリマの出発を見送る。

 使用人たちも家の外まで出てきてくれた。


「ステム、私が不在の間はアルをよろしくね」

「はい、レイ様。お任せください」


 メイドのエルザがレイに一礼した。


「レイ様、お帰りをお待ちしております。道中お気をつけて行ってらっしゃいませ」

「ありがとう。帰ってきたら、真っ先にエルザの紅茶を飲ませてね」


 続いてメイドのマリン。


「レイ様、イーセ王国のお土産をお待ちしてます!」

「ふふふ、マリンったら。分かってるわよ。代わりにケーキを作って待っててね」


 最後に庭師のミック。


「レイ様、馬の手入れは万全です。無事に帰ってきでくだせえ」

「ええ、もちろんよミック。帰ったらまた馬をよろしくね」


 レイは全員の顔を見渡した。


「じゃあ皆、行ってきます!」


 俺はウグマの城壁の外まで、レイとリマを送ることにした。

 街を出てしばらく進む。


「アル、ここら辺で大丈夫よ?」

「そうか。これ以上進むと自宅に戻るのが夜になるか」


 俺たちは一度立ち止まる。


「レイ、気をつけてね」

「ふふふ、エルウッドがいるから平気よ」

「エルウッド、レイを頼んだぞ」

「ウォン」


 エルウッドがいれば安心だ。

 そして最後に二人の顔を見た。


「じゃあ、レイ、リマ。本当に気をつけて」

「ありがとう。行ってくるわね」

「アル君、ありがとう。レイのことは任せろ」


 数百メデルト進むと、振り返って手を振るレイ。

 俺はしばらくの間、レイとリマ、そしてエルウッドの後ろ姿を馬上から眺めていた。

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