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鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜  作者: 犬斗
第六章

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第89話 噂の冒険者

 リマの表情が真剣になった。


「騎士の責務と交換条件《アズ・イノー・ディグレス》の内容は三つあるんだ。一つ目は隊長会議が決まった。今回はレイも参加必須だ」


 クロトエ騎士団は一番隊から十二番隊まであり、さらに王室を守る近衛隊がある。

 各番隊は広大なイーセ王国の各地方を守護しているため、全隊長が一箇所に集まることは滅多にない。

 前回集まったのは前国王陛下の国葬の時だった。

 その時は俺も王都にいたので知っている。


「もしかして、新団長決定? リマ? それともジル・ダズ?」

「アタシは一応団長代理だが、アタシの団長は絶対にない。それに、今回は女王陛下が決定権を持つことになった」

「女王陛下が? 隊長による投票じゃないの?」

「ああ、理由があるんだ。それが二つ目に関連する。王の一撃(ヴァリクス)が行方不明になった」

「え! ちょ、ちょっと! 王の一撃(ヴァリクス)って国宝よ!」

「そうだ。謁見室からなくなっていた」

「ど、どうやって? 王城の警備は厳重よ?」

「それが分かったら苦労しませんよ。前団長様」

「ふうう、そうね。で、三つ目は?」

「三つ目はね、女王陛下が本当にお茶会もするってさ。フハハハ」

「もう、ヴィクトリアったら」


 ヴィクトリア女王陛下とレイは、昔からのお茶仲間だった。

 騎士団で女王陛下を呼び捨てにできるのはレイだけだ。


 しかし、話に出てきた王の一撃(ヴァリクス)とは何のことだろう?

 国宝とのことだが……。


「ねえ、レイ。王の一撃(ヴァリクス)って何かな?」

「アルも知ってるわよ。前国王、ジョンアー・イーセ陛下が使っていた長剣(ロングソード)よ」

「あ! あの、隕鉄石の剣か!」

「よく隕鉄石って分かるわね。さすが凄腕の鉱夫だっただけあるわ」

「ああ、あの剣は凄かった。俺の片刃の大剣(ファラゴン)と互角以上だったからね」


 リマが哀しげな表情で俺の顔を見た。


「そうだったな。アル君は国王陛下と戦って知ってるか……」


 これまで戦った剣士の中で、最も強かったジョンアー陛下。

 そして王の一撃(ヴァリクス)も凄まじい性能を誇る剣だった。


「アタシは王室を守る近衛隊の隊長だから、これはアタシの責任問題になる。恐らく、アタシの団長代理は剥奪となるだろう。近衛隊隊長は……分からない。でも、女王陛下の決定に従うまでだ」

「……そうね。責任の所在を追求すると、あなたになってしまうわね。でも、わざとじゃないわよね?」

「当たり前だろ! いくら団長代理を辞めたいからといって、そんなことはしない」

「そうね。ごめんなさい」

「ヴァリクスが紛失して二日後にアタシは出発した。ここへ来るのに一ヶ月かかってる。道中では暗部から情報をもらっていたが、特に進展はない様子だ」


 レイは指先を口につけながら、何かを考えている様子だ。


「王都へ戻るのも一ヶ月。帰国したら約二ヶ月分の進展ということね」

「そうだ。だから一刻も早く帰りたい。明日にはアンタを連れて帰国するよ」

「仕方ないわね。それにしても、団長代理のあなたがわざわざ来たのはどうして? 暇なの?」

「なわけないだろ!」

「ふふふ、分かってるわよ」

「ちっ。帝国で騎士の活動はできないからな。国際問題になる。だから、Aランクの冒険者カードを持ってるアタシが冒険者として来たんだよ。それにアタシとアンタなら、道中何があっても大抵のことは切り抜けられるからな。フォルド帝国で冒険者の経験があるから地理にも詳しい」

「まあそうね」

「おっと、そうだ」


 最後にリマは俺の顔を見た。


「アル君、この内容は国家機密だから内密にな」

「わ、分かった」


 騎士の責務と交換条件《アズ・イノー・ディグレス》の用件は以上のようだ。

 ひとまずリマを客室へ案内。


 その日の夕食は、リマを交えて自宅で取ることにした。


 メイドの二人が腕を振るう。

 メニューはウグマの郷土料理フルコースだ。


「アタシはウグマ料理にはうるさいが、ここの料理は美味いぞ」

「メイド二人の料理は完璧だもの」


 リマは喜んで食べていた。


「そうそうレイ。そういえばさ、ここへ来る途中に信じられない噂を聞いたんだ」

「どんな噂?」

「出現するたびに帝国を地獄に突き落とした、あのダーク・ゼム・イクリプスが討伐されたんだって。しかも、鬼のような冒険者が一人で討伐したって聞いたよ。本当かい?」

「鬼ねえ。ふふふ」

「な、笑っちゃうだろ。鬼なんかいるわけないんだよ。だから眉唾ものだと思ってる」

「鬼はね、リマの前にいるわよ?」

「はっ? 何言って……。ん?」


 リマの正面にいる俺。

 目が合った瞬間、リマは何かに気付いたような表情を浮かべた。


「え? ま、まさか?」

「そのまさかよ」

「はあ? アル君が討伐したってのか? だってアル君って冒険者になってからまだ日が浅いだろ!」

「そうなのよね。鬼じゃないけど怪物よ」


 二人が俺を見て鬼だ怪物だと言っている。


「おいおい、人を化け物扱いしないでくれよ。確かにダーク・ゼム・イクリプスは討伐したけどさ」

「アル君一人で?」

「厳密にはエルウッドとね」


 俺はエルウッドと共闘してダーク・ゼム・イクリプスを討伐した。

 すると、レイが首を左右に振っている。


「確かに共闘してたけど、エルウッドは途中で怪我をしてしまったのよ。だから、結果的にアル一人の力で討伐したわ」

「し、信じられん。レイは戦わなかったのか?」

「私は何もしてないわよ。私がダーク・ゼム・イクリプスに敵うわけないもの」

「そ、そうか。まあ、アル君は昨年の時点でアタシと互角以上だったしな」

「実際に戦いを見ていた私も信じられなかったわ。アルは私をもう遥かに超えてるのよ」

「ウソだろ?」

「ウソじゃないわ。だって、ダーク・ゼム・イクリプスを討伐した二週間後に、一人でウォール・エレ・シャットを討伐したもの」

「ウォール・エレ・シャット? ウォール・エレ・シャットって確か……岩食竜(ディプロクス)のネームド?」

「そうよ」

「はああ! 何言ってるんだよ! 人間がたった一人でネームドを討伐できるわけないだろ! それにネームドを二週間で二頭討伐なんてギルドの歴史にもないぞ!」

「だから、帝国史やギルドの歴史資料に載るらしいわよ」

「ほ、本当なのか?」

「ええ、本当よ。アル、仕方ないからリマに討伐スコアを見せたら?」

「ああ、いいよ」


 俺は冒険者カードをリマに渡した。


 ◇◇◇


 <討伐スコア>


 冒険者ランク A


 ネームド

 ダーク・ゼム・イクリプス(槍豹獣(サーべラル))

 ウォール・エレ・シャット(岩食竜(ディプロクス))


 Bランク

 霧大蝮(ネーベルバイパー)

 大牙猛象(エレモス)


 Cランク

 腐食獣竜(スカベラス) 十頭


 ◇◇◇


「ほ、本当だ……。ってか、何だよこれ! 討伐したモンスター五種類の内、二種類がネームドって。え? アル君ってAランクなの?」


 リマは混乱しているようだ。


「ねえリマ。私達もネームドを討伐したじゃない。でもあれは専用パーティーを組んだでしょ? アルはたった一人で二頭のネームドを討伐したのよ」

「し、信じられない。あの時だって犠牲が……」


 リマが麦酒を一気に飲み干した。


「レイ……」

「何、どうしたの?」

「やりたい」

「え?」

「アタシも冒険者やりたい! メッチャ楽しそう!」

「わがまま言わないの!」

「アタシはいつでもレイの後をついて行くだけでいいんだ! レイとまた一緒にいたい!」

「ダメよ。しっかりしなさい」

「レイがいない騎士団なんて、金を賭けないカードみたいなものだ! つまらん! 辞表出す! レイと冒険したい!」

「ダメよ。明日一緒に帰るから。落ち着きなさい」

「アル君が羨ましい!」


 子供のように駄々をこね始めたリマ。

 その後も葡萄酒を三本も空け、リマのわがままは続いた。

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