引きこもり3
「さあ、始めようかしら!!」
気合いたっぷりの祖母に押されて、服の着替えが始まった。
・・何着着たり脱いだりしただろうか?
翠花はややぐったり気味である。
服の着脱のみならず、祖母が余りに楽しげに翠花を褒めちぎるのでいたたまれなくなってしまったのだ。
「翠花は肌がきれいだわ。光沢のある淡い色もよく似合うわね。」
「手足が長いからぴたっとしたのもいけるわよ。」
「まあ、この色も似合うわ。これくらい色っぽいのもありね!」
祖母は、とにかく笑顔で褒める。
翠花は困ったような笑みを浮かべた。
「あら、こんなに可愛いのに、元気がないわね。どうかした?」
祖母に聞かれて、翠花は言葉につまる。
「あ・・ごめんなさい。なんだか、素敵な服ばかりで服に申し訳なくて。」
祖母は、呆気にとられた顔をしたあと、真面目な顔になった。
「翠花。あなたは、とっても可愛いし、しかも美人よ。眼鏡だって、顔立ちに合ったものを作って髪型も整えれば、みんなが振り向くくらいに素敵。どうしても、男手一つで育てていると、そっちはなかなかねえ。」
父親の話になると、慌ててしまう。
「おばあちゃん、違うわ。私が本に夢中な変わった娘だっただけで、お父様はいろいろ気を配ってくれていたのよ。」
「ああ、違うのよ。」
祖母は、言葉を間違えた、と微笑む。
「あなたのお父様には感謝しているわ。あのお父様だから、あなたは、こんな真っ直ぐな心のきれいな娘になったのでしょう。だからね。もっと自信をもってほしいの。あなたは私の娘・・藍玉の娘なんだから。」
翠花は、ハッとしたが、やはり俯いてしまった。
「私は、お母さんみたいに魅力的ではないわ。」
記憶の中にある母は、いつも笑顔で美しい。
翠花にとってはずっと自慢の母だ。
でも。
自分がそうでないことは、自分が一番知っている。
「翠花。外見をいくら飾っても、中身が伴わなければ魅力などないわ。でも、内面が美しければ、ちょっと外見を気にするだけで驚くほど見違える。それはね。外見が作るのは『自信』だからよ。」
祖母の翠花を撫でる手は優しい。
「服や髪型、化粧を使って、『自信』を手に入れなさい。私が教えてあげるから、楽しみましょう。あなたの今の悩みは、それで意外と解決するかもしれないわよ?」
翠花はまたはっとして祖母を見る。
祖母は、それ以上『悩み』には触れず、
「次は何にしようかしらね。」
と、服を手に取った。
(楽しむ・・か。よし。)
祖母の言葉に気合いをいれる。
その気になってみると、服選びも、シンプルながら化粧も、新鮮で楽しかった。
ここには、翠花が多少失敗したって責める人はいない。
楽しげな笑顔が出始めた翠花を、祖母は優しくみつめる。
(皇太子が見合いで見初める・・まあ、皇太子様に見る目があれば、あり得ない話じゃないと、私は思うけどね。)
どちらにせよ、翠花をあんな暗い顔にさせたことを、絶対後悔させてやる、と祖母は密かに誓う。
地位や身分など、恋の前では無力だ。
戦い方は、一つではないのだ。