後悔と焦燥1(碧龍視点)
皇太子は、荒れていた。
「皇太子妃にすることにした。」
そう宣言して、翠花の驚いた目が、自分だけを映した瞬間に満足してその場を離れた。
青河が何か言いたそうにしていたが、やめたようだ。
(やっとみつけた。しかも、翠花は変わっていなかった。さらには、誰かが魅力に気づく前にみつけられた。奇跡だ!)
実際、余りに幸せそうににやにやしている碧龍に、水を差すことを言うタイミングなど、その時はなかったのだ。
・・しかし。
「翠花がいない。」
異変に気づくまで、そう長くはかからなかった。
書庫にいけばいつでも会える、くらいに思っていたのに、あれから一度も来ないという。
お忍びで、青河を伴って翠花の家にも行ってみたが見当たらない。
町の雑談でそれとなく探った時初めて、碧龍は自分の発言が思いもよらぬ大きな波紋を呼んでいたことに気づいた。
周りへの牽制と、翠花への宣言。
それさえしておけば、あとは、ゆっくり外堀を埋めていけばよい、と思っていた。
極めつけは、一人が言った、
「翠花は身体を壊して、その療養のために遠くの祖母のもとに身を寄せたらしい」
というものだ。
ここまできて、碧龍は、自分が何か大きな過ちをおかしたことに思い至る。
「どこで間違えたんだ?」
「いや、最初からでしょ!!」
碧龍の独り言に、たまらず答えたのは、成り行きをずっと見守っていた青河である。
「最初から?」
「そもそも、碧龍様は、なんで翠花さんと見合いしようと思ったんです?」
「え?そんなの・・あれ?」
そういえば、気恥ずかしくて子どもの時の話はしていない。
「俺たちは、あなたが真面目な気持ちで見合いしたのか、面白半分だったかさえわかってないですよ。しかも、いきなりあんな宣言を一方的にしたら、普通ぶちギレられても文句は言えないと思いますけど。」
「いや、大真面目だし!なんでキレられるんだよ?」
「いきなりすぎて、たちの悪い冗談にしかおもえないからですよ。」
(え?冗談?)
碧龍は真剣である。
何せ、ずっと求めていた女性だ。
何があっても手放すつもりなど、ない。
青河は大きくため息をついた。
「翠花さんのお父さんに、父は土下座していたらしいです。」
忙しい仕事の合間を縫って、皇太子の見合いまで任され、またその一方で自分の相手をなんとか探そうとしていた。
苦労性の父を青河は尊敬しているし、その父が碧龍のせいで、土下座までしたとあらば、思うところは当然ある。
「俺は、碧龍様のこと、尊敬してます。いずれ仕える主君として認めていますし。だから、何か考えがあるのだとは思ってるんですよ?でも、さすがにやってることがめちゃくちゃです!」
「・・ごめん。」
「いや、俺がそんな偉そうなこと言うなよってのは分かって・・ん?今、ごめんて言いました?」
青河は意外な反応に驚いてしまう。
「・・まあ、俺に謝られても、なんですけど・・。良かったら、なんでこんなことになったのか、教えてもらえませんか?」
珍しく素直な様子の碧龍に切り出すと、碧龍は、頭を整理するように、順番に話し始める。
それをたっぷり聞いた青河は、思わぬ碧龍の純粋さに恥ずかしくなってしまった。
(俺よりはるかにモテるのに、初恋拗らせて今にいたるとか・・っ!?思わぬ再会を果たして舞い上がってるとか・・!?)
「・・なんで顔が赤いんだ?」
「な、なんでもないです!!」
しかし、これは困ったぞ、と思い直す。
ただでさえ、皇太子に嫁ぐには、一平民では後ろ楯が無さすぎる。
かといって、今の碧龍に翠花以外の女性を選ばせるのはたぶん不可能だ。
ならば、とれる道は。
「碧龍様。俺も、できるだけのことはしますから、その恋、実らせましょう。」
碧龍のことだ。彼女の心さえ手に入れば、後の事は何とかしてしまうだろう。
青河には、碧龍を応援する理由がある。
「なんだ?やけに協力的になったね。」
怪訝な碧龍に、気持ちを込めて青河は返す。
「俺だって、早く可愛い奥さん迎えたいですもん。」
碧龍の恋には、青河の見合いがかかっているのである。
(父上。俺、頑張るからな。)
碧龍に見えないところで、拳に誓う青河。
だが、碧龍が翠花にアプローチするには、越えなければならない高い壁が在ったのである。
宮に戻った碧龍は、タイミングを見計らったかのように玉座の間に呼ばれた。




