真実には敵わない2
「・・っあの!翠花!渡したいものが!!」
「父君!いけません!今いいところ!!」
「通してください!貴方たちは何を考えているんです?いい加減にしていただきたい!」
にわかにあわただしくなり、服が争ったあとだと充分に分かる乱れ方をした二人の男が乱入してきた。
一人は青河。もう一人は・・
「お父さん!?」
翠花の父が、凄い顔でそこに立っていた。
「こうならないために、ここに預けたというのに!!貴殿方は娘を何だと思っているんだ!?いくらなんでも許せません!不敬だと言われても結構!翠花は連れて帰ります!失礼!」
ずかずかと入って翠花を庇うように立たせる父を、止められる気がしない。
(いや、でも今言わないともうチャンスが!!)
「翠花!王宮の司書として働いてほしいんだ!!」
ありったけの声でそう伝えた瞬間、その場が一瞬で静まり返った。
「王宮の・・司書?」
言葉を発したのは、翠花だ。
碧龍は、袂から一枚の書状を取り出した。
「ここに、採用通知がある。君の知識と、能力は、実証済みだ。君さえ了承してくれたら、すぐに働ける。」
翠花の目が控えめに輝いたのを、碧龍は見逃さない。
「本当はもっと落ち着いてゆっくり伝えたかったんだ。僕なりの思惑はもちろんあるけど、採用は私情で決めた訳じゃない。君なら、書庫の資料を有意義に使える。その価値もよく分かってる。僕の思いに応えない選択をしても、この仕事は君しかあり得ないと僕は思っている。」
もちろん応えてもらえるまで諦めるつもりはないのだが、そのためには近くに来てもらわなければいけない。
「王宮書庫に勤めれば、そこでしか読めない本がよみ放題。しかも自立して生活できる。」
「・・翠花?」
恐る恐る顔をうかがう翠花父。
そして、すぐに、ため息をつき、恨めしそうに青河に目をやる。
(いや、俺なの?俺、悪くないっっ!)
隠しきれない興奮で頬を上気させ、目を輝かせながら、ふるふると震える翠花を見れば、不満のやりどころがないのも分かるのだが。
「翠花。一緒に帰ろう。僕とのことは、まだ焦らなくてもいい。王宮書庫で、本を読みながらゆっくり考えてくれれば。」
(これは、仕事。本に逃げるのではなく、前向きに、本に囲まれる、仕事。王宮書庫なら、諦めていた本が読めてしまう・・!!)
「そのお話、詳しく聞かせていただきます!!」
「翠花・・。」
窮地の娘を救うべく、全力で乱入した父は、何故か今、この場で一番脱力していた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
問題が解決したわけではない。
海里は罰を受ける。償いが終わったあとは本人次第だ。
領主によれば、長い間溜まり続けた不満や誤解は、全てではないが話ができたそうだ。
海里の心が溶けるかは、まだ分からないが、絶望的というわけではなさそうだった。
ラウは、封家で奥様の護衛という立場で過ごす。本人は至って元気だが、定期的に調子を知らせてもらうことになっている。
碧龍は、正体を明かさないまま、先に帰ることになった。報告やらなんやら、済ませるべきことが多いからだそうだ。
「いろんな報告を求められますからね。まあ、早い方がいいと思います。」
不機嫌そうな碧龍を急かしながら、青河は苦笑いを浮かべてそう言った。
そして、翠花は。
「こんなことになるなんて、封家に預けた意味・・。」
ため息をつき、落ち込む父に、翠花は小さくなってしまう。
「ごめんなさい。本に、目がくらんで・・。」
結局、翠花は王宮書庫の仕事を引き受けた。
望める仕事の中で、間違いなくダントツのいい仕事だったからだ。
翠花とて、もれなく碧龍のアプローチがついてくることは理解している。
しかし、逃げないと決めた以上、それはあまり大した脅威ではなくなっていた。
(慣れって、怖いわね。)
いろいろ段階を飛ばしてやらかしてくれた碧龍のおかげで、そういったことに少しは耐性がついてしまった。父には言えないが。
「翠花の気持ちが前向きになったことは、よしとしよう。・・そこだけは奥様にも感謝しないとな。」
一連の事件で詫びっぱなしだった祖母の姿が浮かぶ。翠花は、彼女に対しての恨みなど、当然あるわけはないのだが、父はかなり怒っていた。
「怖いこともあったけれど、行かなければ知らないままだったことがたくさんあったわ。お父さん。私、お母さんのこと、たくさん知りたい。」
思えば、自分の生との引き換えになってしまった母の死に、触れてしまうのがなんとなく怖くて避けていた話題だった。
でも、それも含めて今の自分なのだから。
替わりになるのでも、避けるのでもなく、自分を産み出してくれた母のことを、ただ知りたい。
「ああ。いろいろ話してあげよう。父さんは、母さんのこと、今も世界一の女性だと思ってる。」
思わぬ情熱的な言葉に、父の顔をじっと見つめると、父も力強く見返した。
「だから、その人との間に生まれた翠花のことを世界一大事に思っている。お前が新しい世界に飛び込むのを止めはしない。止めはしないが・・いつでも帰ってきなさい。どんな道を進もうと、お前が自慢の娘であることに変わりないのだから。」
命は繋がっている。
翠花はそっと父に寄りかかってそのぬくもりに浸った。
『翠花は、妃にはなれない。平民ですよ?』
『あー。それは、実は解決してしまいそうで。』
翠花のいないところで。
父は青河と話をしていた。
『そもそも、封家は領主の一族です。形の上では断絶しているとはいえ、貴方たちの関係はいたって良好。今回の件で貸しもありますから、養子縁組みしてしまえば封家の令嬢として後宮にはいれます。』
そして、碧龍は翠花以外を後宮にいれる気がない。
『それが無理でも・・。』
青河は声を潜めた。
『今回恩を売ったのは、鳳白国の皇帝です。彼なら婚姻に必要な身分を用意できる。』
隣国の貴賓として、嫁ぐことも可能だということだ。
『翠花さんは、たぶんまだまだ何かやってくれる気がします。そのうち、肩書きなしでも認められてしまうかも。』
青河が何気なく言った言葉が、なぜか胸に残る。
(藍玉。俺たちの娘は、結構とんでもないみたいだ。)
内気で引きこもりの翠花だが、決して無能なわけではない。
今後、前進し始めた娘の行き着く先を考えながら、今は自分に寄りかかる頭を優しくなでる、翠花父なのであった。
一旦完結にします。
読み続けてくださった方、本当にありがとうございました!
司書になってからの翠花や、このあとの展開など、また『書けそう!』となったら掲載するかもしれません。(続きを読みたいと言っていただける方が一人でもいれば、頑張ってみようと思います・・あればぜひコメントください((>_<))
迷走もありましたがお付き合い下さった方、感謝しかありません。
ありがとうございました!




