興味と嘘 (碧龍目線)1
「見合いしろって言われました。」
「へえ?」
護衛として行動を共にしている庚青河から、ため息混じりに告げられ、碧龍は興味を持った。
青河も碧龍も十七歳になった。
本当なら政略的に婚約者がいてもおかしくなく、実際に周りの同年代はもう決めた相手がいるものも多い。
青河と碧龍は、いわば乳母兄弟の間柄で、未だに青河の母には碧龍は頭が上がらない。
皇帝の忠実な側近であり続けている庚家は、ある問題に頭を悩ませていた。
皇太子である碧龍に、婚約者がいないこと、である。
臣下として心配なだけではなく、早く決めてくれないと青河に影響がある、という切実な問題だ。
というのも、今のところ他国との繋がりも順調、戦争の予定もなし、国内も平和、という恵まれた環境の中、なかなかお妃選びに積極的でない碧龍にやきもきした皇帝が、側近である青河の父親に、
「息子が気に入るような妃候補を紹介しろ。」
と命じたからである。
かねてより息子の青河の嫁にと目を付けていた良家の令嬢を、皇太子の碧龍のために紹介することになってしまった。
しかも、碧龍は、青河とは違うタイプの、女性を虜にする外見に加え、物腰も柔らかく社交性も高い。
ああ見えて剣の腕もたつし、頭もよく、実のところ欠点らしい欠点がない。
その碧龍と見合いをした令嬢は、もれなく恋の病に懸かり、碧龍に断られたからといって青河と見合いをしてくれることはなかった。
碧龍は、見合いを断り続ける。
しかも、妙に相手をたてる断りかたをするものだから、相手が変に気を持ち続けてしまうのだ。
結果、青河は見合いから遠のく。
庚家に持ち込まれるのは碧龍との見合い話ばかり。
「一刻も早く、皇太子には相手を決めてもらいたい。もしくは、皇太子は見合いをしたがらず、青河にはお似合いの嫁候補をみつけたい。」
それが青河の父の悲願になっていったのだ。
「僕を差し置いて、青河の見合いか。初めてじゃない?」
「誰のせいだと・・。」
二人の時は、上下関係はある程度意識しつつも、やや気安くなる。
青河は、ため息を隠さない。
「俺だって、見合いの一つや二つ、しておきたいですよ。素敵な相手だったら、バシッと決めてきますから。」
そんな青河専用の見合い相手とはどんな人物か。
わくわく顔の碧龍に、ごまかせないと青河は諦める。
「平民の女性です。うちはいろんな書類を管理しますから、語学に堪能な女性を探していたそうで、書庫の管理人がよく通っているという女性の話をしたのに父が興味を持ったそうで。」
「ふーん、それで?」
平民の女性なら、普通相手にはできない。
「同時期に、出入りの商人から、親戚に本が好きでいろいろな国の文字を読み書きできる年頃の女性がいるという話を聞き付けて、名前を確認したらぴったり合致したようなんです。」
「へえ、運命的だね。」
「まあ、その商人は、あわよくば自分の娘を、と考えていたようですが、そちらは父の要望には合わなかったようで。」
それはそうだろう。
家庭教師をつけて、そのつもりで学ばせない限り、独学で語学を身に付けるのは難しい。
「しかも、龍華国の言葉を読み書きできるということで、ぜひにと、父から頼みに行ったらしいです。」
「それは、また・・期待が重いね。で?そのお嬢さんの名前は?」
「確か・・梨翠花さん、だったかと思いますが。」
「え?」
その名前を聞いた瞬間、ヘラヘラしていた碧龍の顔から笑顔が消えた。
「翠花?間違いない?」
「・・ええ。たぶん。」
「ねえ、青河。お願いがあるんだけど。」
「・・嫌な予感しかしないですけど、なんでしょうか?」
碧龍は男である青河すらドキリとするような笑みを浮かべた。
「その見合い、僕に譲ってくれない??」
その時青河の脳裏には、げっそりした顔の父が浮かぶ。
(父さん、俺、なんかやらかしたみたい。)
何をしたかは定かでないが、親思いの青河は心で土下座して、父に詫びた。