見合いの相手3
見合いが無事終わったことを父に告げ、眠りについた翠花は、翌日、皇居で一般に開かれている書庫にいた。
昨日の見合いで話をしたら、また『龍騎士の物語』を読み返してみたくなったのだ。
午前中はここで過ごして、午後からはいろいろ世話になった従姉妹の睡蓮に、菓子でも持ってお礼にいくつもりにしている。
今日の翠花は、動きやすさを重視したシンプルな服に、化粧を施していない素顔。髪は一つにくくり、眼鏡をかけている。
通常の翠花だ。
本をみつけ、読み始めると、徐々に周りの音が聞こえなくなり、翠花は本の世界に没頭し始めた。
「ふう。」
一冊読み終えて一息。
翠花が本を閉じたとき、
「こんにちは。翠花さん。」
声をかけられて顔をあげると、そこには信じられないくらいに目鼻立ちの整った美しい青年がいた。
その後ろにはこれまた精悍な顔つきの青年が付き人のように立っている。
「こんにちは?」
答えながら、翠花は首をかしげた。
向こうは、翠花を名前で呼んだ。
つまり、顔と名前が一致する程度には翠花を知っている。
(だけど・・。)
目の前の二人をじっと見る。
こんな美形と男前、いくらそういうことに疎いとはいえ、流石に見たら忘れないだろう。
しかし、記憶の中をいくら探してみても、見当たらない。
初対面のはずなのだが。
(なんだろう。周りの視線を感じるわ。)
興味しんしんな、いや、何だか熱い視線がそこかしこから。これは、目の前の男性たちにむけられたものだ。
翠花には時々、怪訝な視線が飛んで来る。
(いや、私、彼らとはなんの関係もないですよー。)
誰にともなく心の中で弁解していると、美形さんのほうが口を開いた。
「あれ?翠花さんだよね?人違い?」
「いえ、梨翠花は私ですが。」
「じゃあ、なんで・・。もしかして翠花さんて、本以外のことは興味がなければ忘れちゃうとか?」
ん?
と何かが引っ掛かっている。
美形さんの声。
どこかで、つい、最近聞いたような。
「・・あ!!」
翠花は思わず声をあげた。
その声としゃべり方はまさしく。
「青河さん!」
「・・この顔を思い出すのに、普通こんなに懸かるか?いて!」
男前さんのほうが、ぼそっと呟いて、直後顔を歪める。
机の下では美形さんのかかとが決まっているのだが、死角になっていて、目撃者はない。
「ああ、それでね。僕、君に謝らないといけなくて。」
美形さんは上目遣いになった。
「なんでしょうか?」
(こんなところで断るの?家にこそっと連絡がいくのでは?)
好きなようにしていいようなことは言ったが、見合いの話をこんなところでするのは、いささか失礼過ぎるのではないだろうか?
「ええと、まず・・」
「!・・あの!」
焦ったせいで声が大きくなってしまった。
「何?」
美形さんは首をかしげる。
「お返事なら、家のものに伝えていただければ。」
口早にそういうと、美形さんはにっこり笑う。
「大丈夫。問題ないよ。こっそり言うから。」
(いや、私は大丈夫じゃありませんけど?)
内心全力で突っ込みつつ、美形の圧力に屈してあわあわしていると、彼はさらりと言った。
「僕、庚青河じゃないんだよね。」
「へ?」
翠花はポカンとした。
目の前の美形の声としゃべり方は、間違いなく昨日見合いした庚青河のものだ。
しかし、それを裏付けるように後ろに控えていた男前さんのほうが、
「庚青河は、僕です。」
と続ける。
美形のほうが鳥のさえずりのような明るい声であるのに対して、今青河を名乗った男前は耳に心地よい低温。
昨日の人物ではありえない。
「僕の名前は、伯碧龍。君を僕の妻・・つまり、皇太子妃にすることにしたよ。」
美形さんは、破壊力のある笑みを浮かべながら言う。
書庫の奥の方で、誰かが倒れるような音がした。




