皇太子を止めるのは至難の業3
「はあ。・・。」
翠花は、窓から、去っていく碧龍達を見て、重いため息をついた。
海里の事件から3日。
助け出された翠花は、いろんな意味でパニックになっていたものの、一晩経つとかなり回復した。
涙目で何故か謝罪を繰り返す祖母から、海里のことをいくつか聞いた。
祖母は、海里の交友関係も、思惑も、かなり正確に察知していた。
ただ一点だけ、碧龍の登場で海里があんな風に思い詰めて行動することが読めなかったと言った。
翠花も今なら、海里の言動に、違う意味を読み取ることができる。
祖母を責める気にも、海里を責める気にさえ、実はなれないでいる。
たぶん、海里の目を見てしまったからだ。
それよりも、見当違いな解釈をして、海里を追い詰めた自分が嫌だった。
そして。
「あいつも、難しい男だなあ、翠花。」
部屋にはラウがいる。
あのあと、また熱がでて、ほとんどの時間を部屋で過ごすラウに付き添って、翠花もまた、引きこもっていた。
封家の使用人が買い物その他、大抵のことはしてくれる。
積極的に翠花を外に出そうとしていた祖母も、さすがに何も言わず、翠花の引きこもりを許していた。
「・・碧龍様は、どうなさりたいのでしょうか?」
翠花がぽつりと呟く。
ラウは、にいっと唇の端をあげた。
「翠花?むしろ、そこだけははっきりしているのが、あいつの唯一の美点だとおもうが?」
翠花は、ハッとして顔を赤らめた。
そうだ。
翠花が疑いようもないほどに、碧龍は翠花を求めている。
分からないのは、自分のほうだ。
「翠花。お前が選んだらいい。今からどんな方向にだっていける。翠花は、どうしたい?」
ラウは、しっかりした声で告げる。
「・・もし、碧龍様が、普通の青年だったら、きっと嬉しくて、気持ちを受け入れていたと思います。でも、私には皇太子妃や、ましてや王配になることなんてできません。」
そう言えば、ラウは自嘲めいた笑みを浮かべた。
「それ、本人には言わない方がいいぞ。あいつは、俺に近い性をしている。本気で皇太子の座を捨てて、お前を手に入れに来かねない。」
その言葉は、ラウの若いころ、そう言われたかったという思いが見える。
母親の恋の話を翠花は知らない。
だが、自分でももて余す得体の知れないいろいろな感情の正体について誰にも聞けない今、母が無性に恋しかった。
◇◇◇◇◇
「・・だめだ!手を打たなくては!」
碧龍は限界を迎えていた。
翠花に会えないことにも。
そして、視察の期限についても。
「まあ、会ってもらえないんじゃ、どうしようもない・・いたい、いたい!」
側で心の声を洩らす青河の足を無言で踏む。
もっともなことを言っているが、碧龍には時間がない。
(できるだけゆっくり心を開いてもらいたかったが・・。邪魔が入るとは!!)
海里にやはり殺意を抱いてしまう碧龍の目に、青河は気配を消して、火の粉を避けることにする。
(まだ、切り札はある。)
碧龍は、手に持った一枚の書類を、大事に胸元にしまった。




