皇太子を止めるのは至難の業
碧龍をこれ以上刺激しないため、碧龍が翠花に気をとられている間に、青河は手際よく無力化した男たちを拘束し、一ヶ所に集めた。
海里も一緒に。
先ほどのやりとりと碧龍の殺意がさすがに堪えたようで、海里には覇気がない。
「さて。どうしましょうかね。」
「刑吏を呼んで、任せたらいいだろ?」
独り言のつもりが、助言があって驚く。
ラウが、椅子に腰かけていたのに、青河は気づかなかったらしい。
気配を消していたようだ。
(さすがは王族・・か。)
しかし、この状況で自分だけ場を離れる気にはなれない。
「まあ、とりあえずは翠花さんを送り届けましょう。」
そう言いながら部屋に行きかけて、中をみた青河だったが。
(碧龍様がまたやらかしている!!)
凍りついた青河は、とりあえず頭を抱えてうずくまった。
◇◇◇◇◇◇
翠花は困っていた。
とりあえず眼鏡をかけ、碧龍の上着を着せてもらい、シーツをあげて落ち着きを取り戻したが、碧龍が怖い。
「あ、あの・・。来ていただいてありがとうございます。ご心配おかけしてしまって。」
「海里、だっけ?やつにされたこと、全部言って??」
「え?あの、特に何も!」
「じゃあ、潰すのは目だけでいいのかな?」
「どこも潰さないでいいです!!」
「君の肌を見たのに?」
翠花の背筋がぞわぞわする。
目の当たりにすれば分かる。
先ほど海里に斬りかかった碧龍は、本気だった。
(でも、駄目だわ。何とかしないと。)
碧龍は怒っている。
それが翠花を思ってのことなのは疑いようもない。
一方で、海里の事情を思うと、ただ断罪するのは何とか避けたかった。
(海里君は、たぶん、自分のためにこんなことをしたんじゃない。)
それを分かってもらわなければ、この事件は、みんなを不幸にして終わってしまう。
「碧龍様。来ていただいて本当に嬉しかったです。怖かったですし、自分が情けなかったですし。自分の迂闊さと無力さが嫌になります。」
言葉を選びながら、感謝を伝えると、碧龍は寝台に腰かけて話を聞いてくれる。
「無事で良かった。遅すぎたくらいだ。」
そう言って翠花の頭を撫でた碧龍の空気は、先程よりいくぶん和らいでいる。
(聞いてもらえるかな・・。)
翠花は、声が震えるのを必死に抑えながら碧龍を見た。
「海里君のこと、私は何も分かっていなくて。海里君は、たぶんお父様のことを思ってこんなことをしてしまったんです。」
「・・だから?」
碧龍の声の冷たさにまたぞわりとしながら、翠花は一生懸命言葉をつなげる。
「私の母の行動が、きっと回り回って海里君たちを傷つけてしまいました。私はそんなこと、全然知らなくて、私がもう少しそういう海里君の気持ちに気づいていたら、きっとこんなことには・・!!」
そう言い募っていた翠花は、急に視界が変わり、しゃべれなくなってしまった。
一瞬何があったか理解できなかったが、寝台に押し倒されて、唇をふさがれている現実を理解して、頭が真っ白になる。
「んう?・・はあ」
「・・不愉快だ。それ以上あの男の名前を口にしたら、もっとすごい口づけする。」
(へ?・・もっとって・・え?え?)
唇を離してこちらを見下ろす碧龍の目に、今まで誰からも向けられたことのない暗い熱を感じ、目がそらせなくなる。
完全に固まっていると、碧龍は、はあ。とため息をついた。
「君は、もっとちゃんと自覚した方がいい。俺は君を逃すつもりはないし、ましてや誰かが奪うなんて、絶対に許さない。ちゃんと手綱をつけないと、どうなっても知らないよ?」
怖がらせるつもりはないから、今は退いてあげるけど、とささやいて、碧龍は体を起こし、翠花を抱き上げる。
(は、初めての口づけ・・。わわわわ・・。あああ。)
その腕の中で、何なら今すぐ気絶してしまいたいと思いながら、翠花は無になることに集中した。
大事なときに止められず、死んだ顔で見てなかったふりをした青河の後悔は、いつも先に立たず、である。




