運命の目的4
鳳白国の皇帝と話をつけ、領主の館にある碧龍の部屋にて。
翠花は碧龍に追い詰められていた。
初めは、今回の一件を報告するために、細かいところを確認したいという理由で部屋に呼ばれたのだが。
(青河さんがいない。・・あれ?二人きり??)
最初から、翠花は動揺している。
「翠花。その・・今回は、いろいろ力になってくれてありがとう。」
碧龍は存外穏やかに、お礼を言った。
「あ、いえ。ちょっとでもお役にたてたなら良かったです。」
「・・・・・・。」
「じゃ、じゃあ、私はこれで。」
翠花は逃げるように、その場を離れようとしたのだが。
「なんのために、僕がここまで来たと思ってるの?」
碧龍が行く手を素早く遮るかたちで、逃げ場が泣く無くなってしまった。
「えーと。今回の件を予見して、西の領地を視察にいらしたのですよ・・ね?」
「違うよ。」
(え?違うの?)
碧龍は、目をそらさない。
「君を追いかけてきたんだ。翠花。」
「なっ!?」
思わず碧龍を直視して、目がそらせなくなる。
「僕は、本気だよ。君に会いたくて、青河の名前を使ったこと以外は、嘘は一つもない。君を手放したくないと思っている。」
「・・私には大した能力はありません。読みたい本が読めるだけです。役に立ちませんよ?」
皇太子がわざわざ妃にするほどの力ではない。
なんとか理解させようと試みる。
「・・やっぱり分かってないよね。」
碧龍は額に手を当てるも、今度は我慢強く続けた。
「10年だよ。翠花。僕は10年、君を思い続けてきたんだ。」
「・・10年?え?それってどういう・・?」
「そこからだよね。翠花。五歳か六歳くらいの時に、皇宮の書庫にいたことはない?」
「五歳か六歳・・。えーと。確かに父が皇宮で仕事をしていた時があって、その頃は父を待つ間、よく書庫にいた記憶は、あります。」
よく来ていたのか、と驚きながら、碧龍は続けた。
「その時に、同じ歳くらいの男の子と、しゃべらなかった?」
期待を込めて、碧龍は翠花を見るが、翠花の顔は困惑している。
「だよね?いいんだ、分かってた。」
「私、で間違いないんですか?別のご令嬢では?」
「いや、君だよ、翠花。」
あんな風に、まっすぐ話す少女は、他にはいない。
「僕はね。自分で言うのもなんだけど、一度教われば大抵のことは理解できたし、記憶力も高い。わりと苦労せずになんでもできるタイプなんだ。」
(まあ、そうなんだろうな。)
と翠花は思う。
「できるから、特に何も感じない。淡々とこなして、周りからは褒められて、それで普通だった。要するに、執着というものがない。」
「なんだか、すごいことをさらりと・・。」
「でも、君と出会って初めて、そんな自分が恥ずかしくなった。」
「なぜですか?あ!まさか過去の私がすごく失礼なことを??」
だったら不敬罪になるかもしれない。
翠花は冷や汗をかく。
しかし。
「一瞬だったよ。まっすぐ見つめられて、『歴史上の人物で誰が好きですか?』と君に聞かれた。僕にとってはただの情報でしかなかった歴史に、君は当たり前に感情を抱いていた。」
碧龍にとっては、相手が満足する答えが出せないという初めての経験だった。
ごまかしが聞かないと、本能的に思った。
「ささいなことだけど、君が僕を変えた。君に答えられるようになりたいと思ったから、ただの知識をもっと繋げたり、想像したりするようになった。」
碧龍には、その時、その問いを『どうでもいい』と思うことはできなかった。
なぜなのか、その時は分からなかったが、今、再び翠花に会って理解する。
碧龍は、翠花と分かり合いたかった。
翠花の話すことを理解し、同じ目線で自分の話を聞いてほしかった。
「今の僕の根幹に、君は大きな影響を与えている。今も、いつもどこかで、翠花ならどう感じるのか問いかけていることがある。・・君は責任をとるべきだよ。」
なんとか言いきって、碧龍は翠花の顔を見る。
翠花は、目を潤ませてこちらを見ていた。
頬も上気している。
(かわいい・・。)
「嬉しいです。私のことを、そんな風に思って下さっていたなんて。私は、てっきり、能力の過剰評価をなさっているとばかり。勘違いして、誤解していました。・・ありがとうございます。」
碧龍は、柄にもなく胸が高鳴る。
「じゃあ、僕の妃に・・!」
「いや、それは、無理です。」
翠花のあっさりした返答は、碧龍の頭を真っ白にした。
「・・・・・・は?」




