視察と解読2
「ねえ。翠花。ある国で投獄されている前皇弟が脱獄して、勢力を整えるまで身を隠したいと考えている。君が読んだことのある話の中で、似たような時、どんな選択をその人物はする?」
「え?」
(いや、そんな質問されても困るでしょ?)
青河はため息まじりにたしなめようとしたのだが。
「そうですね・・。皓紅国では、一時、黎家と哥家という二つのの勢力がそれぞれに王を立てて激しく争っていました。勝った側の将軍、黎炎翔には弟、翔閃がいましたが、彼は武勲を立てすぎて兄に嫌われ、謀反人の汚名を着せられて命を狙われました。その時に彼が身を寄せたのは、幼少期に可愛がってくれた北の一大勢力の主、晋家です。」
(え?答えるの??)
「『哥家物語』かな?他には?」
(え?分かるの?)
「他には・・。玄石国の革命家が暗殺されかけたため青風国に一時いたという物語がありました。史実と絡んでいたので事実かもしれません。」
(え?まだあるの?)
「『革命家の手記』だね。まだある?」
(分かるの?)
「詐欺師が脱獄して、名前や見た目を変え、祖国のために国内で違う人物になりきる話も・・。」
「それは初めて聞くな。面白そうだね。」
「あの・・ついていけないんだけど・・。今回の件とその話に何か関係が?」
素直に横やりをいれたのは海里だ。
途中から翠花との会話を楽しみつつあった碧龍は、我に返り、もっともらしい顔を作る。
「普通に誰かが考え付くようなことは、とっくに別の誰かが閃いている。つまり、大抵のやり方は、本に既にあることがほとんど、ということだよ。」
脱獄や、逃亡は、長期戦だ。
いつ見つかるかを警戒しながら潜伏することになる。
「逃げる先は、絞れる。人は、全く未知の場所には隠れない。自分がよく知る場所、もしくは絶対の信頼を置く人物がいる場所を選ぶ。」
「えーと。そうだとしたら、ですよ。青風国を選んだりしますか?」
青河が口を挟んだ。
今の議題は、『狼の支度が調う』の暗号が、この地で見つかった理由、である。
「・・あの。その皇弟殿下、もしかしたら祖母と関わりがあるかも、しれません。」
恐る恐る切り出したのは翠花である。
「どういうこと?」
碧龍は翠花を見つめた。
「家は、鳳白国との関わりが強いんです。私の眼鏡や髪を整える道具は鳳白国の方がそろえてくださいました。祖母なら何か、知っているかもしれません。」
話すか迷ったのは、彼らがどうするつもりかまだ分からなかったからだ。
でも、もし、皇弟殿下が脱獄して祖母のところに身を寄せようとしていたら、国同士の争いに繋がりかねない大事件である。
祖母は、聡明で、いい人だ。
早めに碧龍たちが、暗号の事実をつかんでいることを知らせておくべきだと思った。
そうすれば、何かに巻き込まれそうになった時、より賢い判断ができるはずだ。
「翠花の祖母・・は、封家の奥様と呼ばれている人、だったね。ぜひ、お会いしたい。」
碧龍の言葉で、翠花の家に行くことになる。
「えーと。僕は、用事があるので遠慮しときます。」
珍しく引き気味の海里を置いて、碧龍、青河、翠花の三人で翠花の祖母の家まで行くことにする。
「あ!そうだ!海里さん。この本はもう持っていてもいいですよね?」
出発前に、ちゃっかり鳳白国の若い店員さんからもらった本を持って、翠花は二人を家に案内した。




