視察と解読1(碧龍視点)
「お前の個人的な事情だけで視察を決めたわけではない。」
皇帝に呼び出されたとき、わざわざした前置きは、今回の視察に皇太子への親心が加味されていることを逆に確実にしていた。
(まあ、本当にそれだけじゃないんだろうけど。)
青河は後ろに控えながら頭の中だけで推察する。
どうやら、鳳白国の動きが気になるようだった。
「鳳白国の情勢は、把握しているか。」
皇帝の言葉に、碧龍は淀みなく答える。
「今の皇帝になってからまだ一年足らず。彼が皇帝になる前に、前皇帝の弟が暗殺の罪で投獄されています。国内では弟の方が皇帝にふさわしいという一派がいて、反乱の予兆あり・・です。」
(こういうところは、ちゃんと皇太子なんだよなあ、この人。)
満足げに頷く皇帝を見ながらつくづく思う。
西の地は、鳳白国の行き来も多い。
他国の争いに、下手に巻き込まれるわけにはいかない。
「お前の肩書きは、いざという時には使える。何かつかんだら、こちらの利になるように動いてこい。」
(おや?これはなかなか、大変な視察になりそうだぞ?)
青河は、気を引き締めたのだが。
「なあ、青河。翠花は、僕をどう思ってるのかな。」
「翠花に、僕は嫌われているんだろうか。」
「出会ったら何て言おう。やはり謝るべきか?」
「いや、謝ったら見合いも求婚も冗談だと思われるんじゃ?」
「翠花、元気にしてるかなあ。」
「ああ、なあ、青河。どうしたらいいんだ!」
(うるせえ。)
馬車の中で、ひたすら碧龍から飛び出すのは翠花のことだ。
初めこそそれなりに考えてフォローしたり、作戦を考えて言ってみたりしていた青河は、途中から、はあ、とかええ、とか、相づちしかうたなくなった。
碧龍は、無限に思考が行ったり来たりしている。
「会ってみなきゃ分からないでしょ?こちらの思いも満足に伝えられてないんですから。」
(まあ、この人、向こうから寄ってくるのに慣れすぎてるからなあ。また暴走しなければいいけど。)
青河は、貧乏くじを引かされる自分が容易に想像できて、バレないようにため息をついた。
西の町に着くとすぐに領主の家に案内され、そのままその家に滞在することになる。
荷物を置くと、早速主要なところを案内してもらうことになった。
皇帝は、領主に対しても全面的な信頼があるわけではないようで、皇太子であることは伏せ、王都の官吏二人による視察となっている。
まだ若いため、何か重要な案件があるのではと勘繰られることもない。
研修の一貫、位の位置づけだが、領主は気のいい人物で、自ら案内をかってでてくれたのだ。
「私にもお二人と同年代の息子がいるんですが、チャラチャラと遊び回ってばかりで。ぜひ、出会って色々指導してやってください。」
社交辞令にしては、真剣な顔で領主は言う。
(領主の息子か。)
その時は、二人とも大して関心はなかったのだが。
「なにかの呼び方なのかな。これだけじゃなんとも・・。」
「そうですね・・。」
翌日。
「翠花の声がした気がする」
と言ってすたすた行ってしまった碧龍に、
(ああ、なんか末期だな・・)と思いながら青河が追いかけて、扉が開いた部屋にはいると、なんと本当に翠花がいた。
しかも、男と二人で。
何とも言えない空気の中、案の定暴走して、海里を牽制にかかる碧龍を抑えて話を整理する。
海里は、碧龍とは別のタイプで、あきらかに人好きのする・・言ってしまえば絶対にモテるタイプである。
しかも、どうみても、翠花に気がある。
(翠花さん、イケメンホイホイかよ!?)
王都で見たときとは雰囲気も明るくなって見違えた。
そんな翠花に、うまくアプローチできないまま、それでももたらされた情報は、『仕事』に関わってくるもののようだった。
『狼』は、鳳白国では基本的に嫌われものだ。
家畜を襲うからである。
しかし、一方で、『ワル』『ならず者』への憧れを喚起する言葉でもある。
「『狼』の支度が調う・・。今、鳳白国で、『狼』と言えば。」
碧龍は一旦言葉を切り、自分でも確かめるようにゆっくり続けた。
「投獄されている、前皇帝の弟殿下のこと、だ。」
「待ってください。ならば、普通に考えれば・・支度が調うって、『脱獄』になりませんか?」
翠花が呟くように言う。
この場にいる者はみな、確かに、と思いながら、その暗号が青風国の国境の町で見つかった意味を考えていた。




