表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私は戦うダンジョンマスター  作者: もちもち物質
終わりのダンジョン
121/135

121話

 しばらく、魂砂時計を眺めていた。

 ……辻褄は合う。

 つまり、『邪神の声』とやらを聞いた『静かなる塔』さんや『常闇の洞窟』さん、『恋歌の館』さんは、それぞれ何をしていたかと言えば、即ち、『魂の消費』。

 ダンジョンを経営していれば、自然と魂を消費する。

『静かなる塔』さんは割と消費の少ない経営体制をとっていたけれど、他2つのダンジョンは、もろ、消費を行っていたはず。

 そして、消費された魂は……。


 ……ダンジョンは、邪神の力の顕現らしい。

 ということは、そもそもこのダンジョンで起きている不思議な事象、それら全ては、邪神の力によるものなのではないだろうか。

 邪神の力でダンジョンを改築し、トラップを仕掛け、モンスターを作り、そして人間を殺す。

 仮に、邪神の力がこのダンジョンの根幹にあり、邪神がこれらのダンジョンを動かしている、と考えよう。

 では、それは何のために。

 ……明白だ。

 邪神がダンジョンに力を貸しているのであれば、その代価は当然、『魂』ということになる。




 魂の消費は、邪神への供物。

 邪神への対価として魂を捧げて、ダンジョンは邪神の力を行使している。

 つまり、ダンジョンで魂を消費すると同時に、邪神は魂を得て、復活へと近づいていくのだろう。




 ……という、妄想をしてみた。

 所詮は、ただちょっとだけ辻褄が合うだけの、根拠のない妄想でしかない。

 けれど、あながち間違ってもいないのではないかな。

 ……ダンジョンとしての私の感覚が、なんとなく、そう、告げている。




 となると、考えなくてはいけないことが山のようにできてしまう。

 ……邪神復活の材料次第では、私は邪神と戦う羽目になりそうだから。




『世界のコア』が邪神復活に必要ないなら、問題ない。

 私は私が居た世界を復活させて、邪神も復活して、WIN-WINの関係で終了。

 邪神復活にとてつもなく貢献したなら、邪神だって私の世界を見逃してくれるんじゃないだろうか。戯れに殴られる可能性もあるから油断できないけれど。


 ……でも、『世界のコア』が何らかの材料になるのなら、当然、邪神と私は相成れない。

 私は私の世界を復活させるために『世界のコア』を使いたい。

 邪神は邪神を復活させるために『世界のコア』を使いたい。

 大喧嘩間違いなしである。


 けれど、『世界を復活させる』ために魂を使った瞬間、邪神は復活に必要な魂を得るとしたら、邪神は復活できない気がする。

 何故なら、その時には『世界のコア』はもう使用済みだ。

 その場合、邪神は『半復活状態』みたいになるのかな。その状態で、『世界のコア』および私の世界を狙ってくる、かもしれない。


 ……復活前の邪神がどう出てくるのかも分からないし、そもそも復活していない邪神が出てくるかも分からないし。

 けれど、さっきの仮説に基づくならば、『世界を復活させた瞬間に邪神が出てくる』可能性だってあり得る。

 今の内に対策を考えておいた方がいいかもしれない。




 ダンジョンである私の手の内が分かっている、ダンジョンの産みの親たる邪神に対して、どうやって戦うのかは……すぐに結論が出た。

 幸いなことに、時間はある。

 そして、人手も、お金も、十分にあるのだ。

 更には、経験も。




 最初に、最初のダンジョンに戻った。

 相変わらず、『世界のコア』はそこにある。

「久しぶり」

 表面を撫でると、コアの中に青い光がちらり、と瞬いたように見えた。

「放ったらかしておいてごめんね」

『世界のコア』を拾い上げる。

 これから、『世界のコア』は、私が肌身離さず持ち歩くつもりだ。

 ダンジョンの中に置いておくのは、少し危険な気がするから。


『世界のコア』を持ち歩くため、匠とダイス君に協力を頼んだ。

 ダイス君……サイクロプスは、鍛冶が得意な魔物、らしい。大きな体の割に、繊細な作業ができるみたいだ。

 本人にも聞いてみたのだけれど、多分できそう、みたいな反応を貰ったので、匠と一緒に作業してもらっている。

 作業場所は、ダンジョンの外。

『王の迷宮』から離れた位置。『魔銀の道』との間らへん。勿論、ここに他のダンジョンが無い事はもう調査済み。

 そこでダイス君と匠は、私の《フレイムピラー》を炉にしながら、合金をトンテンカンカンやっていた。

 作ってもらっているのは、『ネックレス』よりも短い『チョーカー』。

 そこに『世界のコア』を嵌めこめるようにしてもらおうと思っている。

 首に着けていれば、『世界のコア』を攻撃されることもそうそう無い。攻撃されるときには私がもう死んでいる。

 そして、リリーが守りやすい位置でもあるし、何かと便利だ。万一落としてしまってもすぐに気づけるし。

 ……ということで、しばし、なんだか楽しそうな匠とダイス君を眺めながら、私は炉の役に徹していたのだった。




 そうして完成したチョーカーに、『世界のコア』を嵌めこむ。

 金とも銀ともつかない地金に、青いコア。

 リリーとの距離が近い分、見た目としてはリリーと一体化しているようにも見える。

 どうせ普段はボレアスで隠れる位置だから、見えないのだけれど。

『世界のコア』が肌に触れていると、なんとなく落ち着く。

 ……もっと早く、こうしておくべきだったかな。




 さて。

 なんだか元気が湧いてきたところで、早速、作業に取り掛かる。

 テオスアーレの滅びた都を訪れて、必要なものを漁っていく。

 足りないものは、ダイス君と匠に作り足してもらおう。


 ほしいものは、大体、金物屋、鍛冶屋、日用品店、それから民家や農家にあった。

 古いものは手入れして、壊れているものは……金属として資材にする。

 ……それらは、つるはし、くわ、斧、それから、スコップ。

 少し久しぶりに握ったスコップの柄は、案外しっくりと手に馴染んだ。

 さあ、がんばるぞ。


 作業場所は、『王の迷宮』と、最初のダンジョンの間あたり。

「ちょっと大仕事になるけれど、付き合ってね」

 装備モンスター達の他、強化ゴーレム達。

 どうせもう相当な事が無い限り襲撃されないであろう『王の迷宮』からはクロノスさん。それからこちらもやはり、もう襲撃されないであろう『静かなる塔』からダイス君。

 それぞれのダンジョンに、防衛要員である強化ゴーレムやブラッドバットを適宜配分して、それ以外の戦力は全て、こちらでの作業に従事してもらうことにした。

 どうせ、オリゾレッタを滅ぼすまでに大分時間がかかるのだから、それまでの間にできるだけの事をしておこう。

「がんばるぞー」

 おー!という声は返ってこなかったけれど、たくさんのゴーレムが片手を上げて、無言で応えてくれた。

 ……あ、ダイス君だけは「うがー!」みたいな声を小さめに上げてくれた。


 ……これから、ここにはダンジョンができる。

 多分、そんなに大きなものにはならない。

 けれど、この世界で唯一の……邪神の力が関わらないダンジョンになる、と思う。




 そうして、しばらく頑張り続けた。


 オリゾレッタの川が下流に至るまで濁るようになって、都でも水質汚染が問題になって、アドラットの町には移住者が続々と到着してきていた。

 私は土木作業の合間にアドラットのお屋敷ダンジョンに足を運んで、その様子を見ながら作業を進めていた。

 ……一度、運よく私がお屋敷に居る時に、訪問者があった。(後で聞いたところ、私が不在の時にも人が来て、不在の時には諦めて帰っていたらしいのだけれど。)

 そして言う事には、『このお屋敷を譲ってくれないか』とのこと。

 片手に魔鋼貨数十枚を携えて、魔鋼貨をちらつかせながら交渉してきたのだけれど、当然、断固お断りした。


 アドラットのお屋敷ダンジョンを先に購入しておいてよかった。

 当然だけれど、アドラットの町はそう大きくない。

 カドランの町や都の人達を全員収容できる広さは無いのだ。

 だから当然、水質汚染に伴って人が移住してきたこのアドラットの町は……土地が無くなっている。

 地価が高騰するならまだいい。お金には困っていないから。

 でも、そのせいで中央の、丁度いい場所にダンジョンを作れなくなったら、それは大きな問題だから。




 現在、アドラットの町は、絶賛開拓中である。

 セイクリアナの都が、都にたくさんの町が固まってくっついて1つの大きな都市になっていたように、アドラットの町の周りは開拓され、カドランの町や都に人達が住み、大きな都市へと変わりつつある。

 家が建ち次第人が入るような状態だ。

 この調子で人が集まれば、オリゾレッタの国の精霊を殺すこともできるだろう。




「あっ」

 ある日の作業中、思わず声を上げた。

 久しぶりの感覚だったし、少しだけ驚いた。

「ちょっと行ってくるね。もしかしたら、お土産用意できるかも」

 でも、驚くよりも、嬉しい。

 ……新しく作った強化ゴーレム達は、まだ経験が足りていない。即ち、レベルが低い。

 だから、どこかでレベルアップさせる機会がほしかったのだ。

 今回はそれに丁度いいだろう。

 ……『清流の洞穴』改め、『濁流の洞穴』には、侵入者がやって来ていた。

 多分、オリゾレッタの国の、精鋭の兵士達だ。

 うまく生け捕りにできれば、万々歳。

 生け捕りにできなくても、防衛成功してしまいさえすれば、オリゾレッタの都が朽ちるのに一役買ってくれるだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ