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2.5





 小さな喉が、動いている。

 よく見ていないと分からないほど、僅かな揺らぎだ。

 少量ならば栄養補給、あまり飲み過ぎると毒ともなる。鬼として未熟である砂雨の身体には、彼の血は刺激が強く、今より幼い頃には発熱したことがあった。

 そろそろ頃合いか。これ以上ない優しい力で、奏歌は己の首から砂雨を引き剥がした。

 とろんとしていた瞳が、途端に不満を滲ませて彼を見上げる。

 ――――――――可愛い。

「砂雨」

「や!」

「終いだ」

「やぁ、まだいるの」

 言い聞かせようとするが、なかなか納得してもらえない。お預けが嫌だと、むずがって唇を尖らせている。

 やがて、そこまでしても一滴として貰えないことを悟ったのか、べそをかいて奏歌に縋りついてきた。


 可愛い。

 凄く可愛い。

 いつもこう素直だといいのに。

 そうは思っても、普段の気難しい彼女も可愛いのだから困ったものだ、と震える背を摩りながら眉を顰めた。

 今は、奏歌の腕のなかで、ぐすぐすと鼻を鳴らして拗ねている。

 同族間での血の飲み交わしを、伴侶に限っているのはこの為だ。弱い個体ほど欲望だけに忠実となり、人間でいえば強い酒を喰らったかのように変わってしまう者も少なくはない。

 赤く濡れた唇を拭ってやるも、その指を小さな手にとられ、きゅっと五本の指で握られる。

 ぷっくりとした唇が、躊躇いもなく咥えた。

「こら」

 咎める声に耳を貸したふうもなく、ちゅうちゅうと吸っている。

 こういうところが子供扱いされる要因だと、そう思い込んでいる彼女が、後で憶えていようものなら不貞腐れることだろう。最近はどうも反抗期なのか、大人ぶることが多く、それはそれで周りを和ませている。

 つまりは、砂雨は何をしても可愛い。そう奏歌は思うのだ。

 考えてみれば、当然のことだ。彼女は自分のただひとりの妻なのだから。


 表情には出さず惚気ている男の指を、砂雨は飽きもせずに吸っている。その執拗さに、奏歌は念の為、確認することにした。

 刺激しないように気をつけて、咥えられた指先で上顎を探る。

 やはりそれは杞憂だったようで、犬歯の裏には何の引っ掛かりもなかった。片方しかない彼女の牙は、きちんと収まっている。

 なら、いつまでたっても指を離そうとしないのは、単に口寂しいだけか。

 そう結論づけて、奏歌は凭れかかる小さな身体を片腕へと抱き上げた。彼の指を咥えたまま窺うように向けられた流し目は、幼いながらに女の誘う眼差しでもある。

 それを、拒む理由も見逃すつもりも奏歌にはない。成人をとうに迎え、彼らはれっきとした夫婦だ。例えそれが同族であろうとも、他の者に害される謂れもなかった。


 伴侶の血は、媚薬だ。

 ときに毒ともなる、甘やかな。








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