私を知らない私
「そんな……何してるの、ここで?」
源の問いにはまだ答えがなかった。目を見開いたまま、彼を見つめていた。
首を振って否定しようとしたが、うまくいかなかった。
在はベリルの長い短剣の柄に手をかけていた。気づかれずにここまで近づけた相手を、警戒していた。
「目的は何だ、女」
……
あの声、あの眼差し、あの顔。言葉の意味はわかっても、裏には理解できなかった。
「な……何のこと?」
「この学校の再導入とやらには、生徒を暗殺することも含まれているのか」
彼女の唇がゆっくりと開いた。
「何の話をしてるの……?」
在は彼女の困惑した表情を観察した。
(学校の仕組みではないのか? リターナーか? 生徒をあやうく暗殺するところだったのか?)
短剣を握る力を、少しだけ緩めた。
「お前は誰だ」
裏はわずかに震えた。虹彩と瞳孔が収縮した。
「わ……私が誰か、知らないの?」
「知っていたら、攻撃などしていない」
「そんなはずない……」
「嘘は言っていない」
「待って……ちょっと黙ってて」
裏は地面に落ちたナイフを見た。在もその視線を追った。二人とも黙り込んだ。
……
数秒が、二分に変わった。
「もういい?」
「ううん……どれだけ時間があっても、きっと……」
彼女はゆっくりと目を閉じ、何度か息をついた。
「ここで何してるの?」
「景色を見ていた」
「そういう意味で聞いたんじゃない。この場所のことよ」
「学校に通っている」
源はコートに目をやった。
「任務?」
「契約だ」
ナイフを在の方へ蹴った。
「私は生徒よ。リターナー」
(では、やはり危うくアキラの指示を破るところだったわけか)
「同じだ」
「クラスは?」
「暗殺者」
(そうか……それ以外あり得ない……なんで聞いたんだろう)
「私も同じクラス」
裏は彼の目を見て、反応を待った。
「それで隠密の腕か」
反応はなかった。
一度ため息をつくと、在の金色の瞳を見つめ、話を続けた。
「それで? 屋上で何してるの?」
「授業に出なければならないとは言われていない」
「混沌としすぎ」
「その通りだ」
「授業が終わるまで、ここにいるつもり?」
「そう決めた」
「あと六時間くらいある」
「時間は――」
「障害にならない」
在は視線を外さなかった。彼女は文を終わらせただけでなく、彼が思い浮かべていた言葉そのものを使った。
「お前もあの空気は好きじゃないんだな」
「疲れる。それに多すぎる――」
「動き」
今度は彼が文を終わらせた。違ったのは、裏がちゃんと反応したことだった。
「そう……動きが多すぎる」
両手を宙に上げた。
「それで、ここも今、動きが多くなった。だから別の場所に行く」
「ここがお前の縄張りなら、俺が出て行ってもいい」
「私のじゃない。好きにして。退屈してたところだから」
在は上げられた両手を見て、それから地面のナイフを見た。敵対的な動きをしないと示しているのだと理解した。
「なら、受け取っておく」
彼女はゆっくりと出口へと歩き、ドアの真正面で足を止めた。両腕をそっと下ろした。
「この世界に来て長いの?」
「三日と、今朝で」
「じゃあ、あっちの世界から来たばかりなのね」
「そうだ」
「……もう一つの人生、恋しい?」
「いや」
(そうよね……バカな質問だった)
「まるで、楽しいものじゃなかったみたいな言い方」
「楽しくはなかった。ただ、他を知らないだけだ」
「そう」
裏の視線がゆっくりと下がった。まるで目の前のドアを見つめているかのように。
「もしかしたら……別の人生もあったのかもね」
「そう言われている」
源はドアを開け、敷居のところで立ち止まった。
「それを思い出せるといいわね」
在は首をかしげたが、答える前に、彼女はドアを閉めた。今度は足音が聞こえた。遠ざかったことをわざと示しているのは明らかだった。
裏は立ち止まることなく、急いで階段を降りた。もう一つの隠れ場所へと向かう。その足取りは、もう少しで駆け足になりそうなほどだった。
体育館の裏にある、小さな隠れた場所にたどり着いた。それを隠す茂みをくぐり抜けると、座り込み、両手を顔に当てた。
うたた寝のために見つけたその場所は、いつもの落ち着きを一片も感じさせなかった。
瞼から手を離すと、開いたり閉じたりしながら、自分の手を見つめた。
まるで、今しがた知ったことを握りつぶせるかのように、強く握りしめた。
そうはならなかった。どれだけ探しても、疑う余地は見つからなかった。
「真情在……」
(あの人生で自分だった男が、どうしてここにいるんだ……?)




