プロローグ
フードを被り、仮面をつけた人影が、剣から滑り落ちて地面に倒れ込む死体を見下ろしていた。
死体の下にはすぐに血だまりが広がった。息を切らし、疲れ果てたまま、彼はもう一度周囲を見回した。
部屋中に、息をしていない者が七人。真っ二つになった者もいれば、壁に突き刺さった者もいる。中には、この惨劇から逃れるため、自ら命を絶ったらしい者までいた。
「依頼完了」
出口を捉えた金色の瞳が一度瞬いた。だが、一歩踏み出した瞬間、剣が手から滑り落ちた。
もう一歩踏み出そうとしたところで、そのまま地面に崩れ落ちる。
仰向けになり、天井を見上げた。顔を覆う仮面のせいで、息をするのもやっとだった。
「任務の報告はできそうにないな……まあ、ギルドは遠いし……」
まぶたがどんどん重くなっていく。
(これが最後の仕事か……村人を次々と失踪させていた貴族を殺す、か)
ゆっくりと一度息を吸い込み、訪れるものを受け入れた。
(ちょうどいい……この人生にも飽きていたところだ)
呼吸が止まった。
……。
(まだ思考が止まるのを待ってるんだが)
……
(……まだか?)
……
閉じた瞼越しにも、目を焼くような光を感じた。
(暗殺者が天国行き? 冗談にしても出来が悪い)
ゆっくりと目を開け、光に慣れようとする。
完全に目を開けた時、彼は目の前の光景に呆然としながら、あたりを見回した。
まず目に入ったのは、空に届かんばかりにそびえるガラス張りの建物だった。
煙を吐く馬車が絶え間なく行き交い、その音が街中に響いている。
地面は驚くほどきれいだった。
周囲には見慣れない服を着た人々がいて、驚いてはいるものの、怯れた様子もなく彼を見ていた。
「ママ、また出た!」
「指をさしちゃダメでしょ」
一人の若い女性が奇妙な長方形の板を掲げると、そこが一瞬光った。
「これ、話しても誰も信じてくれないよね」
突然、鋭い笛の音が響いた。
「再導入部隊です! 道を空けてください!」
(再導入? 何が起きている?)
「すみません。ここがどこかわかりますか?」
「いや……」
彼は、青い帽子を少し斜めに被った赤毛の若い女性を見た。
彼女は奇妙な音を立てる装置を持ち上げた。
「リターナーを一名確認。記憶がないようです。状態確認のため、本部へ移送します」
(リターナー? 俺の状態?)
「女……俺の居場所を教えろ」
彼女はそれを無視し、彼の服装に目を走らせた。
「服装は中世風。負傷している可能性があります。医療班をお願いします。……大丈夫ですか?」
「死んでいるはずなんだがな」
「ああ……なるほど……」
彼女は再び装置を持ち上げた。
「それと、服も必要ですね……」
もう一度、彼を見た。
「仮面を外していただけますか?」
(別に問題はないか……任務中でもないしな)
仮面を下ろすと、まだ少年にも見える若い顔があらわになった。
彼女は再び装置へ向き直った。
「若い男性用の服をお願い。ちゃんと清潔なの。変なのはやめてよ、ケイコ」
黒い箱のような装置を下ろし、手を差し出した。
「こちらへどうぞ。記憶が戻るまで、私がお手伝いします」
「記憶? 俺は自分の人生を覚えているが」
「たぶん、覚えているのはあっちの世界での人生。でも、こっちでの人生は覚えていない。――元の世界のほうは」




