第54話 ムーンサーベル! 朧月!
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すると突然、背後のドアが凄まじい音とともに吹き飛んだ。
ドゴォォン!
蝶番ごと外れたドアが床を滑り、壁にぶつかって止まる。
あまりに豪快すぎて、潜入作戦の「潜」の字も残っていない。
見ると、シマシマとバロンがそこに立っていた。
「姫様、助けに参りました」
「バウワウ!」
「な、なんだ!? おまえたちは! この娘の仲間か!?」
突如ドアをぶっ壊して入ってきたバロンとシマシマに、さすがのダークフロッギスも躊躇いだ。
悪の教祖とはいえ、ドア破壊からの突入は想定外だったらしい。
「シマシマ、バロン、ナイスタイミングだ! テンを引き離して」
二匹がそれぞれテンの頭の触角を口で咥えると、一気に引っ張ってルナから引き離した。
触角を抑えられてもなお、ジタバタと暴れているテンにルナが駆け寄る。
「テン、しっかりして!」
テンの頬を思いっきりビンタした。
バッチーーーン!!
「うわっ、痛そー」
シマシマの顔が歪む。
しかし——
「?*+@¥$$%&」
まったく効いていない。
それどころか、暴れ方が先ほどより激しくなっているような気がする。
「くそ~、ならばこれならどうだ……。テン、ごめん!」
ルナは思いっきり拳を振りかぶると、今度は反対側の頬に左フックを炸裂させた!
ゴッ!!
鈍い音とともに横に吹っ飛ぶ。
テンは白目を剥いてバタンと倒れると、電池が切れた人形のようにピクリとも動かなくなった。どうやら気絶してしまったようだ。
ここに至るまでの状況がわからないシマシマにとって、テンがルナにボコられる意味は当然わからない。
とはいえ、左フックはいかがなものか……。
「姫様、それはいくらなんでも……」
——などとシマシマが言うと思ったら大間違いだ。
一ミリもテンのことを憐れんでいない。
むしろ、おそらくは自業自得だろうと踏んでいる。
それほどまでに、シマシマはルナに絶大なる信頼を置いていた。
「おい、小娘、これを喰らえ!」
テンが使い物にならなくなったとわかると、今度はルナに照準を定める。
先ほどテンに浴びせた光線だ。
ルナの身体に青白い稲妻光線が注がれる。
「ケロケロケロ。これでおまえも俺様の意のままだケロ」
ダークフロッギスは、勝ち誇ったように次の指令を出した。
「ではでは、その場でタコ踊りでもしてもらおうか、ケロ」
「……」
「タコ踊りでもしてもらおうか、ケロ!」
「……」
「タコ踊りしろっ! ケロ!」
「……」
ダークフロッギスのパワハラまがいの指令が発動されたが、当の本人にはなんの変化も起きない。
ルナはただ腕を組んで立っている。ものすごく普通に。
「なぜだケロ! そんなバカなケロ!」
ダークフロッギスは、黄色い目を見開き、縦に細長い瞳孔が丸くなった。
明らかに動揺している。
「残念ながらあたしはフロッグジュースを飲んでいないのでね」
「ふふん♡」とドヤ顔を決める。
「なんだってケロ!?」
そのとき、ルナの頭の中に誰かの語りかける声がした。
耳で聴こえてるのとは違う。厳かな声音が直接脳に届いてるような感覚だ。
(えっ? なに……?)
戸惑いながらも、《《その声》》に意識を寄せる。
そして——
「……よし、やってみるか」
と呟くと、背に差してあるムーンサーベルを引き抜き両手で天高く掲げた。
そして、声高に叫ぶ。
「ムーンサーベル! 朧月!」
するとムーンサーベルがぼんやりと光を放ち始める。
それはまるで、霞や雲に覆われて揺らぐ月光のような輝きだった。
「ケロ! ゲロ! ゲロゲロッ」
突然、ダークフロッギスが気味の悪い声を漏らすと、口からドス黒い煙……、いや、まるで黒いエクトプラズムのようなものを吐き出した。
しかも体が硬直しているのか、立ったままガクガクと痙攣している。
スイカのような黒目はひっくり返り、白目……いや、黄色目を剥いている。
見た目的には相当気色悪い。
ムーンサーベルは、その黒いエクトプラズムもどきを次々と吸い取っていく。
「す、すごい……」
その光景を目にしたシマシマが息をのむ。
バロンは、警戒心マックスで唸っている。
テンは……まだ気絶したままだ。
やがて、黒い煙がすべて消え去ると、ムーンサーベルの光も揺らめきながら消えていった。
ダークフロッギスは、その場で膝をつき、ぐったりとうなだれた。
「ダークフロッギス、おまえの体内のデルモなんとかっていう物質と、謎の妖力はすべて抜き取ってやったわ」
ルナが胸を張ってドヤ顔で言い放つと、ダークフロッギスは顔を引きつらせた。
「なんだって……? ……ケロ?」
「だからあんたはもう……ただのカエルよ!」
「ただのカエル!? ケロ?」
一瞬、考えたあと……
ガーーーーン!
ダークフロッギスはショックのあまり、再び黄色目を剥く。
すると、横で気絶していたテンがうつらうつらと意識を戻す。
「あれ……? どこや、ここ……?」
「テン、洗脳が解けたのね!」
ルナは思わず駆け寄り、そのまま勢いよく抱きついた。
さっきまで拳を振るっていた相手とは思えない抱擁である。
「……な、なんやねん、いきなり……恥ずいからやめ! やめれ!」
テンは赤い顔をさらに赤くしてルナの腕の中でもがく。
その様子を見て、シマシマはようやく胸をなでおろした。
「それにしても姫様……、先ほどの技はどうやって習得したのですか?」
感動の余韻に浸っているシマシマが尋ねてきた。
魔術というべきか、妖術というべきか、あんなものは見たことがなかった。
「習得とかじゃなく……、たぶんムーンサーベルが教えてくれたんだ」
(そう、あの時、頭の中に語りかける声がした。『ルナよ、ムーンサーベルを掲げ、朧月と唱えよ』と……)
そのとき――
「なあ、ルナー」
まだ腕の中にいるテンがルナの顔を見あげる。
「……なんや知らんけど……顔がめっちゃ痛いねんけど……特にこっちの右の頬が——」
と、最後まで話し終わる前に、ルナが無言でテンを突き飛ばす。
テンは後ろに三回ほどゴロゴロと転がり、最後はうつぶせで止まった。
「よし、スズカ村に帰るぞ! 撤収ー!」
ルナはまるで何事もなかったかのように宣言し、そのままスタスタと出口へ向かう。
テンは、ワケがわからないといった表情でシマシマとバロンを見つめる。
涙で潤んだその目にいたたまれなくなった二匹は、無言でその場を立ち去った。
「なんなん!? えっ? なんなんいったい!」
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